41.ヒヨコたちははばたく準備をする①
年明け最初の登校日。寒さに震えながらもハンターコースの生徒らは登校した。午前中だけではあるが大事な話があるのだ。なお、卒業まで授業自体はないが2週間に1日の登校日がある。
担任が教室に入るとみな席に着く。
「あけましておめでとう。さーて年も明けたから卒業課題を残すのみだぞー」
卒業課題とは、ハンターコースの生徒が卒業研修として各地のダンジョンへ行って、現地での社会勉強だ。そのレポートの提出が課題だ。
内容は何でもいい。
自分が感じたこと。自分の行動の良い点悪い点。ギルドとのやり取り。魔物との戦闘。
すべてが題材だ。
「卒業式が3/18だから、遅くとも3/10には課題の提出をするように」
「先生、卒業の記念品とか作るんですか?」
学級委員長の成田が挙手する。眼鏡のブリッジをくいっと持ち上げた。
「卒業アルバムは製作するが、特に規定はない。作るのは自由だが、何か希望はあるか?」
担任が生徒全員の顔を見渡して問うた。
「ハンター証入れが欲しい。定期入れに入れてんだけど、プラスチックが多くてすぐに壊れるんで」
「わかる。金属のが欲しいよね」
「ハンター証を入れたままゲートを通れないと意味なさそうだけど」
「金属はだめなの?」
「ダメらしいぜ」
「金属以外で硬いもの?」
「ダンジョン産の何かなら、俺ららしいよなー」
ぽつぽつ意見が出てくる。担任も「ハンター証入れはいいなぁ」などとつぶやいている。
市販品はおおよそがプラスチック製だ。需要は多くないのでそれで事足りてしまっていた。
「智、おにーさんが持ってるドロップ品で使えそうなのってある?」
「うーん、ドロップ品って魔法書とスキル書が多いから、材料系っていうと……」
佐倉は首をひねって思い出そうとするが、アイテムは京香管理なのであまり真面目に話を聞いていなかった。
「ちょっと京香おねーちゃんに聞いてみるね」
佐倉がスマホをポチポチし始めるとクラスメイトの視線も集まる。あそこなら何か持ってそうだよな。というのが彼らの頭にある。
「はやっ、もう返信が来た。ちょっとしたものが入るウエストポーチはどう?だって」
「ちょっとしたもの?」
「…………超簡易マジックバッグだって……」
「は?」
「パイセンが言うならソーナンダゾ」
さすがの四街道も「無理でしょそれ」という顔をしているが強火京香ファンの柏はそんなもんだと受け止めている。
「日比谷ダンジョンボスでドロップしたツインヘッドドラゴンの鱗を粉にして混ぜ込んだ生地で作った鞄は簡易マジックバッグになるんだって。鱗を混ぜ込んだ量で容量が決まるけどそんなにないから0.5立米くらいの小さなウエストポーチでよければ27人分の材料は供出するって」
日比谷ダンジョンボス、ツインヘッドドラゴン、マジックバッグ。情報量が多すぎたのか、クラスメイトも担任も宇宙猫になっている。
「0.5立米ってどれくらいだ?」
「んーと、1辺が80センチのサイコロ?」
「あんまし大きくないな」
結果として0.5立米という単語しか頭に残らなかったようだ。
「…………0.5立米って、水を入れたら0.5トンになるんだけど? 大型スーツケースだったら5個分よ? 小さくないわよ?」
四街道が困惑している。藪をつついたら大蛇が出てきてしまった。
「これ1個あれば武器やら着替えやら食料やら全部入れても全然余裕よ。ちっとも「ちょっとしたもの」じゃないわよ! 基準をおにーさんにしちゃだめだって!」
常識枠の四街道がキレた。
そしてハンター証入れの話は流れていった。
「よーし話を戻すぞ。卒業課題についてだ。明日から3/10までの間で、自分たちで行く先を決め、旅費を稼ぎ、交通手段を調べて予約をしてダンジョンに入る。宿泊先の確保もだ。すべて自分たちでやる。これが課題の目的だ」
担任がプリントを配る。プリントには――
ハンターやギルド職員を観察すること。いい奴も悪い奴もいる。
向こうから親切にしてくるのは顔に出さずに疑え。
入る前にどんなダンジョンでどんな魔物が出るのかくらいは調べること。
これらはすべてハンターとして活動するための予行練習である。
そんなことが書かれていた。
「午前中はこの教室を使えるから相談してくれ。現在組んでいるパーティで行動してもいいし、新たに組んでもいい。すべて自由だ」
新たに組んでいいと言われ、生徒は動揺する。
「新たにって言われてもなぁ」
「慣れちゃってるし」
生徒はパーティごとに集まり始めた。佐倉の周りには四街道に柏。そしてポニーとAチーム。獄楽寺チームといえる。
「4人だけだと不安なんだけど」
ボブカットの渋谷がつぶやく。普段なら付き添いで誰かがいたが、今回はいない。不安にもなる。
「かといって大人数でもなぁ。仮に俺たちと合同で行ったら9人だぜ?」
金髪ツーブロックの野田が応じる。
「どこ行ったってまだ1階しか行けないから、過剰戦力だと思うけど?」
「そうなんだけどさー。ギルドでの応対とかさー」
四街道に指摘され、渋谷も肩を落とす。今のポニーとAチームは3階4階でも活動可能な強さではある。
油断は大敵だが1階は散歩気分だ。
渋谷はダンジョン外での不安が大きいようだ。
「まずは日帰りできそうなとこにするとか? 北浦か、池袋か」
「泊りがけなら勝浦で慣らすのもありかも」
「いきなり遠くに遠征は不安しかねーな」
意見がでる。みな不安を抱えている。だが、これを克服するのが目的なのだ。
「佐倉たちはどこに行くんだ?」
千葉が空気を変えに走る。まずは規格外の意見を聞くことにしたようだ。
「特に決めてないけど、どうせなら遠くのダンジョンがいいかなって」
「いきなりスゲーな」
「あたしは卒業したら墓地ダンジョン対応で遠出なんてできそうにないし。行くならこの機会かな-って」
「なるほどなー。佐倉はそっちだもんな」
千葉が腕を組んでうなる。自分たちは自由だが佐倉は卒業後が決まっているのだ。
そうなると自分らはどうなるのだろうと別な不安が持ち上がる。
「わたしとしては、ハンターコースがある土地のダンジョンなんかがいいと思うけど」
四街道が入ってきた。
「その心は?」
「ハンターコースを設定してるってことは、ダンジョンが近くにあることと、学生が使える設備が整ってるってことでしょ? 食事する店にも困らないでしょ」
「船橋は更衣室もあるシ、ギルド上にレストランがあっシナー」
「ギルドの近くで食事できる場所があるのはありがたいねー」
佐倉は秋田を思い出した。城跡公園は飲食店はおろか周囲には何もなかった。いちいち持参するのは面倒だ。
「じゃー、ハンターコースのホームダンジョンに行こう!」
「ハンターコースがある高校ってドコダ?」
「札幌、仙台、船橋、日比谷、大阪、福岡ね。船橋と、なくなっちゃった日比谷は外すとして、札幌仙台大阪福岡」
「おいしいものが食べられそうなところばっかり!」
「トモの食いしん坊が発動しタゾ」
「いーじゃん! お腹すくし」
という流れで、桜前線の行く先は決定された。




