41.ヒヨコたちははばたく準備をする②
「わたしらは近場かねぇ」
足立が切り出した。
「湿地の北浦よりは森の池袋かなぁ」
「えぇぇー、池袋は虫ダンジョンだよー? 虫いやぁぁぁ」
太田は手をぶんぶん降り、絶対拒否の構えだ。
「躊躇なく攻撃できるじゃん」
「太田は遠距離だからいいじゃーん」
「もしかしたら那覇さんに会えるかもしれないし!」
「それ!」
「どんなとこなのかはおにーさんに聞けばいいかも」
ポニーはちょっとよこしまな理由で池袋になりそうだった。まずは慣れることからなのでヨシとしよう。
「俺らはどうすっか」
「まずはーーー、金だな」
「先立つものがねえ」
「それな」
「全部飯に消えた」
「金稼ぎが先だ」
「寺のダンジョンで稼げないか守さんに相談すっか」
「行くとこは稼ぎつつ考えよーぜー」
Aチームはまず旅費稼ぎからだが、問題の先送りでもあった。男子はこんなものだ。
「最初は近場がよさそうだな」
「旅費稼ぎかー。バイトするかと考えてたな」
「獄楽寺、かー」
クラスの強さカースト上位の意見を聞きながら、ハンターのヒヨコたちは自分たちで考え始めていく。
「寄居たちはどうするの?」
佐倉は、近くで集まっていた寄居、浦和、熊谷に声をかける。もう因縁は払しょくされているので普通に会話しているし、上野にくっついているので寺でも見かける。
会う回数が増えれば自然と話すようになるものだ。
もちろんdisがあれば肉体言語でのお話し合いになる。そこは譲れない。
「わたくしたちは上野様のホームである土浦ダンジョンから始めて東北方面に足を延ばすつもりよ」
「あそこはランク2ダンジョンで信号機の騎士さんたちもいるし」
「アタシは商会のお手伝いもあるからビューティと近くないと困るし。あ、もしかしたら北海道にはいくかも」
寄居ら3人はパーティを組んでいてアイアンフィストという名だ。3人は事前に上野と相談して決めていたようだ。おそらく上野の采配だろう。
「さっきの話で、京香おねーちゃんから上野さんに話が行くんじゃないかな。鞄作ってーって」
「あれってマジなのか?」
佐倉の横やりに銀髪ギャル浦和が応じる。
「京香おねーちゃんの性格からするとしれっと自分たちの分も作るだろうから、卒業記念品は別として話は行くと思うよ」
「ビューティーに一報だけ入れとくわ。やれっかわからねーけど」
「美園。『やれるか』ではなく『どうやるか』ですわ。上野様ならそうおっしゃいますわ、きっと」
強火上野ファンの寄居は、確信をもって言い切った。なお、浦和の名前が美園である。どこかの駅名ではない。
下校後、佐倉たちは当然として、ポニーの4人にAチームの5人も一緒に寺に向かっていた。彼らの目的は先輩ハンターである勝浦と小湊への相談である。
「俺らは寺まで走るから!」
「守さんに追加だって伝えといて!」
「鍛錬鍛錬!」
「うーさむ!」
「走れば暑くなんべ」
Aチームの5人は大網駅で下車した。体力づくりのためのランニングのつもりだ。
秋は1キロ走れば肩で息していたが、継続やレベルが上がったことで今では10キロなら走り切れるようになっていた。
守に迎えを頼み忘れていたのは内緒だ。
「やる気だしてんなぁ」
5人の背を見ながら、渋谷がボソッとこぼした。
「サムッ! 夏のあの暑さはどこ行ったんだよ」
ハイエースだと車内空間が大きくて暖房も効きが悪い。なかなか暖まらないんだよ。
約束の時間に東金駅に迎えに行けば、JK7人が固まって肉まんをかじっていた。車を見つけてトテテっと走ってくる。
「おつかれー」
「ただいまー!」
「おつかれさまですー」
「タダイマー!」
「いつもありがとうございます」
「お邪魔しまーす」
「わーあったかーい!」
慣れた風の7人が乗り込む。ジャージ履いてでもスカートなのが男の俺には理解できん。ズボンでもいーじゃんって。
「今日はAチームはいないんだね」
「あいつらは大網から走るって」
「はぁ? あそこから? 結構あるよ?」
「鍛錬だって言ってた」
「鍛錬ねぇ。定員オーバーを気にしたのかな」
彼らがいるとハイエースでも定員オーバーではある。床に座れば乗れちゃうし、こっそり乗っちゃってもわからないけどさ。
寺に戻れば食堂へ直行だ。智たちも着替えないでみなと合わせてる。
「飲み物は各自持ってってねー」
冷蔵庫には炭酸飲料もあるし、お茶珈琲紅茶はセルフだ。みな慣れてるので俺が言う前に動いてるけどね。そうこうしてると玄関が騒がしくなった。Aチームがついたっぽい。大網から走ってこれるのはすごいな。
「「「「「おじゃましまーす」」」」」
5人が入ってきた。これで全員かな。
「守さんに相談っす」
「わたしらも相談があって」
「俺なの?」
瀬奈さんか京香さんかと思ってたけど。卒業課題じゃないのかな。
「旅費を稼ぎたいんっす」
「池袋ダンジョンに行こうかと思ってるんですけど、どんなとこなのかなって」
「あー了解。こっちも話があるから」
瀬奈さんらを呼ぶ。零士くんもセットだ。
「はーい、まずは旅費からねー」
瀬奈さんから説明してもらう。
「ギルドとしては金銭の援助はしませーん。旅費を稼ぐところから課題だからねー」
「なのでここで稼ぎましょう。ということで師匠」
「俺かよ」
零士くんにキラーパスだ。
「Aチーム。どこのダンジョンへ行くつもりだ?」
「まだ決めてないっす」
「稼ぎながら決めようかなーって」
「ダメっすか?」
「ダメじゃねえ。ここには複数のダンジョンがあるんだ。行く予定のダンジョンに出る魔物がいるなら練習がてら倒せばいいと思っただけだ。決まってないならそうだな、素早い系のダイアウルフとかパワー系のレッドベアーとかとやってみるか? ゴブリンに比べれば魔石も高いぞ」
零士くんの提案に「ウルフ解禁っすか」「熊か、強そうだな」とか、思考が違うとこに飛んじゃってる。らしいっちゃらしいな。
「1週間みっちりやれば旅費くらいはたまるだろ」
「ポニーの4人もだけど、泊りでもいいからねー」
フォローしておこう。バイトよりも金はたまると思う。どんな風にするかは零士くんと詰めて頂戴ませ。
でこっちだ。
「池袋ダンジョンは走りっぱなしだったし詳しくは知らないけど、森ダンジョンで1階はでかいカブトムシが出てきたね」
「カブトムシ!?」
「しかも飛ぶよ」
「いやぁぁぁぁ飛ぶのいやぁぁ」
太田ちゃんが絶叫した。Gと混同してるのかも。そもそもカブトムシは飛ぶしね。
「クモは3階から見たかな」
「ク、クモもでるのぉ……」
「池袋はスパイダーシルクが有名なダンジョンだし、あそこには那波さんがいるから、何かあったときは頼るといいかもね」
事前に話は通すけど。それは俺がやらないとさ。大人って感じでかっこいいべ。
似合わん? サーセン。
「確かに池袋は虫で嫌かもしれないけど、魔物も大きい割には弱いから戦いは楽かもねー」
瀬奈さんが悪魔の背中押しをしている。まぁ大きい虫ってのも怖いんだけどさ。でかいクモは怖かったぞ。
なんとなくポニーは池袋で固まりつつある。
「相談はこれだけかしらー?」
瀬奈さんが確認したけど、もうないみたいだ。
「じゃあこっちから話をするわねー」




