40.獄楽寺の年末年始は忙しい もちつき
お正月ときたら餅つき。うちの寺では毎年の行事だ。
正月に餅をつくのは、縁起の良い行いとされているからなんだ。餅つきに使われる「杵」と「臼」は、それぞれ男性と女性を象徴してて、子孫繁栄を願う意味が込められてるとか。
昔は家を新築する際に大工さんが杵と臼を作って納めるという習慣があったりしたらしい。自宅で結婚式を行っていた時代には、式中に餅つきして家庭の繁栄を祈願したりも。
餅つきは「めでたい行事」だったんだよ。
「ということで、4日は餅つきをやります!」
三が日のすぐあと。まだまだお正月気分。でも初詣は終わったでしょ?って頃。
1/4、8時から餅つき会を行います。
持ち帰り用の袋を持参ください。
餅つきの後には雪遊びをするので、長靴に手袋や濡れてもよい服と着替えを持参してください。
午前中で終わる予定です。
幼稚園のメールリストにお知らせメールを配信。と同時にご近所さんと檀家さんにもお知らせはしてある。毎年のことなのでご存じな方も多いけどね。
当日は朝から大忙しだ。
「守さーん、臼と杵はどこにもってきますー?」
「幼稚園の園庭におねがーい」
「ま、まもるさん、タイマーが鳴ってます」
「いま行くからコンロの火を止めてー」
「紙皿はおっけー、箸とフォークもだよね?」
「味噌汁入れる紙の深皿もねー」
忙しい。見たことはないけど戦場病院並みでしょ。
猫の手はおろかネズミの手も借りたい。
なので、今日はアルバイトとしてAチームの5人とポニーの4人を召喚してある。伝手づくりの一環で三島さんと由比ヶ浜君も呼んだ。葉介さんと北国分さんもだ。
智ら桜前線はもう家族みたいなもんだから餅つきの話をした段階でやるって言ってくれた。ありがたい。
お正月で休んでるとこ申し訳ないけど、あまりやったことのない行事だし、経験してもらうのもいいかなって。
お手伝いのバイト代はもちろんだけど、雪遊びというご褒美もある。
「よし、何とか間に合ったぞ」
時計は7時30分。食べ物は作り終えたからあとは会場のセッティングの確認だ。
餅つき自体は外でやって、食べるのは幼稚園の教室。
教室は白いシートが敷かれ、こぼしても良いようになってる。きな粉とか、こぼさないのは大人でも不可能だと思うし。そしてつきたての餅をちぎって丸める台。
来た人には自分でついた餅を食べてほしいからね。
イートスペースは教室内と寮食堂で食べることも可能にして、一部は外。寒いけど。
幼稚園に行けば、父さんがあれこれ指示を飛ばしてた。
「大きな臼はこっちで、小さい臼は少し離しましょう。親御さんが写真を撮りますのでね」
「了解っす!」
餅つき用の臼と杵は子供用の小さいセットと大人用の大きなセットがふたつづつ計4セット。
今年はお手伝いが多いからできる力業。
「おはよーございまーす!」
園児と親御さんがやってくる。今日はおばーちゃんも一緒だ。
「おぉ、今年はにぎやかだなぁ」
近所のおじいさんも孫を連れてくる。基本、誰でもウェルカムだ。
8時になるにつれてどんどん増えていくので、応対は父さんに任せた。
「トイレは幼稚園と、隣の寮のトイレが使えまーす。大人の方は寮のほうでお願いしまーす」
エプロン姿の瀬奈さんも声を張り上げてる。幼稚園の先生方もお手伝いで来てくれてる。先生方の家族も遊びに来てるっぽい。
「ゆきないよー」
「どこー?」
雪がないから騒いでる子もいる。ここ数年、大雪はないし、雪目当てでくるよね。
「雪はね、お餅を食べてからだらかいまはないんだー」
「そうなのー?」
「そっかー」
8時になったので始めよう。進行は父さんなので俺は黒子に徹する予定だ。
「あけましておめでとうございます。今年も餅つきをやりますが、お手伝いも多いので臼と杵も増やしました。あとで雪遊びもありますので、楽しんでいってください」
父さんの挨拶から餅つきが始まる。
「はーい、子供はこっちねー」
子供用には先生方が補助につく。合いの手はポニーに任せた。できるかなーって不安そうではあったけど、失敗してもいいんだからって言っておいた。杵を持つのは子供だし、すんなりはいかないしね。
「しっかり持ってー!」
「もって~!」
「おろすー!」
「え~い!」
ペタン。
先生に誘導されながら、園児がバールくらいの大きさの杵で餅をつく。つくというか落ちる感じなので餅の量も少なめだ。
「えーい!」
「よいさー」
「えーい!」
「よいさー」
足立ちゃんの掛け声に合わせて小学生の男の子がペッタンペッタン杵をふるう。
「よーく狙ってー」
「ねらってーぺったん!」
子供の餅つきはわちゃわちゃしているけど、大人用は違う。近所のお父さんとか高校生まで来てるので迫力がね。
「どっせい!」
「ハイッ!」
「うりゃー!」
「ハイッ!」
掛け声にも圧がある。餅をつく音もベタンと重量感がある。
ただ、杵も重いので続かない。
「くぁー、腕があがらない」
「おとーさん、だらしなーい」
娘にこう言われてもお父さんは汗だくで大変そうだ。
「打ち手交代ー」
「よっしゃー!」
大人用の合いの手はAチーム5人と由比ヶ浜君が交代しながら。
「よいしょ!」
「ハイ!」
「せりゃ!」
「ハイ! もっとペース上げても大丈夫っすよー!」
「これ以上はむりー」
ハンターとしてはひよこだけど能力は普通の人よりも全然高いから、ちょっとつくのを早くしてもへっちゃらだ。
「よーし、もういいでしょう。守、餅を持って行って」
「はいよー」
ついた餅を教室に運ぶ。柔らかくてアッツアツだ。とろけて落ちちゃいそうだから小走りで。
餅を丸める作業の補佐は瀬奈さん、京香さん、智、三島さん、美奈子ちゃん、葉子ちゃん、北国分さんだ。
「お餅をちぎって手でコロコロしましょー」
「ころころー」
「コロコロしたら味見してみよー」
「ぱく。やわらかーい!」
女の子がにぱっと笑顔になる。親御さんも一緒にやってて写真が撮れないだろうから各所にカメラを設置してる。後で編集して配るかどうかを決める。
「あんこにきなこに海苔と醤油もありまーす。みそ汁もあるのでどうぞー」
「おいしー」
「もちもちー」
食べる場所は自由なので、園庭で餅つきを眺めながら食べてる家族もいる。楽しみ方はいろいろさ。
開始から1時間もたてば一巡して落ち着くのでここからがハンターの時間。ショタ形態の零士君が登場する。零士くんはネックウォーマを頬まで上げてニット帽で耳も隠す。
「まずは俺!」
Aチームの大型マッチョの市原君が杵を持つ。大きな杵も軽々だ。
零士くんが合いの手に回る。
「行きます! ハッ!」
「そらっ!」
「ハッ!」
「そらっ!」
バシンバシンと力強くかつ高速餅つきに「おおおお!!」と歓声が上がる。どこぞの餅つき芸人に負けない速度だ。
みなのお土産分もつくのでかわりばんこで餅をついていく。
「いや、いい運動になるなこれ」
「それな、汗が止まらねー」
「剣を振るのとはちょっと違うのな」
Aチームの5人も額に玉の汗だがさわやか笑顔だ。
「師匠もつかないっすか?」
金髪ツーブロックの野田君が額の汗をぬぐいながら言う。零士くんは臼の高さを見て顎に手を当てる。
「やれんことはないな。誰か合いの手を頼む」
「はいはいはいはい、わたしやります! 弟子たるわたしの役目!」
教室でお餅を丸めてた美奈子ちゃんが騒いだ。
「はい、は一度でいい」
「はーい!」
にこにこ顔の美奈子ちゃんが小走りで駆け寄る。零士くんは大人用の杵を片手で軽々持ち上げブンブン振った。餅つきに来た人らがざわつく。
そりゃ中学生くらいの男の子が重い杵を振り回してたら驚くよね。
俺が臼にもち米を入れると、零士くんがこね始める。つく前にもち米をつぶすんだ。
「結構手馴れてますね」
杵でぐにぐにもち米をつぶすのがうまい。こう、腰が入ってるというか、体重でもち米をつぶす感じが、すごく慣れてる感があってね。
「ガキのころは毎年正月に餅つきしてたからな」
「今の形態を考えてください」
「はっはっは。まあわかりゃしねーって」
零士くんが愉快そうに笑った。うん、美奈子ちゃんとバイクで出かけるようになってから零士くんの表情が軟かくなった気がする。いいことだ。
「そろそろいいだろ。美奈子頼むぞ」
「まかせてください!」
零士くんが杵を持ち上げスパンと打ち下ろす。抜ける音が気持ちいい。零士くんが杵を持ち上げると同時に美奈子ちゃんがシュパっと餅を外から内にひっくり返す。
スパン、シュパ。
スパン、シュパ。
スパン、シュパ。
リズムがどんどん早くなっていく。
「ついてこれるか?」
「弟子ですから」
「そうか」
それからは異次元だった。
スパパパパパパッ!
って音がするくらい速かった。美奈子ちゃんは両手を交互に使ってるし、零士くんは慣性の法則とかを無視して杵を動かしてるし。なんかおかしい。見てる人も「なんじゃありゃー」って顔してる。
「ちゃんと餅をつけてるのかな」
と疑問に思っちゃうくれらいおかしな光景だった。
「よし、いいだろう」
「ふぅ、疲れました」
「よくついてこれたな」
「弟子ですから!」
君らはプロなのか?という会話がなされると、「うぉおぉぉ」という歓声と割れんばかりの拍手。
でも出来上がりがふわふわお餅になってた。すごい。




