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うちの寺の墓地にダンジョンができたので大変です  作者: 海水


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40.獄楽寺の年末年始は忙しい 元旦

 除夜の鐘を突き終わるのは、例年、明けて2時くらいだ。寺から人の姿が無くなったら門を閉める。寺なんで門はあるんだよ。


「朝まで仮眠だな」

「父さん、風呂に入って温まってね」

「あぁ、そうするよ、おやすみ」


 父さんが風呂に向かうのを見送ったら俺も仮眠だ。食堂にはまだ奥様ズ3人が起きてた。俺を待ってたんだろう。眠そうに目をしばしばさせてる。


「ごめんね。さっと風呂に入ってくるから先に寝てて」

「守、明日も朝の掃除はするんでしょ?」

「掃除はするよ。近所の人が初詣に来るから念入りにね」


 魔物に正月なんて関係ないもんね。


「守くーん、初日の出はー?」

「6時に門を開けるんだけど檀家さんがすぐにきて寺を空けられないから寺から拝むよ」

「守君、おせちはどうしますか?」

「伊達巻、数の子、栗きんとんにかまぼこは買ってある。黒豆と昆布巻と紅白なますと煮物は近所のおばーちゃんが持ってきてくれるからそれを。あと刺身はあるし、お雑煮も作ってあるから。せわしないけど一緒に食べよう」

「わかりました。お手伝いできることがあれば言ってくださいね? ひとりで抱えたらだめですよ?」


 京香さんにジト目で見られた。俺の行動パターンは把握されているようだ。


「明日の朝お願いするよ」


 なれないことで疲れてるはずだし、早く寝かせるために話を切り上げた。

 明け方。5時に目が覚める。

 隣家がまだ改装中だから大家用の部屋に4人で寝てるんだけど、俺の左右に瀬奈さんと智がいて、お腹の上には京香さんの頭がある。温くていいんだけどね。

 起こさない様にゆっくり動いて支度する。クリスマスに貰ったスパイダーシルクのインナーとネックウォーマーはもう手放せない。温かいんだよ。

 シュルシュル着替えてれば智が起きる。


「んーーーー」


 目を閉じたまま唸ってる。二度寝と戦ってるな。強敵だぞ。


「ヨシ!」

「うおっ」


 智がカッと目を開いた。びっくりして声を出しちゃったよ。瀬奈さんが起きかけたのでヨシヨシして寝かした。


「あけましておめでとう。今年もよろしくね」

「あけおめー。今年と言わず来世もよろしくねー」


 おっと、なにかが乗り移ったか。

 ふたりで暗い墓地を歩く。ここらの日の出は6時45分くらいだ。ダンジョンを掃除しても十分間に合う。


「寒いねー」


 智が手袋の上から手をこすり合わせてる。あまり意味がないような。気持ちはわかるけど。


「夏の灼熱が恋しいね」

「ほんとそれ。なんでこんなに気温が違うのよー」

「四季があっていいねっていい方向に考えよう。寒いけどさ」


 ゲートをくぐって階段を降りればゴブリン骨がちらほら。こいつらにも何か節目ってイベントはあるんだろうか。なんて考えちゃうのは正月だからだな。


「さっさとやっちゃおう【大いなる祈り】!」


 今年初めてのうちの明王様による蹂躙が始まった。

 智が頑張ったおかげで30分かからないくらいで掃除を終えた。今日もポーションと綺麗な包帯が大量だぜ。


「6時前だけど門を開けるか」


 門と言ってもただの木戸に毛が生えたくらいの簡素な門ではあるけど。ギギッと開ければ、門の外には檀家のおばーちゃんが立ってた。


「あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとうございます!」

「あけましておめでとう。今年はふたり仲良くなんだねぇ」

「ふふふ、朝の掃除当番の特権です」


 智がぎゅっと腕に抱き着いてくる。


「あらあら、元旦からいいものが見れたわ。はいこれ。黒豆ね。毎年作るんだけど娘も孫も食べなくってねぇ」


 黒豆がぎっしり入ったタッパーを貰った。1キロはあるなコレ。


「毎年ありがとうございます。黒豆、美味しいんですけど、わかりやすい味にいっちゃいますよね」

「そうなのよー」


 本堂まで歩きながら愚痴を聞く。これもうちの役目だ。

 お節料理も、昔はお母さんが休めるようにとか「縁を切る」包丁を使わないようにするためだとかいわれがあったんだけど、今はそんなご時世でもないからおせちの意味が薄くなってるんだよね。これも時代の流れで無常ってやつだ。

 おかげで黒豆ちゃんがいただけるわけで。助かってる。

 本堂前で父さんと会った。


「お、あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとうございます」

「父さん、おばあちゃんから黒豆頂いたよ」

「毎年ありがとうございます。祈祷の合間に食べるのが楽しみでして」

「まぁまぁ、美味しく食べてもらえるんならえーこったで」


 ここで父さんにバトンタッチで俺と智は母屋に向かう。お雑煮とか用意しないとね。

 駐車場でエンジン音がした。誰だろ、と待ってたら葉介さんと葉子ちゃんが白い息を吐きながら歩いてきた。たしか、みんなで初日の出を見ようって話だったな。


「あけましておめでとうございます」

「あけおめー」

「アケオメコトヨロー!」

「ようちゃん、もっと丁寧に言わないと。あけましておめでとうございます」


 会う人会う人に「あけましておめでとうございます」って言ってるんじゃ、正月の挨拶も簡略化されてしまうのも致しかたない。

 戦前までは、誕生日に年齢が増えるのではなく新年で歳が増えるからそのお祝いだったって話。これだけではなくって諸説あるんだろうけど。

 だから、意味も薄れてて簡略化されるんだよ。いいとか悪いとかではない。これも無常だ。


「お雑煮を用意するんで、みんなで食べましょう」


 皆で食堂へ向かった。

 お雑煮とお餅を食べてれば檀家さんからの差し入れがくる。

 先ほどの黒豆に紅白なます、栗きんとんに田作り、昆布巻。これでおせちが完成しちゃう。毎年感謝しかない。

 さすがにこれだと大人向け過ぎるので唐揚げとかウィンナーのボイルとかハンバーグに卵焼きも用意してある。みんなで作ったんだぜ。嬉しくて涙が出たよ。

 そろそろ6時半を過ぎるころだ。ぼちぼち空も黒から藍色に変わって夜明けの先触れが走る。


「そろそろ日の出の時間だね」

「やば、急いで食べなきゃ!」

「お餅は逃げないから」

「大勢で初日の出を見るって初めてかもー」

「船橋ギルドの屋上から見たこともありましたね」

「徹夜明けの初日の出は黄色かったわねー」

「空から見たいゼ」

「ようちゃん、近所の人がいるからやめようね」

「ちぇー、つまんなーイ」


 皆それぞれ思い出がある。ちなみに、美奈子ちゃんと零士くんはバイクで海に行って、そこで初日の出を拝むそうだ。


 初日の出を見るという行為。


 これは変わらないね。

 年が変わりその節目であるから、年の初めに太陽を見る。これだけなんだよね。

 何か決まりがあったわけではなく、人間の本能的なにかによる行動なんだろう。

 一日の始まり。一年の始まり。

 めでたい、神々しい、心機一転。

 太陽に手を合わせる人、じっと見つめる人、首を垂れる人。いろいろだ。これも無常ではあるのだろうけど、初日の出を見る行動は変わらないのかもしれない。

 去年は父さんとふたりで拝んだ初日の出。今年は一緒に見る人も増えた。

 この幸せが続きますように。

 静かに手を合わせた。

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