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うちの寺の墓地にダンジョンができたので大変です  作者: 海水


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38.日比谷からの客人⑤

 日比谷のふたりが来た翌日。毎日の家事を終えた俺はダンジョンの遠隔操作が可能かを調べることにした。

 あのふたりだけど、夜遅くなってしまったので車で家まで送っていった。智もついてきて、三島さんと連絡先の交換をしたりとすっかり打ち解けてた。

 どうやら由比ヶ浜君とは彼氏彼女な関係らしく、「健一」「綾ちゃん」とお互い名前呼びになってたのは内緒だ。


「さて、どうやってやろうかなぁ」


 いまいるのは墓地ダンジョンの1階だ。瀬奈さんと京香さんもいる。すみっこのほうに日比谷ダンジョンの階段があって、今日も零士くんはそっちに行って地図を作ってる。大暴れしても他人に危険がないから楽しいんだって。


「ここにダンジョンを出したまま買い物に行ってみてはどうでしょう?」

「そーねー。まずはすぐに戻れる距離がいいかもねー」


 ということで、ふたりにはダンジョンの監視をお願いして、俺は日々の買い物に出かけた。一応ふたつとも出してある。

 軽トラでぶいーんと20分ほどのショッピングモールにきた。ここに来ると大体の物が手に入る。

 買い物カートを押しながら頭の中でダンジョンの様子を窺う。

 【いわきダンジョン】は魔物の発生を止めていないので数体がうろうろしてる。

 【備後ダンジョン】は魔物の発生を止めてる。ダンジョンに魔物はいない。


「いわきの方は消滅できるかな?」


 やってみたら魔物は消滅して【いわきダンジョン】からいなくなった。そのまま買い物を続けてその状態が続くかもチェックだ。


「正月も近いからもち米も買っとくかな」


 お餅はご近所に檀家さんからたくさんいただくのでいつも余るんだけど今年は家族も増えて足りなくなるだろうからね。まぁ、増えた家族分もいただく可能性もあるけど。特に零士くんを推すおばあちゃんが多いからね。

 30分近くたったけどふたつのダンジョンの様子に変化はない。今日はずっとこのままで様子を見ようか。

 寺に戻ると、駐車場につくばナンバーのミニバンがあった。ビッチさんが来てるな。

 母屋経由で寮の食堂に行けば、いつものビッチさんと信号機の3人に加えて銀髪ギャルもいた。ちょっとサイズ大きめなスーツで、スーツに着られている感じ。

 ハンターコースの、えっと、名前が出てこない。というか学校は?


「お邪魔していますわ」

「「「お世話様です」」」

「あっと、お、お世話になって、ます」


 挨拶も慣れてない感じが初々しいというか、俺も新人だったわと思い出した。


「すみません、ちょっと買い物にいってました。しまいながら話を聞きますー」


 冷凍ものは早く冷凍庫に入れないと。


「では話を続けさせていただきます。日比谷事務所の件ですが、いかがでしょう」

「日比谷ダンジョンがなくなってしまったのは痛手ですわ」


 ビッチさんにじろっとにらまれた。サーセン。


「ですが、まぁ、あそこは不正の温床でもありましたから、いい気味とも思ってますわ」


 ふふんと上品に鼻を鳴らすビッチさん。


「朝一に日比谷事務所に日比谷の生徒が来たようですけど、なにか(たら)し込みまして?」

「昨日、当寺に日比谷の生徒2名が来まして、来年度の3年生を何とか助けてくれないかと、相談されました」

「昨日ですか。さすが日比谷、行動が早いですわね」

「外堀を埋めにかかったのでしょう。賢そうな子らでしたし」


 判断が早いなぁ。学生だからとなめてかかっちゃだめだね。

 

()()()()()、日比谷高校に協力するのは吝かではありません」

利益(リターン)が足りないのですね」

「もう少しオブラートに包んでいただきたかったですわね。父を説得する材料が足りませんのよ」


 事務所は小さいけど自社ビルなので、建物のオーナーの許可とか関係ないからギルドの設置は可能なんだって。でもビッチさんは商会の中の幹部ではあるけど経営は社長であるお父さんが舵をとるから、重要事項は社長の許可が必要なんだって。事務所にダンジョンを置くとか普通じゃないもんね。

 どういうことだ?って言われるのも当たり前だ。


「北海道営業所を開設されると聞いております。ご祝儀としてポーションの供給を増やそうかと思いますが」

「簡単に増やせますの?」

()()()()()が増えましたので」

「へぇ……()でも増えまして?」


 ビッチさんの疑う視線に襲われてる。無実やぞ。


「誤解です。全くの誤解です」

「本当かしら?」


 ぐぅ、信じてもらえない!


「ふたりの嫁が嫁2.0に進化しました。それにより墓地ダンジョンでのドロップ品増加と日比谷ダンジョンのドロップ品も定期納入できそうです」

「日比谷ですって?」

「これです」


 目を開いて驚くビッチさんをしり目に京香さんが複数の【ヒール】の魔法書と各種ブレスのスキル書をテーブルに乗せた。ついでとばかりにランドドラゴンのハムとワイバーンの肉も出す。

 こいつらたくさん出るからたくさんゲットしちゃうんだよね。


「こ、これは?」

「ダンジョン踏破の際にご主人様が極めて特殊なスキル書を入手いたしました。そのスキル書で瀬奈先輩が日比谷ダンジョンマスターになりましたので、日比谷ダンジョンをどこにでも出せるようになりました」

「はーい、なっちゃいましたー」


 笑顔の瀬奈さんが元気に手を挙げる。

 どうだ、これがダンジョンマスターだぞ!

 ほわほわ妊婦さんだけど。


「ダンジョンマスター!? なんですのそれ!?」

「ダンジョンっていう名前のマンションのオーナーって感じかしらー?」

「まったくわからない例えですわね……」


 ビッチさんが額に手を当てて俯いてしまった。意味わからんって思うよね。


「その辺の理解はお任せするとして、これが日比谷で得られるドロップ品リストです」


 京香さんがスッと紙を出す。そこには俺が日比谷でとってきたドロップ品が並んでる。


「新しいのがワイバーンの皮、ドラゴンの鱗と骨です。鑑定では、皮は水をはじき耐久性もあるのでハンター向けバッグに適しているのと、鱗と骨は金属に混ぜると強度や粘度が向上するとなっており、武器に最適かと」


 ごとごとと見本をテーブルに出していく。


「……また膨大な量があるのでしょう?」

「ご主人様にかかったらダンジョンなんてこんなものです、えっへん」

「会話がかみ合ってないし俺の過大評価を広めては困るんですが」


 ある意味風評被害だ。

 食材をしまい終えたのでお茶をもって俺も着席する。


「えっと、初めまして、ではないよね? 獄楽寺ギルド長の坂場守です」


 銀髪ギャルに挨拶する。


「ほら、あ・い・さ・つ・なさい」

「えええっと、アタシじゃなくて私は商会に入る予定でインターン中の浦和美園、です」


 ビッチさんに促されて挨拶する彼女。そうだ浦和ちゃんだ。


「ハンターではなくって就職する道に?」

「いやそうじゃなくって、その、ハンターもやるんだけど、スキルが向いてなくって、二足のスニーカーっつーか」

「二足の草鞋ですわよ」

「そそっちで、兼業っつーか、その、ガンバリマス」


 緊張からか頭からぷしゅーっと湯気が出そうな感じだ。でも一生懸命さは伝わったよ。


「わたくしもいずれは出産で長期離脱になりますので、いまのうちにと」

「うちの担当になる感じ?」

「その予定ではいますわ。あまりいじらないでくださいまし」

「なるほど。では今のうちに賄賂を」


 京香さんが魔法書とスキル書を押し付ける。


「【ヒール】の魔法書と【自己治癒】のスキル書です」

「くっ、また買収など……と言いたいところですが、その【自己治癒】とは何ですの?」


 クッコロになりかけたビッチさんだけどすぐに立ち直った。もう慣れたのか?


「守君及び私たち3人は覚えましたが、きれいな包帯のスキル版とでも言いましょうか。ただし治癒する範囲が大きく、重傷も治癒可能です」

「範囲はケガだけですの?」

「癌などの細胞のコピーエラーは無効のようですが、内臓の負傷には効果があるようです」

「そう……ありがたくいただくわ。少し前に父が、足がもつれたと転倒しましてね。大事には至りませんでしたが、壮健であっても父はもう若くないのだなと」


 ビッチさんが目を伏せた。


「ぜひお使いください。何ならもひとつお渡しいたしますが」

「こんな貴重なものをポイポイ渡すものではありませんことよ!」


 最後はやっぱりビッチさんだった。


「これを持ち帰って父と交渉してみますわ」

「吉報をお待ちしております」


 ビッチさん一行は帰っていった。


「少しは光明が見えたかな」


 見えるといいなぁ。

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