39.秋田ダンジョン狂騒曲①
12月も半ばに差し掛かり、智たちの期末試験始まった。泣いていた葉子ちゃんだけど、どうにかこうにかなだめて勉強させて送り出した。がんばれ。
クリスマスに向けて地域の空気もふわふわしてきた昼下がり。瀬奈さんとのんびりお茶してたら京香さんがやってきた。
「守君、こんなメールが来ました」
京香さんがプリントした紙を持ってきた。今日もメイド服が似合ってる。
ダンジョン買取依頼。秋田城跡ダンジョン。ドロップ品が肉オンリーなダンジョンで通称【秋田お肉ダンジョン】。
秋田市の土地にできたダンジョンなので管理は秋田市がしているけど、昨今増加する除雪作業にギルドの人員を取られ管理に支障をきたしてた。夏はいいけど冬にパンクする。
ダンジョン自体は年1500万円の黒字事業であるので民間に管理を打診したけど危険だとして及び腰で応募してくる会社がない。
維持するのも大変なので買い取ってもらえないか。できれば年度内に。
「儲かってるのに無くしたいの? よくわからないんだけど」
「飲食店などでも後継者がいないために黒字倒産もありますので、不思議ではないのですが……」
京香さんが言いよどむ。何か裏がありそう?
「少々調べましたところ、確かに黒字経営で、しかもドロップ品の肉がふるさと納税の返礼品にもなっています。この状態でダンジョンをなくすのはおかしいかと」
ふるさと納税ってのは都市部のお金を地方に回す方策で、国家の方針でもある。返礼品を変えるのは自治体の自由だけど、秋田のダンジョンお肉は数量限定の人気品で毎年発売直後に売り切れ御礼になるほどらしい。秋田牛や比内地鷄とトップ争いしてるとか。つまり美味しい。
そんな人気商品をやめるとは考えにくいとのこと。
「確かに、お肉が特産になってたら売っちゃうとかないよねぇ」
「お寺にあったら毎日お肉が食べられちゃうかもー?」
瀬奈さんはちょっと嬉しそうだ。
「送信元は確かに秋田市のものなのですが、ちょっと確認しましょうか」
京香さんがスマホで電話をかける。
「こちら千葉の獄楽寺ギルドの坂場と申します。環境課の横手さんはいらっしゃいますか? 不在ですか。折り返しメールですか、わかりました」
不在だったらしい。
「折り返しの電話ではなくメールなのが気になりますね」
「都合の悪いことを隠す時にやる手ねー」
そして折り返しメールがすぐに来た。早すぎだし、居留守使ったでしょって疑うレベル。やってるなぁ。
「速攻で来たメールには詳細はWEBで、ではなく現地でとなっていますね。これは黒確定でしょう」
「ただ、本当だと困るのよねー」
「じゃあ行くだけ行きますかね」
念の為行くことになった。
「いつにしましょうか、年度内とはなっていますが、智は年明けから各地のダンジョンをめぐることになっています。その期間はここが手薄になるのでお勧めできません」
「正月明けは幼稚園の行事もあるから抜けられないかな」
「では年内ですね」
「たまには私もいきたーい! 京香ちゃんばっかりずるいー!」
出産が来れば旅行なんていけなくなる、と瀬奈さんが訴える。俺が出張するときは京香さんばっかりだしね。
「……今回は瀬奈先輩、智も加えた4人で行きませんか?」
ふたりの視線が俺に向かってる。そんなの、答えは決まってる。
「行きましょう! レッツゴー」
当たり前でしょ。奥様方が喜ぶならがんばるぜ。
ということで日程とダンジョン防衛の戦力を考えることに。
智の試験が終わるのが12/18。最短で次の日だ。クリスマスの混雑を考えたらその前にけりをつけたい。本堂の掃除とかいろいろあるんだよ、年末は。
「まず智のカバーとして日比谷の三島に打診しましょう。もちろん彼氏の由比ヶ浜君もお泊りで」
「美奈子と葉子にも頼もうかしらねー。洋介くんと一緒にねって」
「その期間の食事は、作り置きして冷凍庫に入れておくかな」
色々手配した結果。
「12/19~12/21で行きましょう。宿は確保しました。往路は飛行機、復路は新幹線の予定です」
「わーい、新婚旅行よー!」
「新婚旅行です!」
となった。
そして旅行前日。
「なんとか卒業できソウ!」
試験を終えた葉子ちゃんが笑顔で帰ってきた。葉介さんもホッとしたのか抱き着いてくる葉子ちゃんの頭をよしよししてる。皆がニヨニヨ見てるぞ。
「これでスケ兄と結婚できルゾ!」
それはフライングが過ぎる。
翌日。大網駅から羽田空港までバスに乗って飛行機で秋田空港へ。現地は大雪の予報だったけど着陸時にはたまたま雪もおさまってた。ラッキー。
秋田空港からは秋田駅までバスで向かう。
バスに乗ったとたん大雪になった。着陸できてよかったよ。仏様のご慈悲に違いない。
「秋田は大都会だった!」
秋田駅ってすごいんだよ。さすがは新幹線が止まる駅だ。東金駅と比べたら失礼だね。
「現地に来たけどどこに行けばいいのかなぁ」
「メールでは市役所近くの喫茶店とありますね」
「全員で行っても仕方ないからわたしと智はあそこのショッピングモールで時間つぶしてるわよー」
そうなった。
俺と京香さんはタクシーで向かう。指定されたのはチェーン店ではなく、いまどき珍しい曇りガラスを多用した、こだわりオーナーが営む珈琲のおいしい喫茶店という感じのしゃれたお店だった。
ギィッときしむドアを開ければ珈琲の香りが押し寄せ、優雅に流れるクラシックが耳に入る。客はほぼいない。大雪だしね。
サラリーマン風の男性がいるのでコイツだろうとあたりをつけ、店のマスターに何某はいるかと聞いてみれば、やっぱりあのサラリーマンだという。平日の喫茶店にいられるご身分のようだ。
前髪がさみしくなる世代の、アラフォーくらいだろうか。ボックス席で一心不乱にスマホをいじっている。
「こんにちは、獄楽寺ギルドの坂場です」
声をかければコイツはまっさきに京香さんを見た。でへへと鼻の下を伸ばしているので「初めまして」とさっさと座る。
「坂場です」と名刺を出したが「あー名刺を切らしててな。横手だ」と横柄オブ横柄。
京香さんと目が合う。さっさと話を聞いてしまおう。
「で、詳細というのは」
「おう、それがな――」
俺は地元の名士の息子ですごいんだぞ、という脱線が多かったので要約すると、メールの通りダンジョンの買い取りをしてほしいを繰り返してた。時折ハンターへの怨嗟を捻じ込んで。
しかも売買契約書の話すら出ず、代わりに振込口座の情報だけ出てくる始末。売るんだから金は払えと。
おかしい点しかない。流石の俺でも気がつくレベルでブッダ先生が核ミサイルを撃ちかねない。
これは裏がありすぎる。
ということで話を早々に切り上げて駅に戻った。




