38.日比谷からの客人④
智たちが戻ってきたのは、ちょうど夕食の準備が終わったくらいだった。何とか間に合った。
「はーお腹すいたー」
食堂にぞろぞろ入ってくる。三島さんの顔が紅潮してて興奮してるってのがわかる。由比ヶ浜君も満足した顔になってて、良いことがあったようだ。
「手を洗ったら並べるの手伝って。あ、由比ヶ浜君と三島さんの分もあるからね。食べて落ち着いたら送っていくよ」
夜なら道もすいてるから都内まで送ったほうが早く帰れるよね。
「あ、あのお構いなく。僕らは帰りますので」
「智、レベルは?」
「ばっちり5まで!」
「三島さんについて説明もありますので、食べていってください」
「三島さんについてですか。はい、わかりました」
固辞する由比ヶ浜君は三島さんを理由に出してきた京香さんに説得された。三島さんは恐縮という感じで小さくなっているからか、智が彼女の隣に陣取った。すっかり仲が良くなったようで、なによりだ。
「夕食は手抜きで焼きそばにしましたー。しっかり焼いたからおいしいはずー」
焼きそばは麺を焼き色がつくまで焼くとおいしいんだ。だって焼きそばだよ? 醤油と酒で麺ほぐして味付けはウスターとオイスターのソース2種だ。
もちろん肉はたっぷりで、麺と同じ重量の豚バラ肉をぶち込んだ。1人前が150gらしいので肉も150gだ。スープは鶏がらがベースでランドドラゴンハムとキャベツたっぷり。
「お義父さまも呼んできたわよー」
瀬奈さんと父さんがやってきた。零士くんはすでに着席してて美奈子ちゃんが隣にいる。由比ヶ浜君と三島さんも気にしてちらちら見てるけど美奈子ちゃんが甲斐甲斐しくお世話してるので弟と勘違いしてるかも。
葉介さんも来て、全員揃った。
「「「「いただきます!」」」」
うちの聖典たる『いただきます』で食事開始だ。
「うわぁぁ、ランドドラゴンのハムですぅぅ! 感じちゃうぅぅビクビク」
「麺がおいしい!」
「あの亀を養殖したらこれが誰でも食えるようになるんだがなぁ」
「師匠、そんなこと誰も考えませんよ」
「三島さんも遠慮しないで食べて!」
「はい、おいしいです!」
「焼きそばもスープもおかわりはあるからね。デザートは冷蔵庫にプリンがあるから持ってってー」
「プリン!!」
にぎやかに食事は進む。
「三島さん、食べながらだけど聞いてほしい」
京香さんが切り出した。
「レベル5で何を覚えたのかは聞かないから言わないようにしてください」
「ふぁ、ふぁい!」
口の中にそばを詰め込んだまま三島さんが答えた。
「日本ではほとんど記録がありませんが、海外では、特にキリスト教圏では【祈り】スキルを覚えるハンターは聖女と呼ばれています」
「「「聖女!?」」」
聖女って……あ、智と目が合った。
「聖女には3タイプあって、バッファー、ヒーラー、ファイターと呼ばれています」
「あたしはバッファータイプだ。聖女って柄じゃないけど」
「最初はみな【祈り】を覚えますが、5レベルで覚えるスキルでタイプが分かれると海外のギルドに記録がありました」
「はえー、そうなんだ。ファイターって戦闘スキルを覚えるのかな?」
「肉弾戦スキルを覚えるようです。キリスト教の聖職者をイメージしたのか、刃物を使うスキルは覚えないそうですね。ただ、レベル10で【祈り】スキルの上位版と、レベル25でさらに上位版を覚えるのは3タイプ共通のようです」
「ってことは、三島さんもレベル10で【大いなる祈り】を覚えるんだね」
「じゃ、じゃあ、わたしは――」
「三島さん、スキルは伏せておくべきです。聖女はどのタイプも強力です。特にヒーラーだった場合は絶対に口外してはいけません。よからぬ人間がよからぬ企みをして巻き込まれる可能性があります」
「はははははい!」
京香さんが被せて言葉を遮ると三島さんが姿勢を正した。
「由比ヶ浜君もいいですね? 【鑑定】でレベルはバレますがスキルは知ることができません。レベルを突っ込まれたら「戦闘で役に立つスキルではなかった」とがっかりした演技をすればよいでしょう」
「わかりました」
由比ヶ浜君は真剣な顔でうなずく。美奈子ちゃんは無言でお口にチャックのジェスチャーをして、葉子ちゃんは「内緒だゼー」と笑っていた。
「あたしは知られちゃってるなー」
「智は守君が全力で守ってくれます。むしろ知らしめた上で背後には絶対的な守護者がいると広めたほうが安全です」
「もちろん智は守るけど、俺はみなも守るつもりだよ」
寄らば大樹の陰。頑張って大樹になるぜ。
「聖女は大器晩成型といえるので、焦らずにじっくり成長していきましょう」
「だって三島さん。焦らないで行こうよ!」
「はい!」
いい返事の三島さん。強張ってた表情も柔らかくなってかわいい感じ。彼女は身長も低めだからか、小動物的な印象になった。
「敵は男だけではありません。女だけのクラン【百合の園】などに攫われる可能性もあります。あそこは同性愛者で構成されているという噂です」
「わわわたし、ノーマルです!」
「そんなのは染めてしまえば良いのです」
「いいいいやです」
青い顔の三島さんが智に縋り付く。
「怖いことがあったらここに逃げてくればいーわよー。ここには日比谷ダンジョンを踏破しちゃう強ーい人がいるからねー」
「逃げることは悪いことではありません。生きてこそです」
「は、はい!」
瀬奈さんと京香さんになだめられた三島さんは、元気よく返事した。




