38.日比谷からの客人③
「まじ? まじ【祈り】?」
智が身を乗りだすと三島さんはぶんぶんと頭を縦に振る。
「大変だったでしょ! でも大丈夫! 使えないスキルじゃないから!」
智が三島さんの手をぎゅっと握る。三島さんが唇をかんだ。
「ああの、市船のハンター祭りの配信を見て、すごく強い佐倉さんがいて、いいなぁすごいなぁかっこいいなぁって。わたし、ダンジョンで、何も、できなくって……」
三島さんが涙をこぼし始めた。
「大丈夫! 泣かなくってもいいから! 【祈り】は使えないスキルじゃないから!」
「ででででも」
「よし、今から証明しに行くよ!」
智が勢い良く立ち上がる。
「智、急ぎすぎ。この子の情緒がついてきてないわよ」
「だ。だいじょうぶ、でず」
美奈子ちゃんがストッパーになろうとしたけど三島さんが泣きながらも立ち上がる。もう止まらないか。
「美奈子ちゃん葉子ちゃん、頼んでいい?」
「わかりました」
「マッカセロー!」
「よし、行くよ!」
「智、刀を持ってくるから入り口で待ってなさいよ?」
「はいはい。あ、君も来るよね?」
「はい、ご一緒させていただきます!」
智が三島さんの手を引っ張って出ていくと、ぞろぞろ後に続く。
「智、最低でもレベル5にしてきなさい」
「はーい わかったー」
京香さんが声をかけた時はすでに玄関を出てたけど聞こえたらしい。思い立ったが吉日な行動力だな。その行動力のおかげでうちに来たんだけども。
「さて俺はちゃっちゃと夕食の準備をしますかね」
あっちは若い人に任せよう。俺も若いけど。
「こっちこっち」
「わわわ、お墓だ」
「墓地の奥だからね」
佐倉は三島の手をぐいぐい引っ張っていく。初めての【祈り】仲間にタガが外れてしまっていた。
四街道と柏はスキルを分かり合えるクラスメイトはいたが佐倉にはいなかった。それが目の前にいるのだ。
そしてこの場には佐倉を抑える姉ふたりと夫はいない。暴走機関車のブレーキはないも同然だった。
「ここは、動画の通りですね」
「そりゃー、ここだしナー」
由比ヶ浜には柏がついた。四街道は部屋で刀を持って走っているころだろう。
ビニールハウスのゲートに到着すると、同時に四街道も追いついた。
「まったく、武器もなしに入るのは油断しすぎよ」
「あはは、うれしくってつい」
四街道に窘められるも佐倉は笑うばかり。四街道もため息を隠さない。
「智がいれば万が一もないけど、わたしが先頭につくから、勝手に前に出ないでよ?」
「はーい」
「まったくもう」
こんなふたりのやり取りを、由比ヶ浜はキラキラした目で見てる。
「わぁ、目の前で、なんて尊い……」
こいつも問題がありそうだった。
一行は四街道を先頭にダンジョンの階段を下りる。
「お墓……」
三島がつぶやく。驚きと恐怖が混ざった声だ。空は逢魔が刻。本能が恐れを感じるのだろう。
「あ、あれ……」
由比ヶ浜が指し示す先には、ゴブリンスケルトン3体がカタカタと石畳を歩いている。
「ちょうどいいから【祈り】で成仏させちゃおう」
「じょ、成仏、ですか?」
「そう。スキルを使ったあとにもやみたいのが空に上がっていくの。やってみて!」
「ははははい!」
三島と由比ヶ浜を守るように四街道が先頭に立ち、横には佐倉と柏が固める。ゴブリンスケルトンに後れを取るなど考えられないが手は抜かない。ここには武者幽鬼も出ているのだ。
三島はおびえながらもゴブリンスケルトンから目を離さない。
ぎゅっと唇をかみパンと手を合わせた。
「【祈り】!」
叫ぶようにスキルを発動させると、ゴブリンスケルトンが光り、魔石を残し消滅する。
「あ……」
三島が大きく目を開く。彼女の視線の先に霧のような白い何かがふわりと立ち上り、空気に溶けるように消えていった。
「成仏……」
「魔物に成仏があってるのかは知らないけど、こいつらはアンデッドだから成仏かなって。ここってお寺だし」
「守もそう言うしね」と佐倉がほほ笑む。三島はもやが消えた逢魔が刻の空を見つめたままだ。
「……あの魂は、どこに行くんですか?」
「んー、お坊さんのお父さんが言うには、輪廻っていって、いろんな世界をぐるぐる巡るんだって」
「輪廻、ですか」
「もしかしたら次は人間かもね。魔物やってるより楽しいからこっちにおいでって感じ」
佐倉はにっと笑う。つられて三島も笑顔になった。
「あ、レベルが上がりました!」
三島がぴゃっと両手を上げる。顔は驚きと嬉しさでへんてこになってる。
「よーし、この調子でレベル5まで一気に行くよ!」
暴走機関車に燃料が追加されてしまった。
それから30分ほどダンジョンを掃除して、一行は地上へ戻った。




