233-続き-
「あらあら〜。あなたってばほ〜んと勘だけはいいのね。
そうよ、これが本来のリクカルトそして、私がメテオリットの生みの親でヌワトルフを操ってた張本人♪ 気づかれる前に殺しておくべきだったわね」
そう言い、長く続く階段からゆっくり降り現れたのは僕の……死んだはずの母さんだった。
「なんで母さんが……?」
僕は動揺を隠しきれずにボソリと呟く。だけど、そんな僕の様子を察したのか、カルマンがよくわからないことを口にしはじめる。
「動揺するな! あれはおまえの本当の母親ではない」
だけど、急にそんなことを言われても、眼前にいる女性は僕の母さんにそっくりなわけで……。そもそも、さっきまでカルマンは、顔を強ばらせていたんだよ?
なのに、これ以上誰かを殺させはしないと言わんばかりの切り替えの速さ。むしろカルマンが何も見えていないんじゃ……僕はそう思ってしまった。
そんな僕のことなんて気に留めることなく母さんは、チラリとカルマンへと視線を投じ――くすりと、不思議な笑みを浮かべる。
「あら? ヌワトルフが死んだって言うのにカルマン、どうして正常な判断ができているのかしら?」
だけど、その話は僕には理解できないもので……。なんの話をしているんだろ……? そう訝しみながらも蚊帳の外。どうやらカルマンは、僕の母さんの言っていることを理解している様子で、不敵な笑みを浮かべると、黒い紐のようなものを掲げるようにして母さんへと見せつけ告げる。
「ふっ、これのことだろ?」
「あら〜。気づかれちゃったのね〜。
仕方ないわ〜。手間を取らせるなんて、ほんと面倒な子。大人しく付けていればいいものを」
「うるさい! 紛い物のゲスが!」
そんなカルマンを見下ろしながらも母さんは、指をパチンと鳴らし、玉座のようなものを具現化する。
そして当たり前な様子でそこに腰を下ろすと、嘲るような笑みをこぼし言う。
「あらあら〜。そんな悪い言葉を教えたつもりはないのだけど〜
いつそんな言葉を覚えたのかしら?」
だけど、それは僕の知らない記憶そのもの。そして、カルマンもそうだったらしい。
「おまえに育てられた覚えはない!」
そう言って、全力で母さんの言葉を一蹴する。けれど、母さんは動じない。むしろ、カルマンを弄ぶような態度で言葉を続ける。
「あら? まだあの呪いは解けていないのね残念だわ〜
未だにヌワトルフの実の子供だと思っているなんて滑稽ね〜」
「は? どういうことだ!?」
「さ〜て。私にはよく解らないわ〜。それに、知っていたとしても、すぐに教えるなんて――ふふっ。つまらないでしょう?」
「つまらないもクソもねぇだろ! お前は何を隠してる!?」
徐々に苛立ちを募らせるカルマン。そんなカルマンへと嘲笑を向け続ける母さん。蚊帳の外に放り出されたままの僕やルフーラ。
僕は二人がなんの話をしているのかわからないまま、話をぶった斬るようにして問いかけた。
「母さん! あなたは本当に母さんなの?」
どうして、その問いを投げかけたのか――僕自身わからない。多分だけど、眼前の母さんを本当の母さんだと定義したかったんだと思う。
でも聞き方が悪かった。
「えぇそうよ」
本当の母さんなのか? と問いかけたところで、本物だろうと偽物だろうと、肯定を示すことなんて端からわかっていたことなのに、どうして僕はそんなことを聞いたのか。僅かに疑問を覚える。だけどここで聞き方を誤ったと反省しても意味はない。だから僕は、別の質問を投げかけた。
「楽しい人生を送れた?」
「勿論よ! あなたとあの子が居れば私は幸せでしかなかったわ」
「あの子って?」
「……あの子はあの子よ?
あなたのお兄さんのこと」
その答えからして、僕が信じたかった母さんは、カルマンが言う通り、本当の母さんではないんだと思う。
だけど……だけど僕は、それでも母さんと信じたくて、切り札のような問いを続けざまにした。
「……本当に幸せだったの?
だったら答えて……。あの時、どうしてあんな手紙を残したの?」
瞬間、刹那の沈黙が訪れる。
そして――
母さんは軽く考えを巡らせるように瞳をぐるんと一周させると、ぽつりと問いを口にした。
「手紙……?」
だけど、それ以上の言葉を返す気は毛頭なかったらしい。ううん、もしかすると答えられなかっただけかも。
だから僕は小さく頷砕けに留め、その続きを待った。
けれど、母さんはそんな僕の期待に応えることはなく。むしろ、
「あれは……気の迷いよ! また再会できたのだからそんなことどうでも良くないかしら〜?」
そう言って、答えをはぐらかしてしまう。
それが決定打になることとも知らずに。
そもそも、今まで母さんは僕の兄さんである“シルプ”の事を“あの子”と呼ぶことは少なく。あの子はあの子よなんて絶対に言わない。
それに手紙のことだってはぐらかすことはない。絶対、内容を恥ずかしがりながらでも教えてくれるはず。だから問いを重ねた。
「あなたは誰……?」
瞬間、母さんは呆れを覚えるかのように嘆息をひとつ。まるで、バレてしまったのならば、仕方ないとでも言うように、ぶくぶくと体を膨らませ――弾けてしまう。
そこから現れたのは、予想だにしていなかった小さな少女。




