232-新たな刺客-
蛇の骨を被ったタナストシアの正体はまさかのヌワトルフ神父だった。
ヌワトルフ神父の最期は呆気なく、今まで自然の理に反していたからか、骨もなにも残さず、塵のように消えて行った。
そして、フェルもそんな神父を追いかけるように、規定回数の契約違反を理由に、自ら消滅の道を選んだ。
かなりの犠牲を払ったけど、これでもう終わりなんだ……。そう思いながらも皆の死に憂いていると、カルマンがヌワトルフ神父が消滅し、僕と戦う理由がもうないと、終戦を提案してきた。
僕の方はヘレナとフェル……それから、もしかするとクルトを失ったけどルフーラはまだ生きている。
カルマンの方は鹿の被り物をした人を僕が殺しちゃったけど……まあ、アリエルは生きている。
お互い失った者はあれど、これ以上傷つけ合う必要がないなら、それは願ったり叶ったりなところ。
だから僕はその提案を受け入れようとした。
だけど――
「カルマン様、危ない……!」
その言葉で再び緊張が走り抜ける。
何があったか正直わからない。でも、その声と共に、僕の眼前で血飛沫が弾け飛んだ。
「え……?」
「は……?」
何が起こったのか、一切理解できない。
けれどアリエルが声を上げて、視線を動かしたら血が吹き出していた。
「どういうこと……?」
僕は何が何だかわからずぽつりと呟いた。
でも、言葉を零したからって言って、何かが変わることなんてない。ただ、理解が何も出来なくて、頭が白く染まっていくばかり。
そんな僕を見兼ねたのか。それとも別の感情か。突然、カルマンが声を荒らげ叫ぶ。
「おい! なんでもいいからまずは止血だ!
おまえの力をこいつに使ってくれ!」
それは、僕に向けられた言葉。だけど、すぐには動けなかった。ううん。頭が真っ白になっていたんだから仕方ないと思う。
そもそもカルマンの言葉は重要な部分が空白すぎるわけで……。
そんな僕に苛立ちを覚えたんだと思う。
「おい、聞いているのか!?」
カルマンはそう言って再び声を荒らげた。
それを受けた僕は、ハッと我に返りながらも「わかった」と一言。アリエルを治癒する為、心臓に手をかざそうとした。
でも、どんな時でも邪魔は入ってくるんだね。
「させないわ!」
どこからともなく、聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、アリエルの心臓部に柄の長い刃が飛来し、そのまま深く差し込まれていく。
それは自然の理を凌駕し、人為的又は作為的とも言える異常事態。そんな現状を前に、アリエルは“うっ……”と一言。眉間を顰め歯を食いしばる。
でと、自分が助からないことを心のどこかで直感しちゃったんだと思う。アリエルは、僕には一切理解できないことを突然カルマンへと口にしはじめた。
「ご主人様……ううん。
カルマ……は……のこと……覚えて……ないだろうけど
ずっと……傍に居させてくれて……ありが……」
その言葉は途切れ途切れで、僕には全てを聞き取れなかった。
でも、カルマンには何を言っていたのか聞き取れたんだと思う。まるで、今しがた隠されていた真実を知ってしまったというように目を見開きながらも、尚もそれを認めたくないという防衛本能でも働かせるようにして問いかける。
「どういうことだ!? 起きろ! おい!」
でも、アリエルが目を覚ますことは皆無。それどころか、僕たちはずっと、アリエルの術中にハマっていたのか。今まで見ていた世界は嘘のように崩れ始め、廃屋のようなボロボロになった教会が突如として現れる。
ボロボロの教会は、扉も壁も殆どが大破しているからか、中に居るにもかかわらず、外が見える。
外の景色は過去の大戦にでもスリップしたかのようにあちらこちらに死体が無造作に転がり、月がもう少しで完全に消えようとしていた。
もしかするとアリエルが神から与えられた力で、美しい街並みに見える幻覚を魅せられていたのかもしれない。
「これは……どういうことなの?」
僕はドクドクと心臓を激しく鼓動させながらも、必死に震える唇を動かし問い掛ける。
そんな僕の問いを拾い上げるようにしてカルマンは、ぽつりと応じてくれた。
「……今まで俺たちが見ていたリクカルトは、こいつが、見せていた幻覚だ」
今まで見ていたリクカルトは、幻覚……?
それはどういうこと? カルマンは何を言っているの?
疑問が喉の奥で突っかかて、締め付けていく。
でも実際問題……。ううん、この現状から察するに、本当のリクカルトはかなり昔になくなっていた。それを隠すためにアリエルの力を使って隠していた。と言われれば、信用できる気もする。
それに、よくよく思い返してみれば、どんなことがあっても、翌日には綺麗な街並みに戻っていた。
だから、カルマンの説明は恐らく本当のことなんだと思う。だけど、どうしてこういう状況になったのか――わからない。
それに、どうしてそんなことをしてまで、リクカルトを存命させようとしたんだろ? ううん。普通ならば、生き残った皆で復国させる方が、結果的に良かったはず。
なのに、どうして幻影なんていつかはバレそうなことを……?
脳裏でぐるぐると渦巻く疑念たち。だけど、その答えを教えてくれる人は多分……存在しな――ううん。一人だけ。知っていそうな人がいる。
僕は色んな気持ちをぐっと内心に抑えながらも、カルマンの方へと歩み寄る。とはいえ、カルマンが知っている人物だとは思っていない。カルマンが居る奥。長く続く階段の上にいるであろう、人物に聞いた。
「これが本来のリクカルトってことなんですね」
ヌワトルフの過去とか、そういうのもあったっぽいですが、必要ないと思ったので、ガッツリ削りました。
後半戦でもう間もなく終了くらいですので、生暖かな目で見守ってくださいませ。必然性とか皆無なのはもう許してどこから手をつけるべきかわからないくらい色々と足りていないのには目を瞑ってくださると嬉しいです。




