表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
会計士、転生したら万能の仙人だったけどコンプライアンスだけは譲れません  作者: もりそんば
第二十章 期末試験と幸子さんと利修のコンプライアンス
242/243

期末試験と幸子さんと利修のコンプライアンス(9)



2031年3月。期末進級試験にて大量の赤点をとってしまった杏那さん。



これにより杏那さんは利修仙人のパートナーの欠格事由に該当し、パートナー降板の危機に瀕していた。杏那さんに最後のワンチャンスを与えるべく、幸子さんとの姉妹対決「伴侶入れ替え決定戦」が開催された。



わがまま大臣、瑞姫さん指定のセクシャルハラスメント満載な、コンプライアンス的にも真っ黒な謎審査ではあったが、勝負を制したのは幸子さんであり、杏那さんは仙人の伴侶を幸子さんに譲り渡すこととなった。



その翌日、幸子さんとバイト先の傘すぎで、何年かぶりでお店を訪れたという幸子さんの常連客を迎え入れたとき、突然のリコちゃんからの呼び出しがあった。





「お兄さま、久しぶりの政府指示による出動要請です。ずっと観測対象としていた鳳来地区地下の、設楽火山系の活動状況が不穏になっているということで、活動鎮静化している次元球面へのパラレルシフトを実行することを依頼されています。幸子さんと供に、直ちに出動可能でしょうか?」



「分かった。すぐに行くよ。青山野先輩といろはさんは?」



「すでに出動準備完了し、鏡岩ベースに転位済みです。」



「幸子さんリコちゃんからの連絡です。プロジェクトRi Xiu での出動要請です。今すぐ、現場出動、転位準備できますか?」



「え、今すぐ?お店はどうするの?今日は杏那もいないし。臨時のバイトさんもいないよ。」



「お客さんに状況説明して、一時閉店するしかないですよ。」



「えぇ、シンさんがせっかく来てくれたのに、わたしそんなことできればしたくない。」



「でもニホンの平和にかかることなんですよ。」



「・・・わ、分かったよ。ちゃんとシンさんに説明する。ちょっとまってて。」







「あの、シンさん、ごめんなさい。コーヒーお楽しみの途中で申し訳ございません。急用で店を閉めなくてはいけなくなってしまいました。お代は結構ですから、いま、このまま退店頂くことはできないでしょうか。本当に申し訳ございません。」



「おやおや、ワシの方が時間がないかと思っていたら。お店のほうが何か急ぎの用事ですか。それならしょうがないですね。食べかけのケーキがもったいないですが、そういうことであれば今日はこれで失礼しましょう。」



「シンさん、本当に申し訳ございません。また来ていただいたときはゆっくりしていってください。」



幸子さんにとっては本当にショックな出来事だったと思う。しかしリコちゃんからの指令の背景にはプロジェクト Ri Xiu ひいては、日本政府総務省ないし防衛省からの指示があるものであって、現場担当者だけの意思で無視するわけにも行かない。



結果的に、大恩あるお客さんをお店の都合で追い出すような形になってしまったことの心の整理はまだついていない。それでも最後のお客様の退店を確認してすぐ、店舗に鍵をかけて鏡岩ベースに幸子さんと一緒に神足通で転位する。



「お兄さま、幸子さん、計画時刻から13分の遅れです。」



「ほかの皆様には繰り返しの説明になりますので、手短の説明をします。今回の案件は、いつもの次元球面パラレルシフトです。席についていただき次第、術式を開始します。幸子さんも早く、席について、安全と術式執行のためのヘッドセットを装着してください。手順は前回説明したとおりです。」



「リコちゃん、遅れてごめんなさい。」



幸子さんは慌てて席に着くが、先ほどの常連さんの事もあるのだろう、全体的に段取りがおぼつかない。ヘッドセットの装着に手こずっている。



「幸子さん、早く準備を完了してください。14分以上の計画時間からの遅れが生じています。」



リコちゃんがそういうと、幸子さんは焦ってかえって手間取っているようにみえる。



「幸子さん、大丈夫です。ゆっくり落ち着いてやって下さい。」僕は声を掛ける。



「設楽火山のマグマの活動状況のシミュレーション結果と、複数次元球面のマグマの様子から、最も噴火の可能性の低い次元球面へのシフトを実行します。第34次自動抽出までに選択された次元球面は約4000件。最終自動抽出で検出された次元球面は2件です。皆様への肉体的な負担はきわめて軽微と推定されています。術式実行に伴う生体への危険性はほとんどゼロと断定します。」



「この2件のうち、マグマの状況以外に、世界に与える影響はどんなものが生じそう?」



リコちゃんに尋ねる。



「マグマの動き一つも、北京の蝶の羽の一羽ばたきがロサンゼルスでトルネードを起こすように、世界の動きは一つ一つが連動しており、どんな些細な要素であっても大きな影響を及ぼす可能性があります。


 お兄さまの言われるような、世界への影響のすべてを説明するのは簡単ではありませんが、影響を受ける要素データをお兄さまのヘッドセットに転送しておりますので、そちらで確認ください。ただ膨大な量がありますので、全部解読しようとすれば1カ月程度の時間が必要となるかもしれません。」



「そこまでのデータは不要だよ。15分くらいでわかる量に要約できるかな。」



「承知しました。AIによる自動要約を実行します。・・・完了しました。ほとんど目に見える相違は今回の球面次元パラレルシフトでは生じないという結論が出ています。」



リコちゃんの要約をざっと確認し、僕は当面の間、もっともシタラ火山の噴火リスクが低いと基幹システムによって評価された次元球面を選択し、パラレルシフトの術式を実行した。



「3,2,1。・・・カウント終了。術式実行完了です。以後、約20分間の記憶補正他、自動処理シークエンスに入りました。皆様お疲れさまでした。ヘッドセットを外して、各自席からも離席いただいて結構です。」



「ふぅ、久しぶりの鏡岩集合で、ちょっと緊張したね。青山野先輩大丈夫でした?」



「わたしはいまだにここが鳳来寺山の鏡岩の中だということが信じられません。毎回パラレルシフトの術式を実行するたびに、頭がふわふわします。」青山野先輩がいった。



いつもならここで杏那さんが、何か口を挟んでくるところだが、今日は杏那さんはいない。



なんとなくさみしい感じというか、違和感を感じながら、杏那さんの代わりに今日この場にいる幸子さんに呼びかけようとしたところ、リコちゃんが幸子さんに声を掛ける。



「幸子さんは、初めての鏡岩での術式でしたが、ご気分など悪くなっておりませんか?」



「あ、ありがとう。リコちゃん。今のところは大丈夫みたい。ちょっと頭がふわふわしてるけど。今回は、遅刻して、ののちゃん、いろはちゃん、いろいろ手間取っちゃってごめんなさいね。」



幸子さんの初出動となるが、なんとなく幸子さんにとっては気分の良くない初出動の経験になったように思われる。



そんな幸子さんの様子に、少し不安を憶えたが、その不安が実現するのは早速、翌日の事であった。







初出動の翌日、バイトの時刻に店を訪れた時点で、幸子さんにつかまった。



あの、伴侶交代のキス競技以来、幸子さんの顔を見ると、自分の顔が真っ赤になっているのではないかと思うくらい、体が熱くなる。



ただ幸子さんには自分と同じような症状が見られないのが非常にさみしい限りである。ちょっとくらい照れてもいいのに、あのキスも幸子さんにとっては、これまで経験してきた何人ものとのキスのうち、ただの一人とのキスにすぎない、といわれているようで少しだけ寂しくなる。



というかオブラート越しのキスなんていうのは、大人から見れば遊びみたいなものなのだろうか。



「あれ、幸子さん?どうしたんですか?お店営業時間中ですよね?」



「わたし、りっくんの伴侶、続けるのは難しいかもしれない。・・・ごめんなさい。」



昨日の様子を見ていて、ある程度予想していた幸子さんの言葉である。ただもう最初の出動の翌日に、すぐこの段階の話が来るとまでは予想できていなかった。




「昨日一晩考えたの。わたしが喫茶店経営しているのは、そこにいるお客さんがそこにいることで幸せになってくれることを目指してるからなんだよ。


 もし、それよりも優先することができちゃったら、もう喫茶店経営をやる意味がなくなっちゃうような気がするんだよ。昨日も久しぶりの常連さんを途中でお店から帰らせちゃうようなことがあったし、それはわたしが望む喫茶店経営の姿じゃないんだよ。」



幸子さんは泣きながら言った。昨晩はずっと僕、利修に対する責任と、喫茶店オーナーとしての責任を比較して悩み続けたのであろう。



暫くの沈黙が続いた。幸子さんの鳴き声だけが静かに聞こえる。



「幸子さん、正直に言ってくれてありがとうございます。幸子さんの気持ちもよくわかりました。一度瑞姫さんともよく話し合ってみようと思います。ちょっとだけ時間を頂いてもいいでしょうか?」



「ごめんね、りっくん。わがまま言って。本当にごめんなさい。本当は、あなたの役に立てると思ったのに。ごめんなさい。リコちゃんや、瑞姫ちゃんにもごめんなさいを伝えたいんだけど、まずはりっくんに伝えちゃった。メッセンジャーみたいに使っちゃってごめんね。」




僕はそっと幸子さんの肩を受けとめ、背中をなでる。それにつれて、幸子さんの泣き声は少しずつ小さくなっていった。



「幸子さん、この話は、本当に大丈夫ですから。きっと何とかなりますよ。早くお店に戻らないと、モーニングの常連客さんが待ちくたびれちゃってますよ。急がないと。」



「うん、うん、そうだね。早く戻ろう。りっくん、ありがとう。」



幸子さんにはそういったものの、代わりに早坂会長やこぶしさんを伴侶に迎え入れるのは、いささかはばかられる。



杏那さんに再度伴侶への復帰を期待したいところであるが、一体どのような手段を取ればそれが適うのであろうか?僕は、仕事の準備を開始しつつ、答えのない難題に同時にとらわれていくのであった。




続く




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ