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会計士、転生したら万能の仙人だったけどコンプライアンスだけは譲れません  作者: もりそんば
第二十章 期末試験と幸子さんと利修のコンプライアンス
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期末試験と幸子さんと利修のコンプライアンス(8)



2031年3月。期末進級試験にて大量の赤点をとってしまった杏那さん。



これにより杏那さんは利修仙人のパートナーの欠格事由に該当し、パートナー降板の危機に瀕していた。杏那さんに最後のワンチャンスを与えるべく、いちかばちか「伴侶入れ替え決定戦」をやるべきではないかと提案したところ、意外とすんなり許諾され、入れ替え候補者である幸子さんと、杏那さんの姉妹入れ替え決定戦の開催が決定された。



しかし、入れ替え決定戦は、瑞姫さんのわがままにより、水着審査だの、水着歌唱審査だのどう考えてもコンプライアンス的にも不適切な協議によって行われた。しかも協議の結果はすべて引き分け。



勝負つかずという残念な結果に終わりそうになりかけたとき、瑞姫さんが言った。



「では最後は・・・せっかくふたりとも水着なわけだし、大人の魅力審査にしよう。利修くんをより大人にした方が勝者だ。」



一度は闇に葬むったはずのセクシー力審査みたいな競技が、まさかの復活を遂げた。瑞姫さんの頭の中にはこんな事しかないのか。



というか第二競技以降、二人ともがずっと水着のままだったのが不味かった。二人の体調を気遣う名目で、着替えを提案しておけばよかった。ずっと華麗なる水着姿に目を奪われて、我が内なるジョージの命令に抗することができなかったのはうかつとしか言いようがない。



「あの、瑞姫さん、それどういう意味ですか?それに利修くんも杏那さんも15歳ですよ、さすがに大人の何か的な何かは不味いです。」



「うーん、じゃぁ、キス審査くらいならいいだろう?よりえっちなキスをして、審査員を興奮させた方が勝ちっていうのはどうかな。」



「なっ、キスですか。ちょっと待ってください!それだって僕ら、まだ未体験なんですよ。・・・のはずですよ。こんな審査で初キスするのはちょっと。ていうかキスでどうやって勝負をつけるんですか?ていうか僕も審査員なんですけど。審査はどうするつもりなんですか?」



「ほぉう、利修くんのファースト・キスか!それを見られるなんて眼福よな。長生きはするものだね。どちらが利修くんのファーストキスを奪うかの勝負というのはどうかね?早く名乗りをあげた側がかなり有利になるってってことだな?」」



いかん、火に油を注ぐ結果になってしまった。この競技は止めないとまずいことになる。



「あの、今の競技方法について提案があります。」



そういったのはずっとオブザーバーとしておとなしく場の成り行きを教室の隅で見ていた、青山野先輩であった。



「ここにオブラートがあります。シンシロ製のシンシロオブラートです。せめて、これ越しでのキスという事にしませんか。ほとんど普通にキスするのと一緒だと思いますし。でも本当のキスにはなりませんし・・・」



「ふむぅ、なにか一種の避妊具みたいな感じだな。いいだろう。かえって興奮するぞ。そのちょっと控え目なキスの作法をつうじてわたしをより興奮させたほうが勝ちというのでどうだ?」



かえって興奮するという瑞姫さんの反応に青山野先輩の顔が真っ赤になる。



「より興奮させたほうが勝ちっていう基準はまたあいまいですが、それで二人に違いをつけられますか?それが可能ならそれでやってみましょうか。」



「もちろん判定はする。OK、ではどっちから試技開始するかい?幸子さんか?杏那さんか?」



「じゃぁ、わたしが先にやります。」



手を挙げたのは幸子さんであった。杏那さんも、手をあげようとしたようだが、何かの力がはたらいてどうしても手をあげられなかった様子である。杏那さんは、幸子さんが先制権を得たことに、唇を噛んで悔しそうに状況を見詰めている。



そんな杏那さんを気にも止めず、幸子さんが、僕のそばによってきた後、幸子さんは静かに耳元でつぶやいた。



「ね、りっくん。お姉さんに任せて、目を閉じればいいんだよ。」



「は、はい!」



「緊張しないで、体をリラックスして、そのままわたしに体を預けてごらんなさい。」



「は、はい!」



「そうよ。それでいいの。そのまま目をつぶってて。いくよ・・・」



いつ青山野先輩の言ったオブラートが使用されたのか、全く認識できないまま、僕の唇は幸子さんの唇を迎えた。それは一瞬の事だったはずだが、曲がりなりにもずっと思いを寄せていた女性からのキス。



僕の意識は遥か宇宙にでも飛んでいったような感覚を憶えていた。



キスが終わったあと、僕はその場にへたり込んでしばらく動けなくなってしまった。何か新しい世界の扉を開けてしまったようだ。腰が抜けて頭がほわんほわんしている。



本当は僕のほうがリードしたかったのだが、大人の幸子さんにいいようにやられてしまった。というかこんな形で初めてのキスをすることになるとは思わなかった。オブラート越しではあるが。



オブラート越しのキスでは、実は青山野先輩と一度経験済みではあるが、全然内容が違った。これが大人の女性の経験の差というやつなのだろうか。



「うーん、さすがさっちゃん、年の甲って言ったら怒られるが、経験の分、技ありってところだな。もうすでに、じゅんじゅん滾ってきたぞ。さぁ、杏那ちゃん、今度はキミの番だぞ。」



「・・・わたしには無理です。こんな場所でりっくんとキスなんてできません。」



「あの、オブラートあればキスにはならないはずだから。」青山野先輩が言う。



「そんなのあっても無理なものは無理、わたしはもっとちゃんとした場所で、ちゃんとしたやり方でりっくんとキスしたい!もう、お姉ちゃんの馬鹿!みんなの馬鹿!こんなの絶対間違ってるよ!!さっきからの水着審査とか、こんなよくわからないことで仙人の伴侶を決めるっていうなら、もう勝手にしたらいい。私はもうやめる!!」



そういって部屋から駆け出していく杏那さん。これによって、どう見ても杏那さんのリタイア、幸子さんの勝利が確定したかにみえた。



勝敗を決めたのは、オブラート越しの模擬キス勝負。杏那さんはリタイア。幸子さんは大人の余裕、というほど経験豊富なわけではないのかもしれないが、個人的には経験豊富でないことを祈っているのだが、オブラートキスは容易にクリアしている。



勝負の結論は誰の目にも明らかである。



「ふむ、杏那ちゃんが逃げ出してはしょうがないな、では伴侶交代ということで、みんな異論はないか?」



「・・・しょうがないですね。僕は杏那さんを推したかったのですが。」



「だが、利修くんが決めた方法での決着がついたわけだしな。今さらそのルールを反故にするわけには行かないだろう。」



残念ながら、瑞姫さんのいう事には一部の反論のスキもない。



これによって、僕の応援も空しく、杏那さんから瑞姫さんへの伴侶交代が正式に決定したのであった。







杏那さんが利修の伴侶交代を告げられた翌日。さぞや杏那さんも落胆しているかと思ったが、早朝からの期末試験の補習授業のため、自宅でも朝から会う機会がないままであった。



せめて無事に今日から春休み一杯の補習授業を乗り越えて頂きたい。杏那さんの無事をそっと願った。






いつも通り学校帰りの夕方、傘すぎでのアルバイト中。食器洗いをしていると、お店に一人の来客があった。僕自身は見かけたことのない、初老の紳士である。



「どうもこんにちは、ご無沙汰してますが、やってますか?」



「シンさん!シンさんじゃないですか。お久しぶりです!」



「おやおや、幸子さん。相変わらずお美しい。お変わりなく何よりです。」



「嫌だ、シンさん、相変わらずお上手ね。」



幸子さんが嬉しそうに話をしている初老の男性は、シンさんというらしい。以前は長く鳳来地区に暮らしていたが、一度体を悪くして、鳳来よりももうちょっと市街区の方に引っ越したそうで、引っ越しまでは傘すぎの常連だったという。



鳳来地区にいたときはお店のコアな常連客だったそうだが、お店にくるのはずいぶんと久しぶりらしい。



「シンさんは、カフェ傘すぎの最初の常連客の一人なのよ。お母さんがお店をやっていた時代の最初の常連客。すごいでしょう?お店にとっては福の神みたいな人なの。」



「へぇ、7年以上、いやもっと長い間の常連さんってことですか。すごいですね。」



「いやいや、最近はシンシロの街のほうに引っ越ししてしまったから、すっかりここもご無沙汰になってしまってますわ。ちなみに妹さんの方もお元気ですか?」



「杏那ですか、よく覚えてくださってますね。今はもう高校1年生になりましたよ。」



「ほう、杏那さんが高校1年生ですか。年が経つのは早いですね。わたしもあといつまでこのお店に来られるか分かりませんしな。」



「いやだ、そんなことおっしゃらずに、またいつでもお店に来てください。今日は、何かこちらにくる用事があったんですか?」



「久しぶりに鳳来の実家に用事がありましてな。ちょっと時間ができたもので、このお店のことが懐かしくてちょっと顔を出した次第です。なので、残念ながらあまり時間が取れないのです。コーヒー一杯だけでも頂いて帰ろうかなと思っております。」



「そうなんですね。ゆっくりして頂けないのは残念ですが、すぐにいつものコーヒーセット用意しますね。」



「おやおや、もうしばらく来ていないのに、いつもワシの頼むものまでよく覚えておりましたな。」



「シンさんはいつも、コーヒーセットだったじゃないですか。忘れませんよ。今日のコーヒーセットの、ケーキはチーズケーキですが、よろしかったですか?」



「ありがたいことですな。この店はいつ来ても落ち着く。」



久しぶりの常連客を迎えて、嬉しそうな幸子さんである。僕も片耳で、それを聞きながら今日のホットコーヒーの準備を始める。



リコちゃんからの電話が入ったのはそんなタイミングである。



続く




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