期末試験と幸子さんと利修のコンプライアンス(5)
2031年3月。期末進級試験にて大量の赤点をとってしまった杏那さん。
これにより杏那さんは利修仙人のパートナーの欠格事由に該当し、パートナー降板の危機に瀕していた。命運をにぎる瑞姫さんに、杏那さんに最後のワンチャンスを与えるべく、いちかばちか「伴侶入れ替え決定戦」をやるべきではないかと提案したところ、意外とすんなり許諾され、入れ替え候補者である幸子さんと、杏那さんの姉妹入れ替え決定戦の開催が決定された。
しかし、入れ替え決定戦について、何の種目で二人に競ってもらうか瑞姫さんと協議していたところ、瑞姫さんからは、水着審査だの、水着でのポージング、水着での歌唱テストなど、昭和のおやじのセクハラ要素満載な審査項目ばかりを打ち出してきた。コンプライアンス的にも不適切である。
「瑞姫さん、これ正気ですか?」
「うむ。女子力審査という言い方も古めかしい言い方だが、利修が当代は男性だから、仙人としての能力を最大元発揮できるよう、異性のパートナーとしてそこを補うための力を審査したい。また、水着審査もやろう。水着での歌唱力テストも一緒にやろう。これは仙人の伴侶としての胆力を試される。中々良い項目選定ではないか?」【注183】
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注183:女子力という言葉は、悪意のない誉め言葉として使われることもあるが、ジェンダーバイアス、すなわち男女の役割に無意識の固定的な概念をもつことによって、男女の扱いの社会的差別につながる可能性のある言葉でもある。
女子力ということばが何を指すかは人によって大きく変わるであろうが、例えばそれが、料理が上手なことだったり、伝統的に言われてきたような女性としてのやさしさや気遣いのようなものを指す場合、この言葉は、ジェンダーバイアスを肯定することになり、ひいては典型的な思い込みによる男女の性差を無自覚に認め、強化するような影響を与えるのではないだろうか。安直に女子力という言葉を使うことが適切なのか、一度慎重に考えたいところである。
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「あの、これ・・・確認ですけど、瑞姫さんの趣味がだいぶ入ってませんか?」
「そんなもの微塵も入っているわけがなかろう。何をいっているのだ?」
「・・・」
「ちなみに、女子力って、具体的には何を競うことになるんですか?」
「わた・・・、みんなの大好きなデザートの作成能力で勝負しよう。」
「いま、わたし、って言いかけませんでしたか?」
「いや、それは気のせいだろう。」
そんな感じで女子力勝負は、よくわからないまま、デザート競争という事になった。
ただこのデザート作成対決については、幸子さんも、杏那さんも二人とも傘すぎで出すケーキ類を自作できるプロフェッショナルである。やや年季の点で幸子さんが有利かもしれないが、審査員が素人である瑞姫さんなら、どっちに勝敗が転ぶかはわからない。
「あの、それから水着審査ってどういう事ですか?」
「それはもちろん、魅惑的なボデーを持っているかどうかを審査する項目だ。」
「ボデーですか・・・」【注184】
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注184:自動車業界などでは、現在でも車のボデーという表記を見ることが多い。かたや車のボディという表記の揺れも、各所にて多く散見される。
これはニホンの自動車メーカー各社が「dy 」という英語表記に対する音の日本語表記が定まっていなかった時代に、一度「デー」と表記を決定したため、社内あるいは取引先に対して余計な記載変更コストをかけないためにも、今でも根強く継続してボデーという表記が使われているという。ボデーという表記自体は中部首都圏を含むものづくりの社会では引き続き市民権のある表現であることは注意されたい。
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「それ、仙人の伴侶に必須の項目ですか?水着を含む、見た目審査とか、最近そういうのはコンプライアンス的に不味いんじゃないですか?」【注185】
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注185:昨今では、容姿に基づくコンテストや審査を中止する動きもある。着用する水着や、ポージングについての詳細なガイドラインを公表している自治体もある。
例え、少数人数による審査だとしても、国家的プロジェクトのメンバーを選定するのに、水着だの、容姿だのといった見た目に基づいてメンバーを決定することは、ルッキズム(外見至上主義)にもあたり、年齢・性別・国籍などのいかなる理由による差別を無くそうとするSDGsの活動等にも相反する行動と言えるだろう。
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「でたな、コンプライアンス。でも大丈夫だ。わたしが審査員だから。」
「いや、コンプライアンスってそういうものじゃない・・・・」
「うるさい、うるさい!水着審査は体の健康度を評価する項目なの。水着でのカラオケ点数競争もそれに付随する健康力評価の項目として決定したの!それ以上いうなら、問答無用でさっちゃんを伴侶に選定して終わりにするぞ!」
有無を言わせないというのはこういうことをいうのだろう。なんてわがままな女性だ。とても重要なプロジェクトの責任者を勤めている人とは思えない。
それに加えて、選定される人と、選定する人の普段の人間的距離が近すぎて、選定の独立性が全く保たれていない気がする。こんなことで総務省あるいは防衛省傘下の「プロジェクトRi Xiu」 ニホンの平和を守る利修仙人の大事な伴侶を決めてしまっていいのだろうか。
ラブコメして2年以内に、3人の伴侶を得なければ「永遠にさようなら」と言われて始まった魂の転生のシリアスさは一体どこへいったのだろうか。主に瑞姫さんを中心に、ちょっと最近規律がゆるみすぎている気がする。
「体力は、まぁいいとして、計算力とか計画力ってのはどういう事なんですか?」
「そりゃぁ、ニホンの防衛を担う利修を補佐するためには、計算や、計画が得意じゃなければ話にならんのではないか?」
「それをいうならそもそも学校のテストの成績とちょっと重複してるという説はありませんか?」
「・・・さっちゃんは最近学校のテストを受けてないから、特にその中から大事なものを選んだの!」
最初から予想していたことだが、やはりかなり瑞姫さんの思い付きが先行しているとしか思えない。
「わ、わかりました。それで、これは瑞姫さんが一人で審査されるんですか?」
「そのつもり。審査会場はここ、千寿が峰の研究所かな。利修くんの自宅でもいいけど。ついでに利修くんも審査員やるか?それともリコちゃんが審査員の方がいいか。」
「リコちゃんの方が審査員にふさわしいですね。僕はもう完全に幸子さん、杏那さんとの利害関係者ですから。あと、3月ですからね、水着審査、寒くてめっちゃ大変だと思いますからそこは部屋をあたためて風邪をひかないような配慮をしてくださると助かります。」
「言うねぇ、いい彼氏風の言い方。さっちゃんも、杏那ちゃんも大事にされてるんだねぇ。あ、でも、リコちゃんだけが審査員だと審査員の数が偶数になっちゃってまずいんじゃないか。やっぱり利修くんも審査員入ってくれるかな。」
「え!?」
「じゃぁ、そういうことでよろしく。水着審査楽しみにしててな~!!」
ホワイトボードにかかれたままの、お笑い力、セクシー力については、あえて何も触れなかった。このまま瑞姫さんが忘れることを期待したい。
僕はそっと二つの項目を消したうえで、スマホで議事録用の写真をとっておいた。
続く




