突風と小さな背中
大通りを抜け、冒険者ギルドの建物が見えてきた王都の中央広場。
朝の市場が開き、焼きたてのパンや色鮮やかな果物が並ぶ露店で賑わいを見せていた。
私が居心地の悪さに俯きながら広場の端を歩いていた、その時だ。
腹の底に響くような、重く恐ろしい地響きが地面を揺らした。
『ひいっ!? に、逃げろーっ!!』
『魔導馬だ! 討伐されたはずの大型魔物がおかしくなったぞ!!』
悲鳴と叫び声が怒号となって広場全体に巻き起こった。
見れば、広場の北側の路地から、体長三メートルを超える巨大な角を持った暴走魔導馬が飛び出してきたところだった。
黒い皮膚は禍々しい魔気を放ち、血と興奮で赤く染まった目を怒らせている。
魔導馬は狂ったように暴れ回り、並べられた露店を次々と踏みつぶし木箱や商品が惨めに弾け飛んだ。
「きゃあああっ!」
「逃げろ! 踏み潰されるぞ!」
逃げ惑う人々が押し合い逃げ遅れた者たちが転倒していく。
広場は一瞬にして地獄絵図のようなパニックに包まれた。
(どうして街の中にこんな大型の魔物が……!?)
私が息をのんでその光景を見つめていた、まさにその直前だった。
なぎ倒された露店の陰で、四歳か五歳ほどの小さな女の子が転んでいるのが見えた。
膝をすりむいたのか血を流しながら泣きじゃくっている。
そのすぐ真上に、狂乱した魔導馬の巨大な蹄が振り上げられていた。
『危ないっ!!』
周りの大人が叫ぶが恐怖で誰も飛び込むことができない。
(――助けなくちゃ!)
迷いは一瞬すらもなかった。
レオンたちと過ごした5年間、私はずっとパーティーの一番後ろから仲間たちの背中を見続けてきた。
どれほど虐げられようと、傷つく人を見捨てないことだけはおばあちゃんから受け継いだ私の誇りだった。
私は白いワンピースの裾をひるがえし石畳を強く踏みつけたた。
全身の魔力を足元に集中させ風を切って駆け出す。
人々の悲鳴を置き去りにして私は倒れた女の子の直前へとすべり込んだ。
小さな体を胸の中にしっかりと抱き寄せ自分の背中で覆い隠す。
「大丈夫よ、怖くないわ……!」
女の子の丸い頭を撫でながら、私は振り上げられた魔導馬の蹄を見上げた。
影が頭上を覆い強烈な圧迫感が迫り来る。
私は右手だけを高く掲げ、掌を迫り来る巨体へと向けた。
胸の奥に眠る、生まれ持った『聖護』の力を手元へと一気に手繰り寄せる。
(お願い……届いて!!)
心の中で深く祈りを込めると同時に、静かにその名を紡いだ。
――『絶対聖護陣』。
私の手元から、まばゆいばかりの純白の光が爆発的に溢れ出した。




