柔らかな光と執着の芽生え
お昼過ぎの静かな時間。
『緑の葉亭』のカウンターで薬草の束を整理していると、入口の扉が静かに開いた。
やってきたのは、黒い上着を羽織ったヴィンセント様だ。
「ヴィンセント様! いらっしゃいませ。」
私が笑顔で迎えると、彼の視線は真っ直ぐに私の髪元へと注がれた。
白銀の髪に留められた青い宝石の髪飾りを目にした瞬間、彼の紺色の瞳にどこか誇らしげで柔らかな光が宿る。
「……よく似合っている。髪飾りも、喜んでいるようだな。」
「はい! おばあちゃんに教えてもらったお手入れの布で、毎朝大事に磨いているんです。本当にありがとうございます。」
私が少し照れながらお礼を言うと、ヴィンセント様はカウンター越しにそっと手を伸ばし髪飾りの横の髪に優しく触れた。
その指先のスッとした温もりに胸の奥がキュンと跳ねる。
「君が笑顔でいてくれるなら、私にとってそれ以上の喜びはない。」
低く深い声で囁かれた言葉に、顔が熱くなるのを隠せなかった。
彼は私に何かを求めるわけでもなく、ただ一人の人間として大切に包み込んでくれる。
レオンたちの後ろを必死で追いかけていた頃には知らなかった、胸を満たす温かな感情だった。
◇
同じ頃、王都のギルド本部の片隅。
荒れ果てた姿のレオンとマリアが酒場のテーブルにしがみつくように座っていた。
「レオン様……これからどうするの……? 次の家賃も払えないわ……。冒険者ランクも落ちてしまう……!」
泣き崩れるマリアに対し、レオンは力なく酒杯を握りしめていた。
手元の銀貨は残りわずか。
かつてチヤホヤしてくれた他の冒険者たちも、落ち目になった自分たちをあざ笑うかのように遠巻きに見ている。
(認めない……俺が、あんなブスの雑用係のおかげで勇者をやれていたなんて、絶対に認めない……!)
レオンは心の中で必死に叫んだ。
だが、どれほど否定しようとしても、ルシアがいなくなってからの体の重さ、魔法の不調、擦り傷ひとつ治らない恐怖が、冷酷な現実として突きつけられている。
「……探すぞ。」
「え……?」
レオンは血走った目でマリアを睨みつけた。
「ルシアだ。あいつを探し出すんだよ! どうせあのブスだ、俺たちに捨てられてどこかで泣きながら行き倒れてるに決まってる!」
「で、でも……追い出したのは私たちですのよ……?」
「うるさい! 俺が『戻してやる』と言えば、あいつは泣いて喜んで俺の足元にひれ伏すはずだ! あいつは俺がいないと生きていけないんだからな!」
レオンの歪んだ自尊心が、絶望の中で異様な執着へと変貌していく。
あの日切り捨てた「存在」の本当の価値を証明するため、そして失った魔法の加護を取り戻すため彼は王都の中でルシアの捜索を始めようとしていた。
それが、さらなる破滅への引き金になるとも知らずに――。




