青い髪飾りと崩れ去る虚飾
翌朝、私は姿鏡の前に立ち、髪飾りの位置を何度も直していた。
鏡に映る白銀の髪に、ヴィンセント様からいただいた青い宝石が静かに輝いている。
透き通るような青は、彼の深い紺色の瞳の色を思い出させて胸の奥がくすぐったいように熱くなった。
「……すごく、素敵な色。」
思わず頬がゆるむ。
おばあちゃんの言いつけを守って自分を隠していた頃には、こんな風に綺麗なおしゃれを楽しむ日が来るなんて思いもしなかった。
自分を肯定し、大切にしてくれる人がいることが、こんなにも心に温かい灯をともしてくれるのだと知った。
「ルシアちゃん、おはよう! おや、まあ……! その髪飾り、とっても良く似合っているよ!」
出勤すると、薬草店の店主のおじいさんが目を細めて褒めてくれた。
「ありがとうございます! 大切な方からいただいたんです。」
「ふふ、そんなに大事そうに触られたら、贈り主の男の人も本望だろうねぇ。」
店主のからかいに顔を真っ赤にしながら、私はいつものように薬草の選別と手当ての仕事にとりかかった。
窓から入るやわらかな陽光と薬草の香り。
私の日々は、静かで穏やかな幸福に満ちていた。
◇
だが、同じ王都の太陽の下で真逆の絶望に叩き落とされている者たちがいた。
王都の片隅にある安宿の地下訓練場。
勇者レオンは、激しい息を吐きながら木人に何度も剣を打ち込んでいた。
ガキィン! ガン!
鋭いはずの剣筋はどこか鈍く、踏み込む足腰には力が伝わりきらない。
一振りするたびに筋肉が悲鳴を上げ、腕の関節にはズキズキとした鈍痛が走る。
「くそっ……! なぜだ……! なぜ剣がこんなに重い……!?」
ドサリと大剣を投げ捨てレオンはその場にへたり込んだ。
額からは油汗が吹き出し息は荒く整わない。
「レオン様ぁ……っ! もう嫌ですわ、こんなの……っ!」
訓練場の隅で泣き叫んでいたのは、魔法使いのマリアだった。
かつては美しく整えられていた彼女の指先は、魔法の暴発による火傷と擦り傷でボロボロになり自慢の金髪も見る影もなく荒れ果てている。
「私の魔力が……全然回復しないの! 魔法を一つ使うだけで眩暈がして、体の奥が燃えるように熱くなって……! 回復薬を飲んでも、傷が全然塞がらないのよ……っ!」
「黙れ! 騒ぐなと言っているだろ!!」
レオンは苛立ちを爆発させて叫んだが、その声はどこか震えていた。
彼らはついに、自分たちの身に起きている『致命的な異常』の正体に勘づき始めていた。
どれほど過酷な戦いを重ねても疲労が残らなかったのはなぜか。
致命傷になり得る攻撃を受けてもかすり傷で済んでいたのはなぜか。
限界を超えて魔法を連発しても魔力切れを起こさなかったのはなぜか。
それは、自分たちが凄まじい天才だったからでも、特別な勇者の器だったからでもない。
(あいつ……ルシアが、ずっと俺たちに『何か』をかけていた……のか……?)
脳裏に焼きついて離れない、あの酒場での去り際。
泥とワインに汚れながらも静かに頭を下げて去っていった陰気な雑用係。
『私の回復魔法と、裏で支えている守りの魔法がなければ、次の最深部ダンジョンは危険です……』
あの時、鼻で笑って切り捨てた彼女の言葉が呪いのように頭の中で反響する。
「まさか……そんな……。あんなブスな雑用係の魔法が……俺たちを支えていた……? 嘘だ……そんなの嘘だっ!!」
レオンは頭を抱えて石畳に擦り付けた。
己の誇りと存在価値が、足元から音を立てて崩れ去っていく。
ルシアを追い出したことで、彼らは自ら『神の加護』を捨て去り、ただの凡人以下へと成り下がったのだという現実に今更になって打ちのめされ始めていた。




