完璧な領主、愛を失った父
俺の父は、ローゼンベルグ侯爵家の現当主として、他家の貴族たちからも一目置かれる傑物だ。
武術と政務の双方において王国屈指の実力を持ち、その極めて公正で清廉な人柄は、国王陛下からも絶大な信頼を寄せられている。まさに「非の打ち所がない完璧な貴族」を絵に描いたような男である。
だが、そんな父にもたった一つだけ、目を背け続けてきた『瑕疵』があった。
それが、息子の「俺」だ。
父には、若き日に身分差や周囲の反対を押し切って結ばれた、心から愛する妻――俺の母がいた。しかし、母は俺を産んだ時の肥立ちが悪く、そのまま帰らぬ人となってしまった。
本来、家族思いで心優しい父にとって、最愛の妻の命と引き換えに生まれた俺の存在は、あまりにも直視しがたいものだったのだろう。
立派な男であるがゆえに、父は「息子を無条件に愛しきれない自分」を密かに深く恥じ、心を病んでいた。そして、その罪悪感から俺と向き合うことを避け、何不自由ない物質的な豊かさだけを与え、俺の我が儘を好き勝手に放置した。
結果としてそれが、以前の俺――あの傲慢でどうしようもない、ゲーム序盤のヘイトを集める悪役令嬢ならぬ『悪役令息』の人格を形成する最大の原因となっていたのだ。
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