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悪役令息〜平穏を希う  作者: 虹の箸
わーくにインバウンド化計画

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38/39

原作?…バトル

砦を吹き飛ばすほどの魔力の暴風と、空気を切り裂く大剣の轟音が交差する。

「はぁぁぁぁぁッ!!」

「くっ……甘いぞ、アレン!!」

俺とアレンの戦いは、文字通り次元の違う領域に突入していた。

腐っても俺は、この世界を生き抜くために限界まで鍛え上げてきた。一方のアレンも、執事のグレンから地獄のしごきを受け、底力を極限まで引き出している。


二人とも才能に恵まれ、そして必死に強くなろうともがいてきた。その二人が本気でぶつかり合えば、凄まじいバトルになるのは必然だった。

だが――。

(……おかしい。押し切れない……!)

俺の全身を覆う冷や汗が、魔力切れの近さを警告していた。

どんなに強力な魔法を撃ち込んでも、どんなに完璧な結界を張っても、アレンはそれを紙切れのように破ってくる。戦いの中で、アレンの動きがどんどん最適化され、威力が跳ね上がっていくのだ。

そう、忘れてはいけない。俺はあくまで元・噛ませ役の『悪役令息』。

対するアレンは、この世界における『本来の主人公』なのだ。

主人公特有の、ピンチに陥るほど強くなる限界突破のバフ。

俺の魔法を学習し、その上をいく対応力。

徐々に、しかし確実に、俺は押されていった。

「これで……終わりですッ、リディル様!!」

「しまっ――」

アレンの渾身の一撃が、俺の最後の防壁を粉砕した。

大剣の腹が俺の鳩尾に重く沈み込み、衝撃で肺から空気が強制的に吐き出される。

「がはっ……!」

俺の身体は宙を舞い、そのまま冷たい石畳の上に力なく崩れ落ちた。

勝負は決した。アレンの勝利だ。

「……あ、あぁ……」

大剣を取り落としたアレンが、ふらつく足取りで倒れた俺に駆け寄ってくる。

俺の胸ぐらを掴んで、勝利の雄叫びでも上げるのか。それとも、主人公として俺を断罪ころすするのか。

そう思って薄れゆく意識の中で身構えていた俺の予想は、見事に裏切られた。

「リディル様……っ!」

アレンは、俺の身体をまるで壊れ物を扱うかのように、ひどく愛おしげに抱きしめたのだ。

「え……?」

俺が疑問の声を漏らす間もなく、アレンの顔が近づき――その唇が、俺の唇に柔らかく重なった。

チュッ、という小さな音が、静まり返った砦に響く。

男同士の誓いの口づけ? いや、そんな生易しいものではなかった。魂を溶かすような、深く、甘い、情熱的なキス。

その瞬間だった。

俺とアレンを包み込むように、眩いほどの光の柱が立ち昇った。

『な、なんだ!?』

遠巻きに見ていた全員が目を庇う中、光の中でアレンの身体に劇的な変化が起きた。

短かった髪がサラサラと音を立てて肩まで伸び、少し無骨だった骨格が滑らかで華奢なラインへと変わり、胸元には豊かな膨らみが生まれる。

光が収まった後、俺を抱きしめていたのは、少年ではなく――息を呑むほど美しい、一人の『少女』だった。

「……は?」

俺の口から、間抜けな声が漏れる。

アレンは、ほんのりと頬を赤らめ、艶やかな声で微笑んだ。

「私……幼い頃に『愛する人と口付けを交わすまで、男として生きる』という呪いをかけられていたんです。でも、リディル様のおかげで、ようやく本当の姿に戻れました」

……いやいやいやいや!

そんな超重要設定、原作ゲームのどこにも無かったぞ!? 主人公が実は女の子でしたって、どこの隠しルートだ!?

「ええっと……アレン、さん……?」

「はい♡ 私の最愛の人」

アレンは俺の首に腕を絡ませ、そして俺たちを呆然と見つめるヒロインたち――メリッサ、ヴァルハイト、エルザ、シルヴィアに向かって、高らかに宣言した。

「勝負は私の勝ちです! というわけで、約束通りリディル様は私のものになりますから!!」

その言葉に、数秒間フリーズしていた女性陣が、一斉にブチ切れた。

「「「「いや、お前バトルに勝っただけやんけ(でしょうが / ですよ / だろ)!!」」」」

恐ろしいほど息の合ったツッコミが炸裂する。

「いつから勝者が敗者を嫁にできるシステムになったんや! アホか!」とメリッサが扇子を投げつけ、

「決闘と婚姻は別問題よ! 抜け駆けもいい加減になさい!」とヴァルハイトが剣を抜き、

「……泥棒猫には、お仕置きが必要ですね」とエルザが暗器を取り出し、

「私の弟に手を出してタダで済むと思っているのかしら?」とシルヴィアが龍の魔力を膨らませる。

四人の圧倒的な殺気がアレンに迫る。

普通ならここで逃げ出すか、土下座案件だ。

だが、今の彼女は完全に愛に狂った『主人公』だった。

「うるさいうるさいうるさい! 私の邪魔をするなァァァァッ!!」

アレンは『主人公パワー』を極限まで暴走させた。

バキィィィッ!! と、まるでガラスが割れるような音が空間に響く。

なんとアレンは、気合いと愛の重さだけで、本来存在しないはずの『虚数の空間(異次元)』を物理的に切り裂き、亜空間へのゲートを開いてしまったのだ。

「ちょっ、お前、何して――」

「さあ行きましょう、リディル様!」

「うわぁぁぁぁっ!?」

アレンは俺を姫抱きしたまま、その空間の裂け目へと飛び込んだ。

「リディル様ッ!!」

「リディル!!」

背後で四人の悲痛な叫び声が聞こえたが、ゲートは俺たちが飛び込んだ瞬間にパチンと閉じてしまった。


……どこまでも続く、真っ白で、何もない空間。

重力すら曖昧なその場所で、俺はアレンの膝枕で目を覚ました。

「……ん、ここは……」

「おはようございます、リディル様」

見上げると、美少女になったアレンが、とろけるような、けれどどこか背筋が凍るような昏い瞳で俺を見下ろしていた。


「これで、邪魔者は誰もいません。国も、黒薔薇も、ヒロインたちも、もう私たちに干渉できない。ここで二人きりで……永遠に一緒にいましょうね♡」

彼女の透き通るような指が、俺の頬をそっと撫でる。

空間自体が、俺たちの存在をゆっくりと溶かし、このまま永遠の夢の中に引きずり込もうとしているのが分かった。


主人公による異空間拉致からの、ヤンデレヒロイン化による永遠の監禁エンド(強制)。

いくらなんでも展開が急転直下すぎる。

「……おいおい」

俺は痛む身体を無理やり起こし、アレンの肩を掴んだ。

ただ平穏を希っていただけの俺が、まさかこんな虚数の空間で、性別が反転した主人公に迫られることになるなんて。


果たして俺とアレンは、そして残されたヒロインたちはどうなってしまうのか――。


お読みいただきありがとうございました。

もし「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】の評価を押して応援していただけると、今後の執筆の何よりの励みになります!

そろそろ物語も佳境に入り、物語も後少し。どうぞよろしくお願いします!


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