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悪役令息〜平穏を希う  作者: 虹の箸
わーくにインバウンド化計画

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33/39

尻の毛まで抜いて鼻血も出ないようにしてやらぁ

国王の強力なバックアップと、俺たちの血と汗と涙(主にヴォルカノフの)の結晶によって誕生した魔の森の健康リゾート国、その名も『魔森温泉国リラクシア』。

その莫大な経済効果と、国王すら虜にする魅力は、他国の目にも魅力的に、そしてひどく無防備な標的として映っていたらしい。


『純血の黒薔薇』の闇のネットワークは、俺の想像以上に早く、そして狡猾に動いていた。

彼らは「悪役令息が魔の森の資源を独占し、邪悪な魔法で他国の経済を脅かそうとしている」という噂を流布。さらに「今なら防衛力は皆無に等しい。森の莫大な富と最新の設備を奪う好機だ」と甘い汁を匂わせたのだ。

それに焚き付けられたのが、領土拡大を狙う南方の帝国と、武力至上主義を掲げる西方の騎士団領だった。

彼らは極秘裏に同盟を結び、リラクシアを強襲すべく、大軍勢を率いて魔の森の奥深くへと密かに進軍を開始していた。……あくまで、彼らの中では「密かに」だった。

◇◇◇

「――というわけで、南から帝国の重装歩兵三千、西から騎士団の精鋭二千が、ウチの敷地に無断侵入中やて」

プレハブ小屋の会議室。

メリッサが手元の書類(魔獣たちから上がってきた報告書)をペラリとめくりながら、まるで明日の天気を読み上げるような口調で言った。

魔の森は、文字通り魔獣たちのテリトリーである。一本の木が折れ、小鳥が飛び立っただけで、森のネットワークを通じて即座にこちらの司令部に情報が筒抜けになるのだ。密かな進軍など、この森では不可能だ。

「あぁん!? 俺たちの庭に土足で踏み込んでくるだとォ!?」

真っ先に机を叩いて立ち上がったのは、いつのまにかリディルの兄貴分と認識していた邪悪竜ファフニール兄貴だった。

「リディル! 兄貴分として、ここは俺に任せろ! あんな羽虫ども、俺のブレス一発で消し炭にしてやるぜ!!」

「ファフニール先輩の言う通りです! 我々の神聖な労働環境……いえ、安息の地を脅かす輩は、この私が残業代なしで焼き尽くしてご覧に入れますッ!!」

すっかり社畜根性が染み付いた悪竜ヴォルカノフまで、謎のやる気を漲らせて鼻息を荒くしている。

さらに、人間の姿をとっている女ドラゴン・シルヴィアまでもが、氷のように冷たい笑顔を浮かべた。

「可愛い弟の庭を荒らすなんて……時の牢獄に千年間閉じ込めて、絶望を味あわせてあげましょうか」

三頭の規格外ドラゴンたちが発する怒気で、プレハブ小屋がミシミシと軋む。

「ま、待て待てみんな! 落ち着いて!」

状況に流されやすい俺とはいえ、ここで彼らを解き放てば、魔の森の環境負荷どころの騒ぎではない。物理的に地形が変わってしまう。

俺が止めに入ろうとしたその時、

「……あかんなぁ。あんたら、ほんまに商売の『しょ』の字もわかっとらんわ」

呆れたようなため息と共に、メリッサが扇子でピシャリと机を叩いた。

彼女は口角を吊り上げ、極上の獲物を見つけた肉食獣のような、とびきり悪い笑顔を浮かべていた。

「ええか? 相手は帝国と騎士団の正規軍や。上等な武具、魔法のアイテム、それに貴族の坊ちゃんもぎょうさん混じっとるはずや。それを一瞬で灰にするとか……どんだけ効率悪いもったいないこと言うてんねん」

「め、メリッサ……? お前、まさか……」

俺が嫌な予感を覚えて尋ねると、彼女はふふん、と胸を張った。

「決まっとるやろ。生け捕りにして、まずは装備を全部ひっぺがして中古市場に流す。貴族の連中からは実家に連絡して、たんまり身代金を搾り取るんや。身寄りのない兵士どもは……せやな、サウナの熱波師や、薪割りの強制労働力として一定期間タダ働きしてもらう。これぞ一石三鳥のパーフェクトビジネスや!!」

悪役令息の俺なんかより、よっぽど悪役みたいな顔をしている。

情に厚い彼女のことだから、「殺すよりは生かして使う」という彼女なりの優しさ(?)の裏返しなのだろうが、手段が徹底的にエグい。

「……なるほど。確かに殺してしまうよりは平和的……か?」

「素晴らしい提案ですな」

俺が押し切られそうになっていると、背後で控えていた執事のグレンが、怪しく目を光らせた。

「圧倒的な力で絶望を与えつつ、生かさず殺さず捕縛する……。リディル様の魔力コントロールの訓練としても、そして私の娯楽……いえ、後学のためにも、最高のシチュエーションです。手足の二、三本なら折っても死にはしませんからね?」

「グレン、お前は本当に性格悪いな!?」

「俺もリディル様のために頑張ります! 薪割り要員なら、俺がみっちりしごいておきますから!」

アレンがなぜか目をキラキラさせて素振りし始めた。お前の本当は主人公だぞ、こんなところでこんなことしてていいのか⁈あと底知れない主人公パワーでしごかれたら、兵士たちが過労死するぞ。

「ふんっ。まあ、第一婦人候補の私からすれば、無作法な侵入者など万死に値するけれど……メリッサの言うことも一理あるわね。捕虜になった暁には、私が接客の基礎から叩き直してやるわ!」

セレスティアまで腕を組み、やる気満々で頷いている。


エルザは部屋の隅で、「捕虜の方々の食事は、麦粥と塩水でよろしいでしょうか?」と、恐ろしい提案をしていた。

……駄目だ。誰も止める奴がいない。

『純血の黒薔薇』に焚き付けられ、意気揚々と進軍してきている帝国と騎士団には少しだけ同情するが、我が国に手を出したのが運の尽きだ。

「はぁ……わかった。とりあえず迎撃の準備をしよう。ただし、絶対に殺さないように。……死なない程度に、ボコボコにするにとどめろよ」

俺の指示に、プレハブ小屋に集まった全員――メイド、婚約者、執事、本来なら主人公の平民、銭ゲバ令嬢、そして三頭のドラゴンたちが、一斉にニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。

さあ、こちらから手は出さないが、売られた喧嘩は倍以上の利子をつけて買い取らせてもらう。

奴らの身ぐるみはいで、鼻血も出なくなるまで徹底的に搾取してやる。作戦開始だ。


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