ヨシッ
「喧嘩を売りたいなら……喜んで買ってやるよ。お前のその自慢の鱗、ひっぺがして岩盤浴の熱源材にしてやる! ギッタギタにしてやらあ!!」
俺の叫びと同時に、大地が爆発したかのように弾けた。
踏み込んだ反動だけでクレーターを作り、俺は一直線に上空のヴォルカノスへと肉薄する。
『なっ……!? 速――』
驚愕に見開かれた悪竜の巨大な黄金の瞳。
その視界が俺の姿を捉えるよりも早く、俺の右ストレートがヴォルカノスの顔面に深々と突き刺さった。
メキィィィィィィンッ!!!!
『ガ、ァアアアアアアッ!?』
「これは空気の読めないバカに対する俺の一撃だ!」
凄まじい衝撃波が空を割り、何十トンあるかも分からない巨体が錐揉み回転しながら森の空き地へと墜落する。ズズズズズッ!と地響きを立てて数百メートルも地面を抉り、ようやく止まった悪竜。
だが、俺の怒りはこんなものでは収まらない。
「オラァッ! 起きろ! 次の一発は俺の夢の国計画と!!
『グ、ガハッ……き、貴様ぁ! 我を誰だと――』
「知るかァアアアア!!」
立ち上がろうとしたヴォルカノスに思い切り拳を叩き込む。そのまま尻尾を掴み、そのままジャイアントスイングの要領でブン回す。
周囲の木々をなぎ倒しながら、暴虐の悪竜(笑)が宙を舞う。
「いいか、今はな!メリッサの! 勇気ある告白の! 返事をするタイミングだったんだよォオオオオ!!」
『ぎゃああああああああっ!? じ、自慢の角があああああ!!』
ドゴォォォン! バキィィィッ! メリメリメリッ!
岩盤に叩きつけ、踏みつけ、マウントを取っての無慈悲なタコ殴り。
魔法すら使わない、純粋な物理の暴力。
最強の悪竜と恐れられたヴォルカノスのプライドは、たった数分で粉々に粉砕されていた。
その頃、安全な場所へ避難したメリッサたち三人は、あまりの光景に言葉を失っていた。
「……なぁ、アイツ、姉さんと戦った時、相当手ェ抜いてたのか?」
「…いや、あの時はあれで本気だったと信じたい。じゃなきゃ私たち、本当に運が良かったわね。あと一歩で、あんな風に鱗を全部剥がされて建材にされるところだったわ……」
顔面蒼白でガクガクと震えながら抱き合う二柱の龍。かつては森の覇者を気取っていた彼らも、今や完全にドン引きである。
「絶対に、一生リディルには逆らわないでおこう」
二人の心は、かつてないほど強固な絆で結ばれていた。
「ウチの惚れた男、怒らせたらアカンランキングぶっちぎりの世界一位やん……」
メリッサもまた、引きつった笑いを浮かべながら冷や汗を拭っていた。
数日後のエコリゾート建設予定地
「オーライ! オーラーイ! はい、ストーップ! そこでブレスお願いします!」
『ハッ! 畏まりました、リディル所長!! 【極炎・整地ブレス(マイルド)】ッ!!』
ゴォォォォォォォォォォッ!!
手加減された絶妙な温度の漆黒の炎が、指定された区画の雑木林や岩を一瞬にして灰に変え、綺麗に平らにしていく。
見事な更地を作り上げた巨大な黒竜――ヴォルカノスは、首に『安全第一』と書かれた巨大なタオルを巻き、泥だらけになりながら額の汗(?)を拭っていた。
「よしよし、完璧だヴォルカノス! お前、地形を平らにする才能あるよ!」
『勿体なきお言葉!! このヴォルカノス、所長の夢であるエコリゾートのために、粉骨砕身、命を懸けて働かせていただく所存であります!!』
直立不動(二本足で立っている)で、ビシッと完璧な敬礼を決める黒竜。
半殺しの目に遭い、完膚なきまでにプライドをへし折られた彼は、「絶対服従の超優等生ゼネコン社員」へと劇的なジョブチェンジを果たしていた。
「いやぁ、助かるよ。君みたいなパワフルで素直な重機……じゃなくて仲間が増えてくれて」
『所長……! この未熟な愚か者に、労働という名の喜びを与えてくださり、感謝の極み! 次は温泉掘削のためのボーリング作業ですね? 私の爪にお任せを! ミリ単位の精度で掘り当ててご覧に入れます!!』
目をキラキラ(※元々はギラついた黄金の瞳)させて、次の現場へ飛んでいくヴォルカノス。
その様子を、テントの中からメリッサが呆れ顔で眺めていた。
「……ほんま、アンタという男は。悪竜まで社畜に改造してしまうとは恐れ入ったわ」
「人聞きの悪いこと言うなよ。彼にはちゃんと『週休二日制』と『最高級魔獣肉の現物支給』を約束してるホワイト労働だぞ」
「はいはい。で、所長さん?」
メリッサが、俺の胸元にスッと指を這わせる。
上目遣いで見つめてくる彼女の顔には、あの時と同じ、熱を帯びた艶やかな笑みが浮かんでいた。
「あの邪魔者もすっかり従順な働き手になったことやし……あの時の返事、そろそろ聞かせてもらおかな?」
「っ……あ、ああ。逃げるつもりはないよ。その……」
俺が覚悟を決めて口を開きかけた、その時。
『所長ォオオオ!! 申し上げます!! 第四工区にて、岩盤が固くてファフニール先輩が泣き言を言っております!! 私がカチ込んで指導してきてもよろしいでしょうかァッ!!?』
「お、俺は泣き言なんて言ってねェ! 嘘つくなんじゃねえ新入りィッ!!」
遠くから、ヴォルカノスのバカでかい報告と、ファフニールの怒鳴り声が響き渡った。
俺とメリッサは顔を見合わせ、同時に大きなため息をつく。
どうやら、この魔の森に平穏とラブコメの時間が訪れるのは、もう少し先のことになりそうだった。
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