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悪役令息〜平穏を希う  作者: 虹の箸
わーくにインバウンド化計画

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環境立国(おためごかしでない)

「……わかりました。その依頼、お受けします」

俺が力強く頷くと、国王は「おおっ!」と歓喜の声を上げ、懐から王室の極秘印が押された誓約書を取り出した。すでにサイン済みという周到さだ。

学園長は深々とため息をついていた。

「やれやれ……。まあ、国王陛下の勅命とあらば致し方ない。『自然環境調和型国家の建設および王室外交の実地レポート』をもって卒業のための単位として認めることとしよう」

「学園長……! ありがとうございます!」

こうして俺は「魔の森の自治領化」という目的と、「国王のサボり用エコリゾート建設」という超難題おうのわがままを同時に手に入れたのだった。


魔の森へと向かった俺は、さっそくシルヴィアとファフニールに事の顛末を話した。二人は目を丸くしたあと、対照的な反応を示した。

「まあ! つまり、この森の自然を活かしたまま、最高の癒やし空間を作ればいいのね!」

シルヴィアは両手を合わせて目を輝かせている。

「ガハハハ! 一国の王が逃げ込むための隠れ家か! 人間ってのはつくづく面白ェな! よし、俺様もいっちょ手伝ってやるぜ!」

人化して豪快な兄ちゃんモードになっているファフニールも乗り気だ。

だが、大樹の根を利用した露天風呂や、天然の魔力溜まりを活かした岩盤浴などを無傷で作るには、俺たち人間の土木技術では不可能に近い。森の地形を知り尽くし、自然の魔力に親和性を持つ者たちの協力が不可欠だった。


数日後。


俺たちは、魔の森の中心にある広大な開けた場所に、森に住まう魔物や動物、精霊たちを集めた。

知能の高いワーウルフの群れ、森の守護者であるトレントたち、素早い動きを誇る大蜘蛛アラクネ、そして大小さまざまな魔獣たち。彼らは警戒心を露わにし、敵意と不安の入り混じった視線を俺に向けていた。


無理もない。人間はこれまで、彼らの住処を脅かす存在でしかなかったのだから。

俺は大きく息を吸い込み、前に出た。

「みんな、集まってくれてありがとう! 今日はお願いがあってここに来てもらった!」


俺の声が森に響き渡る。


「俺たちはこの森を、誰にも手出しされない独立した国にしようと思っている。だが、木を切り倒してコンクリートで固めるような真似は絶対にしない! 森の姿をそのまま活かした、自然循環型のエコリゾート……人間と森の住人が共存できる場所を作りたいんだ!」


ざわめきが広がる。群れの先頭にいたワーウルフの長が、低い唸り声を上げた。

『……人間の言葉など信じられるか。どうせ我々を奴隷のようにこき使い、用済みになれば森ごと燃やすつもりだろう』

その声には、深い悲しみと怒りが滲んでいた。俺はまっすぐにワーウルフの長を見据えて、はっきりと首を振った。

「絶対にそんなことはさせない。俺は君たちを『労働力』じゃなく『仲間』として迎えたい。君たちの縄張りや権利を絶対に侵さないと誓う!」

さらに俺は、王から預かった資金と、錬金術で精製した高品質な魔力結晶の山を指差した。

「もちろん、タダ働きはさせない! 木の剪定や土壌の整備、資材の運搬を手伝ってくれた者には、働きに応じた十分な報酬を渡す! 極上の肉、新鮮な魚、純度の高い魔力……君たちが望むものを必ず用意する!」


それでも、魔物たちの疑心暗鬼は完全には拭えないようだった。長年の不信感は、言葉だけでは覆せない。

その時だった。


「ガハハハハ! コイツの言う通りだぜ、お前ら!」

地響きのような笑い声とともに、ファフニールが一歩前に出た。その瞬間、厄災の竜としての圧倒的な覇気が辺りを包み込み、魔物たちが思わず息を呑んだ。


「コイツはちょっとお人好しすぎるが、嘘は吐かねェ男だ! もしコイツら人間が約束を破って森を荒らしたり、お前らを不当に扱ったりしたら……その時は、俺様とシルヴィア姉御がコイツらを頭から丸呑みにしてやる!*だから安心しな!」

「もう、ファフニールったら物騒なんだから」

シルヴィアが苦笑しながらも、古龍の荘厳で温かな魔力を放った。それは森の木々を優しく揺らし、魔物たちの警戒心を溶かしていく。


「でも、彼の言う通りよ。私たちがこの森と、あなたたちの権利の保証人になります。人間が無茶をしようとしても、私たちが絶対に許さないわ」


『厄災の竜』と『古龍』

最強の存在二柱が保証人になるという圧倒的な事実に、魔物たちの間にあった緊張がふっと解けた。現実問題として、この二柱を敵に回してまで森を荒らせる人間など存在しないのだ。

そして何より――。

『……どうやら、本気のようだな』

ワーウルフの長が、俺の目を見て口を開いた。

『力で我々を屈服させることもできるはずなのに、わざわざ対等な対話を求め、報酬まで約束する人間など初めて見た。……お前のその真摯な目、信じてみよう』

ワーウルフの長が頭を下げると、トレントたちが枝を揺らし、精霊たちが光の粒となって舞い踊った。森全体が、俺たちの計画を歓迎してくれているかのようだった。

「信じてくれてありがとう……! 今日の約束は心に刻む。絶対に裏切らない。」

俺は感極まって涙をながした。


かくして、当初考えていた国作りとは少しずれてしまったのかも知れないが、王室お墨付きの権限、最強の用心棒、そして森の住人たちという頼もしすぎる仲間を得た。


前代未聞の超巨大プロジェクト『魔の森・自然循環型エコリゾートインバウンド建国計画』は、ついにその産声を上げたのだった。


ただ、もう一つだけ心配があった。あの経済効率性を最も重んじる子爵商人メリッサが、この森の住人達との約束ちかいをどう考え、どう動のか。しかし、この計画は彼女の能力とノウハウ抜きでは成立はしないだろう。

一度きちんと話し合っておくべきだな。


お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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