魔の森リゾート化計画
全ての計画が裏目に出たため、最大の障害だった貴族連合は完全に沈黙した。何かとちょっかいはかけてくるかもしれないが、今現在ではたかが知れている。
古龍シルヴィアに加え、厄災の竜ファフニールという規格外の重機兼用心棒を手に入れた俺の『魔の森・独立国建国計画』は、もはや誰にも止められないはずだった。
――そう、俺たちは意気揚々と図面を広げ、魔の森の自然と調和した理想の国作りに向けて熱く語り合っていたのだ。
「よし! ファフニールがかつて森に振り撒いてしまった瘴気は、本人の魔力で反転させて『浄化の息吹』として土壌改良に利用しよう! シルヴィアの魔法で既存の巨木群を傷つけずに家屋を編み上げれば、木々を伐採せずに森と共存できる! 水脈も自然の形をそのまま活かして――」
「ええ、リディル! 私の魔法で木々の生命力を高めて、森そのものを強固で温かい防壁にするわ!」
そこまで言って、俺はハタと気づいた。
シルヴィアと顔を見合わせる。
「……なぁ、シルヴィア」
「……どうしたの、リディル?」
「俺たち、来週から学園の中間テストじゃね?」
圧倒的な静寂が、歓喜に包まれていた談話室に落ちた。
そうだ。魔物を狩り、自然との共存という壮大なエコシステム国家を創ろうとしている俺たちは、まだしがない「学生」だった。
翌日。俺は王都にある王立魔法学園の、厳格な空気が漂う学園長室にいた。
「ですから! ヒドラの討伐、貴族連合の不正摘発、さらには『厄災の竜』のテイムによる魔の森の無害化ですよ!? 森の生態系を守りつつ新たな共存の道を開拓するこの功績があれば、飛び級卒業させていただいても問題ないのでは!?」
俺は身を乗り出して力説した。自然環境調査と都市計画という超巨大プロジェクトを抱えながら、魔法数学の居残り補習を受けている場合ではないのだ。
しかし、分厚いマホガニーのデスク越しに座る白髭の学園長は、頑なだった。
「却下だ、リディル君。」
学園長は眼鏡を押し上げ、静かに、しかし断固たる口調で告げた。
「君たちの功績は王国史に残る偉業だ。それは認める。だがね、学園のカリキュラムとは『偉業を成せばそれでいい』というものではない。基礎教養、倫理、貴族や他国との礼儀作法……それらを修めて初めて『卒業』なのだ。いかに自然に優しい国を創ろうと、歴史の小テストで赤点を取っていい理由にはならん」
シンッとする学園長室、その中で、
「ぐっ……!」リディルの右手から紙を丸めるクシャリという音。
赤点って…こいつちょっとダセエなという仲間からの視線!圧倒的恥ッ
「もし君に特例を認めれば、『例えばドラゴンをはテイムすれば宿題をやらなくていい』というような悪しき前例を生むことになる。我々は教育機関であって、開拓ギルドではないのだよ」
完全に正論だった。ぐうの音も出ない。
俺が肩を落とし、大人しく教室に戻ろうとした、その時
「――その話、私が乗ろうではないか」
突如として学園長室の重厚な扉がバァンッ!と乱暴に開き、場違いなほどに豪快な声が響き渡った。
「へっ?」
そこに立っていたのは、豪奢なマントを羽織り、護衛の騎士すら伴わずに現れた初老の男。
この国の最高権力者、国王陛下その人であった。
だが、その様子は明らかにおかしかった。
王冠は少しズレ、肩でぜぇぜぇと息をしている。何より、部屋に入るなり血相を変えて扉をドンッと閉め、自ら鍵をかけたのだ。さらにご丁寧に、魔法の防音結界まで展開している。
「へ、陛下!? なぜこのような場所に! 護衛の者たちはどうされたのです!?」
「しっ! 声が大きいぞ学園長! 奴ら(宰相)に見つかるだろうが!」
「見つかるって……本日は王立図書館の視察だったのでは!?」
「視察など建前だ! 宰相はな、視察の馬車にまで決裁書類を山積みにしてきおったのだぞ!? 余は馬車が学園の裏門を通った一瞬の隙を突き、影武者のダミー君人形を置いて全力で逃げてきたのだ!」
「何をしているんですかアンタは」
思わず学生らしからぬツッコミを入れてしまったが、国王は気にするそぶりもなく、学園長室の窓から外をチラチラと警戒しながら俺を見た。
「ふぅ……間一髪だった。で、お前がリディルだな? バルバロス侯爵の件は聞いておるぞ。まさか『厄災の竜』を懐柔し、我が王国の喉元である魔の森と共存する独立国を創ろうなどと、とんでもないことを企む若者がいるとはな」
「……お耳汚しを。ですが、我々は本気です。森の木々一本すら無駄にせず、自然の魔力循環を活かした完全環境調和型の国を創るつもりです」
俺が警戒しつつ答えると、国王は目をギラリと輝かせてニヤリと笑った。
「素晴らしい! まさに私が求めていたものだ! 学園長が言うことももっともだが、国を創ろうという男を教室に縛り付けておくのも王国の損失というもの。そこでだ、リディル。私の『ある望み』を叶えることができるなら、王室の権限をもって超法規的措置を下し、即日飛び級卒業を認めてやろう」
「ほ、本当ですか!?」
「陛下! それはいくらなんでも――」
学園長の制止を片手で遮り、国王は俺の前にスッと一枚の羊皮紙を差し出した。
それは、王国の極秘印が押された依頼書だった。
国王は俺の肩をガシッと掴み、真剣な、しかしどこか悲壮感すら漂う切実な表情*俺に告げた。
「君が創るというその森と共存する国に……私の『お忍び専用・超最高級・完全自然調和型リゾート別荘』を極秘裏に建設してくれ」
「……は?」
「宰相や王妃の追跡魔法は、『人工的な建造物』や『不自然な魔力の乱れ』を感知して私を連れ戻しに来る! ゆえに王都のどこに隠れようと無駄なのだ! だが、君たちの言う『森の生態系に完全に溶け込んだエコリゾート』ならば、絶対に発見されない究極の隠れ家になるはずだ! 大樹の根を活かした露天風呂や、天然の魔力溜まりを利用した岩盤浴などを頼みたい!」
「ええっと……つまり、サボり用の隠れ家を森に同化させて作れと……?」
「ここだけの話、最近激務すぎて胃に穴が開きそうでな! 頼む、この通りだ! 完璧な『見つからない自然派リゾート別荘』を作ってくれたら、卒業資格と、お前を辺境伯に叙爵し、魔の森をお前の自治領にすることも前向きに検討する!
俺は承知した。
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