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悪役令息〜平穏を希う  作者: 虹の箸
希望が溢れる♡王立魔法学園へ

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なにっ!国を作れだと⁈できらあ

学園長室でのカオスな騒動から数日後。俺のささやかな平穏は、文字通り音を立てて崩れ去ることになった。

キマイラ討伐のニュースは、俺の想像を遥かに超える速度と規模で王都を駆け巡っていた。

それは単なる「優秀な学生の武勇伝」では済まされなかったのだ。

古の封印が破られ、本来なら王国の騎士団や魔術師団が総動員で当たるべき災害級の魔物を、公爵家の若き嫡男が魔法で消し飛ばした。

この事実は、長きにわたり微妙なパワーバランスで保たれていた王国の政治の場に、巨大な隕石を落とすようなものだった。

週末、俺は実家である公爵邸の重厚な書斎に呼び出されていた。

執務机の向こうに座る父上――王国でも屈指の権力者であるはずの宰相公爵――は、酷く疲労した顔で眉間を揉みほぐしていた。

「……リディル。お前がこれほどまでに規格外の力を隠し持っていたとは、父として誇らしくもあるが、同時に頭の痛い問題でもある」

「申し訳ありません、父上。ですが、あれは不可抗力でして……」

「分かっている。お前が仲間を、ひいては国を護ったことは事実だ。だが、問題は『連中』がお前という存在を放っておかないことだ」

父上が重々しく口にした『連中』。

それは、王家や公爵家をも凌駕するほどの財力と領地を持ち、古き『腐敗しきった』特権階級にしがみつく【貴族連合】そして貴族純血原理主義の[黒い薔薇]のことだった。

彼らは国の要職を牛耳り、自分たちの既得権益を脅かす要素を徹底的に排除してきた。

「国王陛下も私も、彼らの強大な政治力の前では迂闊に動けん。その連合の重鎮たちが、先日の夜会私に正式にこう伝えてきた。『次代の英雄リディル殿を、ぜひ我が陣営にお迎えしたい』とな」

嫌な予感しかしない。

そしてその予感は、翌日、公爵邸を訪れた一人の大貴族によって見事に的中することになる。

貴族連合の筆頭格にして、狡猾なタヌキ親父として知られるバルバロス侯爵。

彼は応接室のソファに深々と腰掛け、薄気味悪い笑みを浮かべながら俺に甘い言葉を囁き始めた。

「いやはや、素晴らしい。公爵家の若君がこれほどの逸材であらせられるとは。我が貴族連合も、リディル殿の輝かしい未来を全力で支援したいと考えておりますぞ」

「……お褒めにあずかり光栄です、侯爵閣下。ですが、俺はまだ未熟な学生の身。そのような大層な支援など……」

「ご謙遜を。私共は調べさせていただきましたよ。リディル殿が身分に囚われず、平民のアレンや得体の知れない者たちと共に『新たな派閥』を作ろうとされていることを」

ビクッと、俺の肩が揺れる。

こいつら、俺が目指している「みんながせめて飢えず凍えず平凡なモブライフを送れるようにするための絆作り」を、悪用しようとしている!

「リディル殿は、この古く凝り固まった王国の体制に不満がおありなのでしょう? 民が平等に声を上げられる『民主制』なるものを夢見ているという噂も耳にしましたぞ」

「なっ……」

どこからそんな情報が漏れた? シルヴィアたちと語り合った理想論の断片が、どこかからか漏れたか。

「そこで、我々から一つ、魅力的なご提案があります」

侯爵は身を乗り出し、まるで悪魔の契約を持ちかけるように声を潜めた。

「あの『魔の森』……あそこには未だ多くの強大な魔物が潜み、放置すればいずれ国を滅ぼす災いとなるでしょう。しかし、逆に言えばあそこは手付かずの広大な土地です」

「まさか……」

「ええ。リディル殿のその比類なき力と、優秀なお仲間たちで魔の森の脅威を駆逐していただきたい。そして森を切り拓き、そこにリディル殿を盟主とする『新たな自治区(国)』を興せば良いのです、そのためには物資でも金でも人でもなんでも協力いたしますぞ」

侯爵の言葉に、俺は息を呑んだ。

身分制度のない、俺の理想とする国づくり。それを大貴族たちが資金や物資の面で全面的にバックアップするというのだ。

一見すれば魅力的な提案に聞こえる。

「我々は新たな国の独立を後押ししましょう。もとよりリディル様のお父上は宰相閣下、王の覚えもめでたい。新たな国作りへの障害はないでしょう。そこであなたの思い描く『民主制』とやらを、存分に試されればよい。……いかがかな?」

侯爵が帰った後、俺は一人、静まり返った応接室で深く溜息をついた。

……笑わせるな。

前世の知識と、少しばかりの政治的嗅覚があれば、あの甘言の裏に潜むどす黒い陰謀など透けて見える。

彼らの真の狙いは「厄介払いのついでに得をする」ことだ。

自らの貴族連合の権力を脅かすかもしれない俺という規格外の存在を、安全な王都から遠ざけ、最も危険な魔の森の最深部へと送り込む。

森の深層には、今回のキマイラを人為的に目覚めさせた『邪神教団』が潜んでいる。俺たちが魔物や教団と相打ちになって死んでくれればベスト。

万が一、俺たちが奇跡的に森を開拓できたとしても、多額の資本を貸し付けて、建国の恩人という名目で借金漬けしがらみでがんじがらめにし、最終的には出来上がった豊かな土地と資源という「新たな既得権益」を奪い取る腹積もりに違いない。

(ふざけやがって……。俺を都合の良い駒として使い潰す気満々じゃないか)

「リディル様、お顔の色が優れませんわ」

「……ああ、メリッサか」

いつの間にか部屋に入ってきていたメリッサ、そして扉の奥にはアレンやシルヴィア、エルザ、セレスティアの姿もあった。彼らは心配そうに俺を見つめている。

「連中の企みなど、お見通しですわよね?」

「当然だ。あからさまな罠だよ。……だが、完全に無視できる状況でもない」

俺が断れば、貴族連合はあらゆる手を使って公爵家や、ここにいる仲間たちに圧力をかけてくるだろう。最悪の場合、アレンやシルヴィアたちの存在を危険視し、暗殺などの実力行使に出てくる可能性すらある。

それに――放置すれば、[黒い薔薇]が再びキマイラのような怪物を世に放つ。

この世界は今、取り返しのつかない混沌の淵に立たされているのだ。ゲームのシナリオはとうに破綻していた。

「罠だと分かっていて、飛び込むおつもりですか?」

セレスティアが不安げに問う。

俺はゆっくりと立ち上がり、頼もしい仲間たちの顔を見渡した。

平穏な学園生活は、もう終わったのだ。

既得権益にすがりつく腐った貴族ども。裏で世界を滅ぼそうと蠢く邪神教団。

それら全てを出し抜き、本気で俺たちの「居場所」を創り出す覚悟が、今、問われている。

「……連中の陰謀に乗ったフリをして、逆にあいつらの寝首を掻いてやる。魔の森と共存しし、本当の意味で誰も手出しできない俺たちの『国』を創るんだ」

俺の決意を秘めた言葉に、アレンが獰猛な笑みを浮かべて剣の柄に手を当てた。シルヴィアが楽しげに瞳を細め、エルザとセレスティアが深く頭を下げる。

そしてメリッサは、どこから取り出したのか分厚い帳簿を開きながら、ニヤリと不敵に笑った。

「最高ですわ、リディル様。連中から搾り取れるだけ搾り取って、最後はすっからかんにして差し上げましょう」

こうして、平穏な学園生活は完全に崩れ去り――国を、貴族を、魔の森も巻き込んだ壮絶な建国神話が幕を開けたのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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