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悪役令息〜平穏を希う  作者: 虹の箸
希望が溢れる♡王立魔法学園へ

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22/39

思う通りにはいかないねって話

魔の森での実戦訓練を間近に控え、大教室の黒板には教師陣によって決められた班分けの表が張り出されていた。

実戦能力の向上という第一目的のほかに、仲間同士の絆やクラスメイトとの親睦を深めることも目的とされているため、班編成は生徒同士の相性を考慮して教師側が意図的に組むことになっている。

「ええーっ、リディルと離れ離れなんて……!」

「仕方ありませんわ、シルヴィア。これも訓練の一環ですもの」

「……リディル怪我だけはしないで」

いつも俺の周りにいるシルヴィア、エルザ、セレスティアの三人は別の班に振り分けられ、血涙を流していた。なんならその後魔の森行きを具合が悪いと休んだ(サボった)

一方、俺の班員はといえば。

「リディル様! この実戦訓練、ご一緒できて光栄です! 足を引っ張らないよう全力で頑張りますから!」

目をキラキラさせて忠犬のように尻尾を振っている(ように見える)平民の特待生・アレン。

そして、もう一人。

「公爵家のご嫡男と、噂の特待生クンね。足手まといにならないでよね? 私はこの後、ギルドの会合で忙しいんだから」

金糸の髪をツインテールに結い、自信満々にふんぞり返る少女。彼女はアルバーン子爵家の令嬢、メリッサ・フォン・アルバーン。

子爵家という地位ながら、その卓越した商才で王都の商業ギルドを実質的に仕切っているという、やり手の令嬢だ。

そして何より、原作ゲームにおける『ヒロイン候補』の一人である。

数日後、訓練が始まり、俺たち三人の班は『魔の森』へと足を踏み入れた。

道中は拍子抜けするほど順調だった。アレンの優秀な剣技と索敵、メリッサの効率的な指示(という名の算盤勘定)、そして俺が適当に魔法で援護するだけで、下級の魔物は次々と素材へと変わっていく。

「ふふっ、この角は高く売れるわ! アレン、もっと丁寧に剥ぎ取りなさい!」

「は、はいっ!」

なんとも平和な光景だ。俺も悪役令息としての破滅フラグから遠ざかっている実感があり、内心ホッとしていた。

――しかし、運命は俺を逃がしてはくれなかった。

ズシンッ……!

突如として地面が揺れ、森の奥深くから空気を震わせるような恐ろしい咆哮が響き渡った。

「な、何だ今の鳴き声……!?」

アレンが剣を構え、周囲を警戒する。

木々をなぎ倒し、俺たちの前に姿を現したのは、獅子の頭、山羊の胴体、そして毒蛇の尾を持つ巨大な魔物――古の時代より封印されていたはずの『キマイラ』だった。

「嘘でしょ……!? こんな浅い階層に、どうして指定外の魔物が……っ!」

メリッサが顔面を蒼白にして後ずさる。

(キマイラだと……? 確かゲームでは、アレンがヒロインを庇って秘められた力に覚醒する胸アツイベントだったはず!)

俺は心の中でガッツポーズをした。

なるほど、ここでアレンが覚醒してメリッサを救い、二人の絆が深まるというわけか。ならば俺の出番はない。下手に手を出して主人公の見せ場を奪ってはマズイ。

「二人はキマイラを頼む! 俺は後方から支援に回る!」

俺は空気を読み、最もらしい顔をして後方に下がると、身体強化バフを二人に掛けた。

さあアレン、いけ! お前の真の力を見せてやれ!

しかし。

「くっ……! はぁぁぁっ!」

アレンの渾身の剣撃はキマイラの硬い毛皮に弾かれ、致命傷を与えられない。それどころか、キマイラの猛攻に防戦一方で、覚醒する気配すら一向になかった。

(あれ!? おかしいぞ!? いつまで経ってもイベントスチルが入らない!)

俺が焦り始めたその時、キマイラの蛇の尾がアレンの横腹を打ち、彼を大きく弾き飛ばした。

「アレン!」

「きゃああっ!」

体勢を崩したアレンの背後にいたメリッサに、キマイラが巨大な牙を剥いて飛びかかる。

「ひっ……!」

腰を抜かしたメリッサは、逃げることもできず絶望に目を閉じた。

――あ、これマジで死ぬやつだ。

俺は深くため息をつくと、地面を蹴った。

メリッサの盾になるように割り込んだ俺は、右手に魔力を収束させる。数百年古龍のシルヴィアと培った武力と魔力。

印を結び、漆黒の炎を呼び出す。

その瞬間、周囲の空間ごと焼き尽くすかのような業火がキマイラを飲み込んだ。

「ギァアアアアアアアアアアッ!?」

断末魔の叫びを上げる間もなく、巨大な魔物は一瞬にして灰燼に帰した。跡に残ったのは、黒焦げた地面と静寂だけ。

「……ふぅ。二人とも、怪我はないか?」

俺が振り返ると、そこには信じられないものを見るような目をした二人の姿があった。

「リディル様……っ! やはり貴方は、俺が憧れた通りの素晴らしいお方だ! あの凶悪な魔物を一撃で……俺は一生、貴方の背中を追いかけます!!」

アレンの目から流れるキラキラとした尊敬の念が、以前よりもさらに強烈になっている。いや、お前が覚醒してくれないと困るんだけど。

そして、へたり込んでいたメリッサが、俺を見上げてほんのりと頬を赤く染めていた。

「公爵家の権力と財力に、あの圧倒的な力……それに、いざという時に私を守ってくれる優しさ……」

彼女はブツブツと呟きながら、商人が極上の宝石を見つけた時のような、ギラギラとした熱を帯びた瞳で俺を見つめてくる。

「リディル様……いえ、リディル。あなた、私の『最優良投資物件』の筆頭リストに入れてあげるわ……っ!」

さいゆうりょうとうしぶっけん?なんだ?……どうしてこうなった。

平民の友人が俺の熱狂的信者にクラスチェンジし、ちゃっかり守銭奴ヒロインの好感度まで上げてしまった帰り道。

俺の平和な学園生活のビジョンは、魔の森の奥深くに音を立てて崩れ去っていくのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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