忍び寄る破滅の足音
俺たちが寮の前での不毛な言い争いをしている頃――
王立魔法学園の巨大な校舎の裏側、薄暗い旧校舎の地下室では、数人の生徒たちが松明の灯りを囲んで密談を交わしていた。
「……見たか、今日の入学式を」
「ああ。主席のリディル・フォン・ルシフェリア……凄まじい魔力と威厳だった。だが、あの男、式の後に忌々しい平民の特待生と親しげに言葉を交わしていたぞ」
彼らの胸元には、学園内でも特に選民思想の強い貴族派閥『純血の黒百合』の紋章が輝いていた。
「誇り高きルシフェリア家の次期当主が、泥水すする平民と馴れ合うなど……王国の貴族社会に対する侮辱だ。あのような特待生は、早々に自分の身の程をわからせてやらねばならない」
「いかがいたしましょうか。来月には、新入生合同の『魔の森での実戦訓練』が控えておりますが」
暗がりの中で、リーダー格の少年が嗜虐的な笑みを浮かべる。
「ふん……魔の森には、古の時代より封印された『凶悪な魔物』の祠がある。あの平民の班をそこへ誘導し、偶然結界が解けたことにすればいい。もしルシフェリアが彼を庇おうとするなら、共々森の肥料となるだけのこと」
本来の物語であれば、これは主人公であるアレンが自身の隠された力に目覚め、最初のヒロインを救い出す熱い胸アツイベントである。
しかし、イレギュラーな存在である「悪役令息リディル」がアレンと友誼を結んでしまったことで、運命の歯車は大きく狂い始めていた。
「平民の身の程知らずにも、それに絆される愚か者にも、学園の厳しさを教えてやろう……」
昏い笑い声が、地下室に響き渡る。
俺が純粋に喜んでいた「初めての友達作り」が、最悪の死亡フラグ『魔の森暴走事件』を俺自身に引き寄せるトリガーになってしまったことなど、この時の俺は知る由もなかったのである
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