ちょっ…とよく分からないな
アレンの背中が角を曲がって完全に見えなくなるのを確認してから、俺は重い溜息とともに両隣の二人を振り返った。
「……なぁ、二人とも。なんであんなにアレンに当たりが強いんだ?」
俺の切実な問いかけに、シルヴィアはきょとんと首を傾げ、エルザは表情一つ変えずに俺のブレザーの埃を払った。
「セレスティアがあんな爆弾発言をした時は『さすが公爵令嬢、見事な牽制です』みたいな顔して頷いてたくせに……滅亡フラグ云々を抜きにしても、アレンは俺に初めてできた貴重な同性の友達なんだぞ?」
俺の言葉を聞いたシルヴィアは、やれやれと肩をすくめてみせた。
「弟よ、お前は本当に自分のことが見えていないな。セレスティア殿はいいのだ。彼女は極めて優秀な『防虫剤』だからな」
「防虫剤……?」
「左様でございます、若様」
エルザがシルヴィアの言葉を引き継ぐように、淡々と言い放つ。
「セレスティア様が自ら『近づく者は消す』と宣言してくださったおかげで、若様に取り入ろうとする有象無象の羽虫(令嬢や野心家の貴族たち)を物理的に排除する手間が省けました。私としても、メイドとしての業務(暗殺者の始末など)が減り、非常に助かっております」
(メイドの業務に物騒な括弧書きをつけるな)というツッコミを飲み込みつつ、俺は食い下がった。
「百歩譲ってそれはいい! だったら、なおさらアレンは無害だろう? 彼は平民で、俺の派閥や権力に興味があるわけじゃない。純粋に俺と友達になりたいって言ってくれたんだぞ!」
俺の悲痛な叫びに対し、二人はピタリと足を止め、信じられないものを見るような目で俺を見つめた。
そして、シルヴィアが重々しい口調で告げた。
「……あの赤毛、お前を見る目が完全に『運命の王子様を見つけたヒロイン』のそれだったぞ」
「は……?」
「エルザもそう思うだろう?」
「ええ。実技試験での若様の圧倒的なお力に魅了され、身分差を越えて純粋な好意を向けてくる……あの光属性の真っ直ぐな瞳。あれは間違いなく、いずれ若様を私たちから引き離し、光の道へと連れ去ろうとする泥棒猫の素質があります」
エルザはメイド服のポケットからスッと銀色のナイフを取り出し、月光に煌めかせながら真顔で続けた。
「若様の貞操は、例え同性であっても死守するのがメイドの務め。あの平民がこれ以上若様に『絆』という名のしがらみをかけるようであれば……私が先手を打って、社会的に(あるいは物理的に)抹殺いたします」
「ただの熱血主人公の友情フラグだよ!! BL展開みたいな勘違いで俺の親友(候補)を殺そうとするな!!」
俺は頭を抱えて叫んだ。
どうやらこの二人にとって、セレスティアは「リディルを過激に守る同盟軍」であり、アレンは「リディルの庇護欲を刺激して破滅の道へ引きずり込むヒロイン枠」として認識されてしまったらしい。
前途多難すぎる。俺の平穏な学園生活は、味方(身内)の斜め上の解釈によってすでに崖っぷちに立たされていた。
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