姉(仮)とメイドと本当の主人公
王都の中心にそびえ立つ、王立魔法学園。
その広大な敷地に足を087136踏み入れた俺は、早々に頭を抱えたくなっていた。
「ほう、ここが学舎か。我の巣よりはずいぶんと狭いが、まあ人間の作りしモノにしては悪くないな。なぁ弟よ」
「シルヴィア、設定忘れないで。姉さんでしょ、姉さん。あと角と尻尾はちゃんと隠してね」
「分かっておる。我は由緒正しき公爵家の長女、シルヴィア・フォン・……なんだっけか?」
「もう先が思いやられるよ……」
父が宰相となり、公爵となったことで嫌でも目立つようになった。
古竜シルヴィアは、なぜか『俺の姉』という強引な戸籍操作を経て学園に入学することになっていた。そして俺の斜め後ろには、荷物持ちという名目で堂々とついてきた完璧なメイド、エルザの姿がある。
「若様、お顔に疲労が滲んでおります。ハーブティーを淹れましょうか?」
「試験会場のど真ん中でティータイムを始める受験生がどこにいるんだよ……」
そんな規格外の身内たちを連れて受験生たちの待機広場を歩いていると、ふと騒がしい声が耳に飛び込んできた。
「おいおい、平民が魔法学園だと? 身の程を知れよ、泥水すする薄汚いネズミが!」
「貴族の靴でも舐めるか? そうすれば学内を歩くことくらいは許してやるぞ、ギャハハハ!」
声の主は、いかにも特権階級を鼻にかけた取り巻き連れの高慢な貴族令息だった。
そして彼らに囲まれ、唇を噛み締めながらも決して目を逸らさずに睨み返している素朴な身なりの少年。
(……間違いない。あいつがこの世界の『本当の主人公』だ)
かつての俺が歩むはずだった『破滅の運命』の中心にいる少年。
俺は小さく息を吐くと、騒ぎの中心へと歩み寄った。
「そこまでにしたらどうだ。名門の令息ともあろう者が、よってたかって一人を囲むとは見苦しい」
俺の声に、貴族令息はあからさまに不快げな顔を向けてきた。
「あぁ? なんだお前は……って、公爵家のリディルか! 貴様、名門の分際でこんな平民のゴミを庇うというのか! 公爵家の名折れだな!」
平民を庇った俺の態度は、彼らの薄っぺらいプライドを激しく刺激したらしい。令息の顔が怒りで真っ赤に染まり、今にも掴みかかってきそうな空気になる。本当の主人公の少年も「君、どうして……」と驚いた顔で俺を見ていた。
その時だ。
「そこまでだ、受験生ども」
低く、よく通る声と共に、試験官であるローブ姿の教師が現れた。
「ここは王立魔法学園だ。己の矜持はつまらぬ舌戦ではなく、魔法で示せ。……ちょうどいい、次の実技試験はお前たち二人で模擬戦を行え」
「フンッ、望むところだ! 教えてやるよリディル、貴族の誇りを忘れた裏切り者には、どんな屈辱が待っているかをな!」
「……やれやれ」
俺はため息をつきながら、実技試験の会場である闘技場へと向かった。
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