破滅回避のための最強の師匠(パートナー)
頭を抱える俺の横で、パンパン、と暢気な拍手が響いた。
「いやはや、若。おめでとうございます。これで公爵令嬢に続き、古竜の姫君まで手中に収めるとは。モテる男は辛いですな」
「グレン、ふざけてる場合か! どうするんだよこれ!」
ニヤニヤと笑う悪魔の家庭教師に助けを求めると、彼は顎に手を当てて悪びれもせずに言った。
「どうするも何も、願ってもない好機ではありませんか。彼女の言う通り、その圧倒的な武力と魔力は健在。しかも不死身の古竜です。これ以上ない、最高の実戦修行のパートナーかと」
「…………なるほど?」
言われてみれば、その通りだ。
俺の目的は、学園入学までに圧倒的な力をつけること。グレンのスパルタ教育に加えて、不老不死のドラゴンを相手に文字通りのたてせん死闘を繰り返せば、確実に限界を突破できる。
俺はため息を一つ吐き、彼女に向き直った。
「……わかった。ただ、俺にも事情がある。俺は来年、どうしても王立魔法学園に入学しなきゃならない。そして『破滅の運命』をぶっ壊すために、力と時間が必要だったんだ。だから、一生この岩屋で暮らすことはできない」
「破滅の、運命……?」
「ああ。だから、ずっとここにはいられない」
すると彼女は、黄金の瞳を瞬かせ、ふっと柔らかく微笑んだ。
「なんだ、そのようなことか。ならば、我もこの岩屋を捨てて貴様について行くまでだ。時の番竜の役目など、とうの昔に飽きていたからな」
「……本気か?」
「番を一人で死地に行かせる妻がどこにいる?」
胸を張る彼女の揺るぎない態度に、俺は二度目の深いため息をついた。
スカーレットの苛烈なアプローチに加えて、純血の古竜までついてくるとなれば、俺の日常はさらにカオスを極めるだろう。エルザが胃を痛める未来が容易に想像できる。
だが、今は四の五の言っていられない。
「……わかった。ついて来い。ただ、外の世界では人としての名前が要る」
「ほう。ならば、番である貴様が名付けるがよい」
期待に満ちた眼差しで見つめられ、俺は少し考える。
青銀の美しい髪と、月明かりのように澄んだ魔力の光。
「……『シルヴィア』。これからは、シルヴィアと名乗れ」
「シルヴィア……。シルヴィア! ふふ、良い名だ。気に入ったぞ、リディル!」
俺が名付けた新しい名前に、彼女――シルヴィアは満面の笑みを浮かべた。
「それと、ちょっとその格好だと問題が…」
「ん?そなたのくれたこの布のことか?」
「ちょっと色々なところがその…見えているというか」
「シルヴィアは気にしないぞ、別に良いではないかこのままで」
「いや、シルヴィアが良くても僕がね、ちょっとね」
「変な番だ、まあいい、これで良いか?」
シュルシュルとマントがチャイナドレスに形を変えた。まだ露出は多いが、さっきよりはマシだ。
それに、すげーななんでもできるんだなこの人
「さて、茶番はこれくらいにしておきましょうか。外界の時間を遅らせたとはいえ、無限ではありませんからな」
グレンが手を叩き、空気を切り替える。その瞳は、獲物を前にした捕食者のように妖しく光っていた。
「さあ若、シルヴィア殿。まずはウォーミングアップといきましょう。どちらかが死にかけるまで、終わりのない手合わせの始まりです」
「望むところだ! さあリディル、我に貴様の魂の輝きをもう一度見せてみよ!」
迫り来るシルヴィアの拳から、空間を歪めるほどの圧倒的な魔力が放たれる。
俺は新しく覚醒した力を剣に宿し、破滅の運命を打ち砕くための、果てしなく過酷な『時の岩屋』での修行へと身を投じたのだった。
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