予期せぬ目覚めと番竜の掟
ひとまず、全裸の美少女という目の前の爆弾から目を逸らし、俺は祭壇に転がる『黒々とした核』を手に取った。
ずしりとした重みと、脈打つような魔力を感じる。それを岩屋の最深部にそびえる制御盤の中央の窪みへとはめ込むと、カチリと小気味良い音が鳴り、岩屋全体が淡い光に包まれた。
「……よし。これで外界との時間の流れが切り離されたはずだ」
最大の目的は達成した。だが、問題は背後である。
俺は自分の外套を脱ぐと、冷たい岩の床に倒れている青銀の髪の女性に近づき、そっとその体を包み込むように掛けた。
すると、彼女の長い睫毛が震え、パチリと目が開いた。
人の姿をしていながらも、その瞳は紛れもなく先程まで俺を殺しにかかっていた竜と同じ、縦孔の黄金色だった。
「……目覚めたか」
「む……。これは、貴様の衣か」
彼女は自身の小さな手を不思議そうに見つめ、それからマントをギュッと握りしめて身を起こした。
「なぜ、人の姿に?」
「核を奪われたからな。あのように巨大な竜の姿を維持するには、多大な魔力が必要なのだ。核がなければ、燃費の悪いあの姿は保てぬ。……とはいえ」
彼女はちらりと制御盤の方へ視線を向けた。
「我が核はあそこに埋め込まれ、この岩屋の制御にエネルギーを割かれているが、全てを吸い尽くされたわけではない。姿こそちっぽけになったが、力は健在だぞ。我は不滅なる古竜なのだからな」
確かに、彼女の華奢な体からは、先程と遜色ない規格外のプレッシャーが漏れ出ている。迂闊に手を出せば、今の俺など一捻りだろう。
「それで……我を討ち果たした強き人の子よ」
「リディルだ。リディル・グランツ」
「リディル、か。よい名だ」
彼女は立ち上がり、マントを胸元で掻き合わせながら俺の目の前まで歩み寄ってきた。そして、真っ直ぐに俺を見据えて宣言した。
「我を倒したのだ。古の掟に従い、貴様は我が『番』となる定めだ」
「……は?」
思考が停止した。番? つまり、伴侶とか、夫婦とか、そういうことか?
「いやいや、ちょっと待て。いくら俺が勝ったからって、そんな弱肉強食みたいな決まりで一生の伴侶を決めていいのかよ!?」
「っ……!」
俺が至極真っ当なツッコミを入れると、彼女はなぜかビクッと肩を震わせ、その白い頬をカァァッと赤く染め上げた。
そして、マントの裾をギュッと握りしめ、上目遣いで俺を睨みつけてくる。
「ば、馬鹿者……っ! 掟は掟だ! それに……その、貴様の決して折れぬ意志と、ちっぽけな体で限界を超えた魂の輝きに、我は惚れたのだ!!」
「……」
「お、掟抜きでも我は貴様の番になる! 約束せねば、この岩屋から一歩も出さんからな!!」
理不尽すぎる。
だが、あの空間ごと消し飛ばすような力を人型のサイズで振り回されては、今の俺が物理的にここから脱出するのは不可能だ。俺は頭を抱えた。
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