踏み入れた神域と古の脅威
翌朝、俺たちはグランツ侯爵領の最果て、切り立った崖の奥底に口を開ける『時の岩屋』へと足を踏み入れた。
洞窟の内部は、異様な空気に満ちていた。一歩足を踏み出すごとに、空間そのものが泥のようにまとわりつく感覚がある。外界とは明らかに異なる物理法則――時の流れが歪んでいる証拠だ。
グレンの宣言通り、彼は腕を組んで俺の後ろを歩くだけで、周囲の魔物に対する警戒すら俺に丸投げしていた。
「……息が、詰まるな」
五倍の重力魔法とは違う、精神を直接削り取られるような重圧。それを跳ね除けながら、どれだけの時間を下っただろうか。時間感覚すら麻痺し始めた頃、俺たちは巨大な地底湖が広がる最奥の空間へと辿り着いた。
そこは、青白い水晶の光に照らされた幻想的な大空洞だった。
そして、その中央にそびえる巨大なクリスタルの上で、『それ』はとぐろを巻いていた。
――ズンッ!!
空洞全体を揺るがすような、圧倒的なプレッシャー。
青銀の鱗に覆われた巨体。巨大な翼。そして、鋭い知性を感じさせる黄金の瞳が、ゆっくりと開かれた。純血の古竜、『時喰いの番竜』。
次の瞬間、空気を震わせるような恐ろしい咆哮と共に、俺の頭の中に直接、重低音の声が響き渡った。
『……何者か。小さき人の子よ、何故この不可侵の領域へと足を踏み入れた』
足がすくむ。前世のゲーム知識が、そして何よりこの肉体が、精神が、眼前の存在の理不尽な強さを告げている。一歩でも退けば、その瞬間に喰い殺されるだろう。
俺は震える膝を必死に抑え込み、剣の柄を強く握りしめて前を睨み据えた。
「俺はリディル・グランツ! 己に降りかかる破滅の運命を叩き潰すため……あなたが守る『時間』を奪いに来た!!」
『……傲慢な。ならば、その命をもって時の砂の塵となるがよい』
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