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最強の運営者、クソ勇者を社会的に抹殺する  作者: 葉山 乃愛


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第15話 欺瞞の坑道と、生きたダンジョンコア

北の鉄の砦へと続く、冷たく湿った古代の地下通路。


俺たち潜入班の三人は、一切の光源を持たずに暗闇の中を疾走していた。



「……マスター、三歩先の石畳に感圧式の起爆トラップ。右の壁には毒針の射出機があります」



先頭を走るリーシャが、闇に溶け込みながら的確に罠を見抜き、双剣の柄で次々と無力化していく。


暗殺者として裏社会で培われた彼女の斥候技術は、アリアの索敵魔法と組み合わさることで完全に死角をなくしていた。



「見事な手際ですね、リーシャ。マスターの【超鑑定】を使うまでもない」



「えへへ……。レオン様の役に立てるなら、これくらい当然です!」



アリアに褒められ、照れたように笑うリーシャ。


だが、俺の【超鑑定】は、このあまりにもスムーズすぎる進行に一つの『違和感』を覚えていた。



(……罠の配置が、不自然に『新しい』な)



古代の王が作ったという隠し通路にしては、仕掛けられているトラップの魔力残滓が数日以内のものばかりだ。


まるで、俺たちがここを通ることをあらかじめ想定し、適度な足止めとして配置したかのようなーー。



同じ頃、地上では。



「き、きたわね……! うずうずするわ、早くあのデカい剣を振り回したい!」



北の大地に広がる荒野。


セレスが大剣の柄を握りしめ、目を輝かせながら前方を見据えていた。



地平線を黒く染め上げる、ガルドス公爵の私兵団、三万の軍勢。


寄生魔石に洗脳され、感情を失った兵士たちが、一糸乱れぬ不気味な足音を響かせて進軍してくる。



「落ち着け、セレス。我々の任務は彼らを殺すことではない。レオンが地下でコアを制圧し、洗脳を解く瞬間まで、この防衛線を死守することだ」



隣に立つギルバートが、漆黒の魔導アーマーの兜を下ろし、大盾を構える。


たった二人で三万を迎え撃つという絶望的な状況。


だが、二人の背後に浮かぶ配信モニターのコメント欄は、悲壮感よりも熱狂に包まれていた。



『ギルバート団長の鉄壁と、セレス姐さんの火力のコンビ!』

『三万相手に一歩も引かないのカッコよすぎだろ!』

『二人とも、レオンのバフかかってるから実質無敵状態なんだよな』



「全軍、突撃ぃぃぃっ!!」



公爵軍の指揮官が叫び、三万の兵が怒涛のうねりとなって二人に襲いかかる。



「『大盾の城壁イージス・ウォール』ッ!!」



ギルバートが大盾を地面に叩きつけると、黄金の魔力障壁が展開され、先陣を切ってきた数百の騎兵を傷つけることなく弾き飛ばした。


そこに、セレスが地を蹴って跳躍する。



「峰打ちで我慢してあげるわ! 吹き飛びなさい!!」



魔力を纏った大剣の腹で薙ぎ払う強烈な一撃。


衝撃波が地面を抉り、兵士たちが次々と空高く打ち上げられていく。


二人の圧倒的な防衛戦線は、公爵の大軍を見事に足止めしていた。



一方、地下通路の最深部。



俺たち三人は、ついに公爵の居城の地下深くに位置する『中央コア制御室』の巨大な鉄扉の前に到達した。


アリアが魔力で扉のロックを破壊し、蹴り開ける。



「……遅かったな、王都の簒奪者レオンよ」



広大な地下空間。


その中央で、禍々しい紫色の光を放つ巨大な水晶体ーー人工ダンジョンコアに無数の管で繋がれた巨漢が、玉座から俺を見下ろしていた。


北の絶対的支配者、ガルドス公爵だ。



「わざわざご丁寧に出迎えてくれるとはな。難民の落とした地図を信じてノコノコやってきた馬鹿なネズミに見えるか?」



俺が挑発的に笑うと、公爵は肉付きの良い顔を歪めて嗤った。



「クックック。やはり気づいていたか。あの難民の逃亡も、地図も、貴様をこの地下室に誘い込むための私の撒き餌だ」



公爵の言葉に、リーシャがハッと息を呑む。



「罠だと分かっていて、ここに来たというのか?」



「ああ。地上で三万の相手をしながらコアを探すより、お前が自分から『ここが急所だ』と教えてくれたルートを通る方が早くて確実だからな」



俺の返答に、公爵は額に青筋を浮かべた。


俺の【超鑑定】は、すでに公爵のステータスと、彼が繋がっているコアの構造を完全に読み取っている。



「……お前、自分の心臓に人工コアのメインシステムを埋め込んだのか」



俺の言葉が配信に乗ると、視聴者たちが一斉にざわついた。



「いかにも! 私はもはや人間を超越した! この砦の地下に広がる魔力脈と完全に同化し、私自身が『生きたダンジョンコア』となったのだ!」



公爵が両腕を広げると、彼に繋がれた無数の管から紫色の魔力が脈打ち、地下室全体が不気味に震動し始める。



「王都のコアをハッキングした貴様の【超鑑定】の仕組みは、生き残った暗殺者ギルドの残党から聞いている。システムに干渉して書き換える能力だろう? だが!」



公爵の肉体が膨張し、鋼鉄のような皮膚を持つ異形の怪物へと変貌していく。



「『私という生物』そのものがコアである以上、貴様はシステムの外側からハッキングすることはできん! マスター権限は、私には通用しない!!」



『うわ、公爵バケモノになっちゃったよ……!』

『物理的に人間辞めるとか、どんだけ権力に執着してんだよ』

『レオンの能力の弱点を突いてきたってことか!?』



公爵の叫びと共に、地上で戦う三万の兵士たちの胸の魔石が一斉に紫色の光を強く放ち始めた。


モニター越しのギルバートとセレスが、兵士たちの異常な変化に顔を強張らせる。



「地上の三万の兵士たちは、私の心臓とリンクしている。私が死ねば、三万の兵士の魔石が連鎖爆発を起こす! 貴様の可愛い部下たちもろとも、北の大地は消し飛ぶぞ!!」



公爵の勝ち誇った高笑いが、地下室に響き渡る。


自らをコアとし、人質を三万に増やすという、王をも凌ぐ狂気の策。



だが。



「……レオン様。あれ、笑って……ます?」



リーシャが不思議そうに見上げた先で、俺は腹の底からこみ上げる笑いを堪えきれずにいた。



「ククッ……アハハハッ! いや、すまん。あまりにもお前が馬鹿すぎて、ついな」



「なに……? 虚勢を張るな、小僧!」



俺は笑いを収め、冷酷な目で異形の公爵を見据えた。



「お前、『システムに干渉できない』と言ったな? ……俺のスキルをただのハッキング能力だと思い込んでる時点で、お前の負けなんだよ」



俺は右手を前に突き出し、公爵に向けて【超鑑定】の真の力を解放した。



「俺の【超鑑定】は、物質、魔力、空間、そしてーー『生命の構造(DNA)』すらも読み解き、書き換えることができる。お前がただの機械のコアなら少し手間だったが……自分から『生物』になってくれたなら、話は別だ」



「な、なにをでたらめな……!」



「アリア。公爵の神経系への直接アクセスパスを開け。……リーシャ、お前の出番だ」



「はい、マスター。すでに公爵の『脳内ネットワーク』へのハッキング経路を確保しました」



アリアが指を鳴らすと、空間に無数の黄金の術式が展開され、それが公爵の巨体を光の鎖のように拘束した。



「なっ!? 体が、動かん……ッ!?」



「リーシャ。お前の『影断ち』で、こいつの脳と、地上の三万人を繋ぐ魔力回路の神経だけを、ピンポイントで切断しろ」



俺の指示に、リーシャは一瞬の躊躇いもなく頷いた。



「了解しました、マスター! ーー『絶影』ッ!!」



リーシャの姿がブレたかと思うと、公爵の影から飛び出した彼女の双剣が、公爵の胸の中央ーー魔力回路の結節点を、物理的な傷を一切つけずに正確に斬り裂いた。



「ガァァァァァッ!?」



公爵が絶叫を上げ、彼と繋がっていた紫色の管が次々と光を失っていく。



「地上班、聞こえるか! 今だ!!」



俺が通信機越しに叫ぶと、モニターの向こうでギルバートとセレスが同時に動いた。



『おおおおおっ!!』



二人が限界まで練り上げた黄金の魔力を大地に叩き込む。


公爵からの命令系統が切断され、機能停止に陥った三万の魔石は、二人の浄化の魔力に耐えきれず、次々と砕け散っていった。



「ば、馬鹿な……私の、私の完璧な計画が……!! 三万の軍勢が……!!」



完全に力を失い、ただの醜い肉塊と化した公爵が、床に這いつくばって絶望の声を漏らす。



「残念だったな、公爵。お前の最高傑作は、俺の仲間たちの連携の前じゃ、ただの粗大ゴミだ」



俺が見下ろすと、公爵は恐怖に顔を引きつらせ、後ずさった。



王都の完全防衛に続き、北の絶対的脅威すらも無傷で制圧してしまった。


新生・王都ダンジョンの力は、これで国内に敵なしとなったのだ。



だが、俺の【超鑑定】は、崩れ落ちた公爵の背後にある『もう一つの扉』から漏れ出す、微かな、しかし異常な魔力反応を捉えていた。



「……マスター。あの扉の奥から、王国の魔力とも、この世界の魔物とも違う……異質な波長を感じます」



アリアが油断なく目を細める。



「……ク、ククク。まだだ、まだ私は負けておらんぞ……」



息も絶え絶えの公爵が、血走った目でその扉を指差した。



「その奥には、私が『他国』の遺跡から発掘し、秘密裏に起動させた『本物の災厄』が眠っている……。貴様らがどれほど強かろうと、アレには絶対に勝てん……!!」



公爵が最期の力で隠しスイッチを押すと、重厚な扉がゆっくりと開き始めた。


中から溢れ出したのは、深淵のように黒く、冷たい『死の冷気』。



俺の【超鑑定】のウィンドウに、かつて見たこともない赤い警告音アラートが鳴り響く。



国内の争いは、ただの余興に過ぎなかったのか。


世界を震撼させる真の戦いが、今、北の地下深くで幕を開けようとしていた。

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