第14話 北の牙城と、迷宮を統べる者の帰還
王都を揺るがした自爆テロの危機は、レオンたちの神業によって回避された。
しかし、ガルドス公爵の屋敷へと送り返された「超高圧爆弾」が、北方の静寂を切り裂く轟音となって響き渡るまで、そう時間はかからなかった。
ガルドス公爵の居城である北の鉄の砦は、一撃でその正面玄関と守備隊の一部を失った。
それは、レオンからの明確すぎる「宣戦布告」だった。
王都の玉座にて、モニター越しに燃え上がる鉄の砦を見つめるレオンの表情は、冷酷なまでに静かだ。
「アリア。被害状況と、公爵側の反応は」
「はい。公爵領内の魔力反応が急激に高まっています。屋敷の地下から、さらに巨大な『軍勢』が展開しようとしています。……どうやら、ただの先遣隊ではないようです」
アリアが展開したマップには、王都とは比較にならないほど強固な防衛陣が示されていた。
ガルドス公爵は、王家さえも恐れた私兵団を保有している。その兵力は三万。
王都を守るダンジョン騎士団の数とは、桁が違う。
「数で押す気か。……面白い」
レオンの傍らで、セレスが大剣を肩に担ぎ、期待に満ちた笑みを浮かべた。
「三万人相手かよ。腕が鳴るわね。ねえレオン、この迷宮の力を使えば、あの砦ごと北の大地をひっくり返せるんでしょ?」
「いや、それはやらない」
俺は即座に否定した。
「俺が欲しいのは、迷宮を奪おうとする公爵の正当性を完全に破壊することだ。……ギルバート、騎士団の準備はいいか」
「いつでも出陣可能です。ですがレオン、我々だけで五百の精鋭を抑えるのはともかく、三万の大軍を相手にするのは無謀かと……」
ギルバートの懸念はもっともだ。戦術的に見て、今の戦力差は圧倒的すぎる。
しかし、俺はモニターの端に表示された、あるログに視線を走らせた。
それは、第12話で倒した先遣隊の隊長が持っていた「寄生魔石」の製造データと、公爵家の帳簿を【超鑑定】で突き合わせた結果出てきた、驚愕の事実だった。
「無謀じゃない。奴らの兵力は、俺たちの兵力に直結しているからな」
「……どういうことだ?」
「公爵の私兵たちの体内に埋め込まれているのは、あの極小魔石だ。つまり、奴らは洗脳された『爆弾の塊』を三万人並べているに過ぎない」
その事実に、ギルバートは絶句した。
「そんな……自分の兵士たちを、最初から使い捨ての駒として……!」
「民を食い物にした王と同じだ。公爵もまた、腐った貴族の一人に過ぎない」
俺はリーシャに視線を向ける。
「リーシャ。暗殺者ギルドのネットワークを使って、公爵領の全市民にこの『公爵の真実』を流せ。軍人たちが自分がどんな運命を辿るかを知れば、戦意はゼロになる」
「了解しました。……マスターの支配下に置かれた情報の海から、奴らの嘘をすべて暴き出します」
リーシャが影へと消える。
一方で、玉座の間には、昨日救った難民の一人が代表として訪れていた。
彼は、北の地で公爵にすべてを奪われ、家族を実験台にされた元農夫だ。
彼はレオンの前に跪き、震える手で一枚の地図を差し出した。
「レオン様……これは、公爵が秘密裏に所有している『迷宮への侵入トンネル』の地図です。私たちは、この道を通ってこの地へ逃げ延びました」
俺は地図を受け取り、即座に鑑定する。
それは、王都の地下深層とガルドス公爵の地下研究室を直結する、かつて古代の王が作った隠し通路だった。
「……なるほど。公爵は、この道を使って王都を内側から食い荒らすつもりだったのか」
皮肉なものだ。奴らが侵略のために掘った穴が、そのまま俺たちが攻め込むための最速ルートになるとは。
「全員聞け。正面からの迎撃はデコイだ。俺たちはこの通路を通り、公爵の屋敷の地下にある『中央コア制御室』へ直接乗り込む」
俺は玉座から立ち上がり、四人の幹部を見渡した。
「セレス、ギルバート。お前たちは地上で、公爵の大軍を足止めしろ。……もちろん、一人も殺すな。洗脳を解いて、武装解除させるのが条件だ」
「一人も、殺さずに……三万人をですか?」
セレスが驚愕する。
「俺の【超鑑定】が、全兵士の体内の魔石回路を一斉に遮断するタイミングを教える。その瞬間、奴らはただの混乱した兵士に戻る。その隙を突け」
「……あまりに無茶な要求ですが、マスターがそう仰るなら」
ギルバートが深く頷く。
「そしてリーシャとアリア。俺と共に地下へ来い。公爵の支配を根底から破壊し、その首を全世界の配信の前で晒し上げる」
俺の宣言に、四人の幹部が力強く呼応する。
王都の百万人の命を守り切った自信。そして、理不尽な権力者への怒り。
俺たちの絆は、もはや何者にも壊せない。
『きたああああ! ついに直接乗り込むのか!』
『三万人を無力化して勝つとか、レオンにしかできない戦法だな!』
『公爵の顔が見てみたいわww』
世界中の視聴者たちが固唾を呑んで見守る中、俺たちは迷宮の深層へと足を踏み入れた。
北の鉄の砦よ。もうすぐ、貴様らの絶対的な支配は、俺という『バグ』によって強制終了される。




