17
あれから、2年。
私は今日、王直属の召喚師になります。
◇ ◇ ◇
「リン」
手持無沙汰で、前より長くなった髪をいじっていると声を掛けられる。
そちらに顔を向けると、そこにはいつもとは違って堅苦しい恰好をしている彼が立っていた。
「殿下」
「もう、殿下じゃないぞ」
「……ああ、そうでしたね。陛下」
困ったように笑う殿下……ではなく、陛下は、わたしの頭を軽く叩いた。
「柄にもなく緊張してんのか?」
「……そうでもないですよ、陛下」
「嘘つけ」
陛下はそう言いながら、笑う。
気づいているだろうに、陛下は何も言わない。
そんな優しさに、2年間、何度救われただろう?
私もつられて笑った。
「本当ですよ。……そろそろ時間ですか?」
「いや、ちょっと散歩でもしようかと思ってな。……行こうぜ、リン」
「……今日の主役が何を言ってるんですか、陛下」
「いいじゃん、こんなところで静かに待ってるなんて、俺らじゃないだろ?」
「……まあ、そうかもしれないですけど……って、それって私も入ってるんですか、陛下?」
心外だ、と睨みつけても、陛下は気にもせず、私の手を掴んだ。
◇ ◇ ◇
陛下と私が向かった先は、王宮の離れ。
「ここでさ、俺とリンが出会ったんだよなぁ」
懐かしそうに目を細める陛下。
そういえばそうだと思いながら、私は別のことを思い出していた。
……召喚術の失敗。そして、そこから始まったあの国で過ごした日々。
私は誤魔化すように、笑った。
……途端に、困ったような表情をする陛下。
どうしたのかと問う前に、陛下はまた、私の手を掴む。
そして、半ば強引に中へと私を連れていった。
◇ ◇ ◇
私は焦っていた。
なるべく近づこうとしなかったあの部屋へと向かっていると気づいたから。
「陛下、そろそろ時間が……」
そう言っても、陛下は足を止めない。
ぐいぐいと先へ進む。
……そして、とうとう、あの部屋の前についた。
当然のようにノブを握る手を、思わず私は掴む。
陛下は、また、困ったように笑った。
「リン」
「……嫌、です」
「開けるぞ」
「……嫌」
「……リン」
「絶対に嫌だっ!!」
私が強く拒んでも、陛下は困ったように笑ってノブを回すと、ドアを開けた。
思わず私は目を瞑り、耳を塞いでその場に座り込む。
しばらくそのままでいると、耳を塞いでいた手を無理矢理放すように、腕を掴まれた。
目の前には、もちろん陛下しかいない。
陛下以外、このようにする人を私は知らない。
ぼやける視界の中で、陛下は悲しそうに微笑んでいた。
「なあ、リン」
優しい声がする。
その声を妨げるものは、もうない。
「お前がいなかったあの数カ月、一体お前に何があったか、何をしてたか、俺は知らないし。聞かない。
だが、少なくともその数カ月でお前が得たものは大きいものだということを俺は理解している。
だから、忘れろなんて言わない。思い出すなとも言わない。
……だけどな、逃げるのだけは止めてくれ。俺は、お前のそんな顔を見たくない」
陛下はそう言うと、掴んでいた私の腕をゆっくりと下し、私の左手を取った。
そして、何度か深呼吸をすると、真剣な眼差しで口を開く。
「幸せにする、なんて無責任なことは言わない。
だが、その代わりにお前の苦しみも、悲しみも、背負う覚悟はある。
だから、リン。俺と……」
そこで、言葉は途切れた。
突然、実技室が光に包まれたからだ。
私は、この光を知っている。
日常、よく見かける……あの光だから。
「……召喚、術……?」
陛下の訝しむような声を聞きながら、私は呆然と部屋の中を見つめていた。
だんだんと弱まっていく光。
現れたモノを見て、私は思わず両手で口を覆う。
同時に何粒も涙が零れ落ちた。
「リン」
現れたモノはあの日のように弱弱しい声で、こちらに手をひらひらと振っている。
「ははっ……来ちまった」
なんで?どうして?
そんな言葉は全て呑み込んで、私は立ちあがると、ゆっくりと近づく。
現れたモノはあの日のように私を引き寄せると、優しく頭を撫でた。
……とても大きくて、とても暖かくて、心地よくて。
私は、彼にしがみつくように泣いた。
再び出会えたことに、深い喜びを感じながら。
END
……もう少しちゃんと話を慎重に進めればよかったなぁ、と少し後悔してます。
中途半端で止めるよりも、すぱっと終わらせるほうがいいかなぁ、ということでこんな終わり方に。
できれば書き直したいと思ってます……が、当分このENDで放置!
いい感じに書き直せたら、また来ます!
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!