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016 海辺の狩り


 渚を南に歩きながら、日が傾くまでにヤドカニを3匹、鉄砲魚を4匹狩ることができた。

 ヤドカニは固いけど、タマモちゃんのバットで殴りつけたところを矢で倒すことができた。鉄砲魚はサンマぐらいの大きさの魚なんだけど、渚近くの海から飛んできて私達の周囲を回りながら海水を鉄砲のように噴射する。

 たまに当たって痛い思いをしたけれど、それぐらいでは私達のHPを削ることにはならないようだ。

 4匹の群れを相手にしても1割程度HPが減ったぐらいだから、10匹以上現れなければ余裕で倒せるみたい。

 

「そろそろ帰ろうか?」

「そうだね。ちょっと待って、GTOを出すから」


 帰りは亀さんに乗って北を目指す。

 少し渚から離れたから、たまに獣を狩っている冒険者達のパーティを見掛けるんだけど、そろそろ帰らないと、途中で日が暮れるんじゃないかな。

 夜は、獣の動きが活発になるから、自分達の能力を過信していると死に戻りをしないとも限らない。


 トロンボーの南門が見えてきたところで、GTOを下りて歩き出す。

 従魔使いであっても、まだこんな魔物を従えてはいないだろう。あまり波風を立たせることはない。


「どんな料理になるんだろうね?」

「パエリアになるのかな?」


 南門の門番さんに笑顔で頭を下げながら先を急いだ。

 夕暮れが近づいた町の大通りは結構な数のプレイヤーで溢れている。

 獲物を店に運んだり、夕食を早めに取ろうとお店を選んでいるのかな?

 ハリセンボンはまだ先なんだけど、食堂と宿が同じだからねぇ。宿泊の心配をしないだけでも助かってしまう。


「「ただいまです!」」


 ハリセンボンの扉を開けて挨拶すると、「「おかえり」」とお客さんまでが挨拶してくれた。


「どうだったの?」


 つかつかとカウンターの奥からやって来たお姉さんが期待を込めた目をして、私達の結果を問いかけてきたので、笑みを浮かべて頷いた。


「それなら、お母さん、カゴを持ってきて!」

 

 カウンターの向こうから大きなカゴが飛んできたけど、おばさんが放り投げてくれたんだろうか?

 お姉さんがテーブルの上にカゴを乗せたところで、獲物をカゴに移す。


「ほう! 大漁じゃねぇか。俺達にも焼いてくれるんだろう?」

「これから調理だからね。ワインでも飲んで待ってて頂戴。あら、鉄砲魚もあるのね?」


 カゴを覗いていたお姉さんが、私に顔を向けて聞いてきた。


「食べられると聞いたんですけど……」

「美味しいのよ。これは貴方達ね。2匹は頂くけど……」

「こっちにくれ! 確か浜値で5デジット(D)だったよな」

「2匹しかないから、皆さんに一切れずつかな。お代はいらないわ」


 もっと獲ってきた方が良かったのかな? タマモちゃんと顔を見合わせてしまった。

 お姉さんがカゴを持ってカウンターの奥にある調理場へと向かって行ったけど、しばらくして、私達に50Dを渡してくれた。

 少し多いんじゃないかな? 思わずお姉さんに視線を移すと、「鉄砲魚の分よ」と言って笑っていた。


「明日も獲ってきた方が良いんでしょうか?」

「そうしてくれると助かるわ。猟師さん達の取ってくる魚介類はパエリアには丁度良いんだけど、単品の料理にはあまり向かないのよ」


 単品なら値が張るのも仕方がないのかもしれない。明日はもっと頑張ってみるか。

 やがて出てきた鉄砲魚の焼き魚は確かに美味しい。サンマみたいに脂が乗ってるんだよね。きっとDHAとかいうものもたくさん入ってるに違いない。プレイヤー達が食べたならINT(知力)の値が上がるんじゃないかな?

 ヤドカニは焼いた足が1本ずつ出てきた。これもタラバ並みに中身が入ってる。

 本体はスープになったみたいだけど、魚介スープと丸いパン1個で私達のお腹は十分に満腹になってしまう。


 食事が終わったところで、港に出てみた。

 散策するプレイヤーや明日の猟の準備をする猟師さん達で、港の岸壁は昼間と同じぐらいに賑わっている。

 岸壁の真ん中近くに釣られたランプがずっと南まで続いているから、まるでお祭りでもしているような雰囲気だ。

 果物を絞ったジュースを手に、ベンチの1つに座ってそんな光景を眺めていると、ポン! と肩を叩かれた。


「なんだ。こっちに来てたんだ。隣の子は?」


 振り返ると、シグ達4人が立っていた。ベンチが並んでいるから、皆が腰を下ろしても十分だね。レナとケーナが私の飲んでいるジュースを見て、近くの屋台に向かっていった。

 皆が揃ったところで、改めてタマモちゃんを紹介する。


「タマモなんだ。キツネ族は初めて見たな。それに、この段階で従魔使いというのも、モモと同じということなんだろうな」

「お姉ちゃんもこの近くで狩りをしてるの?」

「ヤドカニと鉄砲魚を獲ったよ。宿に卸したんだけど、ケーナ達なら市場になるのかな」


 ケーナが頷いてるから、何匹か獲ったということなんだろう。

 トラペットの町に比べれば、この町の周囲の獲物は高く売れるんだよね。


「私達はトビウオと鉄砲魚を主に狩ってるんだ。ヤドカニにも挑戦したんだが、あいつは固いからなぁ」

「長柄の斧や棍棒が必要かもね。私達の場合はタマモちゃんがバットを使ってたもの」


 シグが頷いているところをみると、長柄武器を考えているのかな?

 長剣も良いんだけど、サブの武器だって用意しておくにこしたことは無い。


「それで、武器屋の品揃えに大きなマサカリがあったのか……。だけどバットは無かったぞ。どんな武器だ?」


 タマモちゃんが「一球入魂」バットを自慢げに取り出したんだけど、皆が唖然と見てるんだよね。


「本当にバットなんだな。それでヤドカニを叩くんだ」

「何回も叩いたよ。お姉ちゃんも矢をたくさん使ってた」


 シグ達が何やら考えているから、丸太でも使うことを考えてるのかもしれない。


「どうにか、北の町にも行ったんだが、周辺は少し物騒だ。L10を越えないと難しいかもしれないぞ。モモ達はL10なんだろう? その先は苦労するぞ」

「街道を進むし、物騒な相手なら逃げられるからね。でも、そろそろ一般のプレイヤー達がやって来るから、あまり遠くには行かないよ」


 それは分かってる、というようにシグ達が互いの顔に視線を投げている。

 たぶん私を心配してくれてるんだろうけど、シグ達はプレイヤーだし私達はNPCなんだよね。


「プレイヤーが増えると、色々ありそうだと警邏さん達が言ってた。レムリアに一般のプレイヤーが大勢入って来るんだから、私達の仕事も頑張らないとね。シグ達はどんどん先に進むといいよ。それに、【転移】がもう直ぐ使えるはずだから」

「一般プレイヤーの参加と同時期らしい。この町では北西にある神殿前の広場だとギルドで聞いている。確かにモモ達のところには自由に帰って来られそうだ」


 とはいっても、プレイヤーが最初に訪れるトラペットのような町では、初心者プレイヤーがたくさんいるはずだ。

 多用すると羨ましがられないかな?

 でも乗合馬車に乗れば、あまりレベルを上げなくても来られるらしい。そうでもしないと、生産職のプレイヤーがトラペットを出るにはかなり長い間修業をしないといけないだろうから、特定職業での救援策ともいえるものなんだろう。


「もう直ぐL10になる。L11になったら、この町を離れるよ」

「北の王国に向かうの?」

「先ずは、行けるところまで旅をするつもり。イベントが色々と用意されてるみたいだから、北の町に行って、北の王国へ移動するための手立てを探そうと思ってる」


「なら、海岸線の狩りは狙い目よ。ケーナも足手まといにならないでね」

「だいじょうぶ!」


 ケーナの返事は小さいけれど、元々が頑張り屋さんだし、持っている武器も片刃の長剣に変えたみたいだ。サムライへの転職はまだまだ先だけど、しっかりと先を見据えて努力してるんだろうな。


「それじゃあ!」と言いながら別れたけど、今度はどの町で出会えるんだろう?


「お姉ちゃんのお友達?」

「そうなの。でもプレイヤーだから一緒に行動することはできないんだよね。でも、タマモちゃんがいるから寂しくないよ!」

「私も!」


 タマモちゃんと手を繋いでハリセンボンに向かう。

 明日も頑張って、ヤドカニを狩ろう。シグ達にも手ごわいらしいから、どうにかトラペットから移動してきたプレイヤーには手に余るに違いない。


 南の砂浜で何日か狩りをしてから、北の砂浜にも足を運んでみた。

 トランバーの港を境にして、微妙に魚の種類が変わっている。

 北の砂浜にはヤドカニだけでなく、ヤドカリまでいるのだ。

 工事の目印のような大きさの巻貝を背負って、私達にハサミを振り上げて向ってくる。

 三角形の巻貝は二枚貝の殻よりも強度があるようで、タマモちゃんのバット攻撃でもなかなかHPゲージが減らないんだよね。

 物理攻撃にかなり強いヤドカリでも魔法攻撃には弱いみたいで【火炎弾】や【氷柱】で放つツララを受けると見る間にHPゲージが減ってしまう。最後はゴチン! とバットの一撃で倒すことができた。


「これも食べられるの?」

「消えないところをみると、食材なんでしょうね。一応持って帰ろう」


 持ち帰ったヤドカリを見て、お姉さんが踊りだすほどにはしゃぎまわってくれた。

 1匹でヤドカニ2匹に匹敵するほどのレアな食材らしい。


「市場に出ると、大きな食堂が直ぐに買い取ってしまうの。浜値で売ってくれるんでしょう?」

「2匹ありますけど、どうぞ使ってください。宿を提供してくれるだけで助かってますから」


 ヤドカニとトビウオを市場に下ろしてきたから懐は温かい。この2匹で3日分の宿代がタダになった方が私達にとっては嬉しいんだよね。


「そうなると、釣りにもチャレンジしてほしいな。お姉さんが用意しておくから、明日は石垣の先で釣りをしてらっしゃい。でも、魚が飛んでくるかもしれないから武器は持って行くのよ」


 お姉さんの提案に、タマモちゃんと顔を見合わせる。

 結構おもしろいかもしれない。お父さんに連れられて何度かニジマスを釣ったけど、グイグイと竿を引き込む感触が楽しかったんだよね。

 タマモちゃんは初めてじゃないかな?

 明日はのんびりと釣りを楽しむことにしよう!


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