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017 PK犯を探して


 北の石垣の東端は海に突き出ているけど、その末端部は6m四方の広場になっている。

 真ん中に私の背の高さの1.5倍ほどの石灯篭みたいなものがあるのは灯台の役目をするのだろう。

 石燈籠の基部は高さ40cmほどあるから、丁度良い腰掛になる。

 そこに座って、釣竿を2人で出しているのだけれど、釣れるのはイワシみたいな魚ばかりだ。

 バケツに【氷柱】で作ったツララを入れて、釣り上げた魚の鮮度を保って入るんだけど、大きいのは釣れないんだろうか?


「やってるな。この場所はイワシが釣れるだけだぞ。まあ、数が出るから釣る人間は多いんだが、それでも朝夕だけなんだよなぁ」


 親し気に話しかけてきたのは、ハヤタさんだった。隣のアキコさんがバケツを覗いて、タマモちゃんの頭を撫でている。


「あまりフィールドを荒らすと、プレイヤーの皆さんが困ると思いまして」

「そのプレイヤーだが、スタートしてから2か月で100万を超えているようだ。まだまだ膨らむだろうが、プレイヤー達の動きがよろしくないな」


 シグ達がようやくL10というところだ。ホルンの町から北の王国に向かうことが今のところできないということだった。

 イベントがあるんだろうけど、まだ内容が分からないんだろうか?


「トラペットの町の周囲に3つほど村ができたらしいぞ。トランバーの町にも村がそろそろできるんじゃないかな」

「町では収容できなくなってきたということですか?」

「その通り。一応衛星的な村を3から5作れるようにしてある。まだまだ増えそうだからなぁ」


 最終的な参加人員を1千万人と想定しているらしいから、現状の数倍には膨らむんだろうな。


「北のトランバー周辺はL8以上は必要だろう。トラペットを出るならL5というところだろうな。地道に経験値を上げてくれればいいんだが、この町でもとうとう出たようだ」


 思わず、ハヤタさんに顔を向けた。

 出たのがお化けなら良いんだけど、警邏のハヤタさんの言葉ならPKということになるんだろう。


「協力してもらえるか? 一応、俺達の仲間もフィールドに出てはいるんだが、何せ広いからなぁ」

「適当に狩りをして、狙ってきたらで良いですか? もちろん不審な動きをするなら注意はしておきますけど……」

「ありがとう。それでいいよ。邪魔をしたね」


 ハヤタさん達が帰って行ったけど、L5からL8への経験値は200近い。イノシシを倒して得られる経験値は8くらいだから、1人当たり25頭は狩らなければならないだろうし、パーティともなれば100頭前後になるんじゃないか?

 PKで得られる経験値は四分の一とはいえ、イノシシを狩るよりは多いんだよね。


「トランバーの西ってこと?」

「そうね。渚近くにはいないでしょうから、赤い街道の北西で狩りをしようか」


 いつも魚やカニでは飽きてくるだろうし、たまにはイノシシやウサギの肉も良いんじゃないかな。

 それにしても……、プレイヤーが増えると獲物の奪い合いになってしまうのかな?

 それが原因だとすれば、運営の問題になるんだろうけどね。

 とりあえず、明日出掛けて様子を見てみよう。


 昼を過ぎたところで獲物を持っての帰宅となる。

 ハリセンボンのお姉さんが、私からバケツを受け取って岸壁に向かった。

 下ごしらえをするのかな?


 夕食に焼いたイワシが出てきたんだけど、ちょっと苦かった。それでも一皿をきれいに食べてしまった。

 猟師のお客さん達は、焼いたイワシでワインを飲んでいる。

「また釣ってこいよ!」と声援を贈られたから、タマモちゃんと一緒に顔を赤くして早々に2階へと逃げ出してしまった。


「タマモちゃんの武器はムチとバットなんだよね?」

「魔法も使えるよ。それに従魔だって」


 GTOがぶつかったら、それで死に戻りしそうだ。それでも、警邏さん達は許してくれるだろうけど、出来れば引き渡したいよね。


「もし、悪いプレイヤーがいたら私が対処するね。タマモちゃんは【火炎弾】で支援してほしいかな?」

「う~ん、これでも良いような気がするけど、お姉ちゃんの言う通りにするね」


 バットを取り出して、ちょっと悩んでいたけど、どうやら聞き分けてくれたみたい。

 あのバットも強力だからねぇ。レベルの低いプレイヤーに使ったら一撃で終わってしまいそうだ。


 翌日。朝食を終えた私達は、今日は獣を狩りに出掛けるとお姉さんに告げて、トロンボーの西門目指して歩き出した。

 私達と同じように獣を狩りに出掛けるハンター達が、西門に近づくにつれて一緒になって歩いている。

 西門はちょっとした混雑だね。それでも門を出ると、途端に歩けるようになる。プレイヤー達が左右に散っていくみたいだ。


 やがて、私達だけになる。

 一番近いパーティでも数百mは離れている。1時間も歩けば他のパーティの姿さえ見えなくなるんじゃないかな。


「先ずは狩りを行うんでしょう? GTOを出すから乗って行こうよ!」

「そうね。北西に見える尾根の近くまで行ってみようか?」


 タマモちゃんがムチを一振りすると、GTOが現れる。

 亀さんなんだよね。でも、馬よりも早いんじゃないかな?

 GTOの甲羅にまたがって、ゴーグルを付ける。

 私の用意が出来たことを後ろを向いて確かめたタマモちゃんが、一気にGTOを加速させた。

 

 これだけでプレイヤーを凌ぐんじゃないかな?

 移動力が半端じゃないし、甲羅の振動があまりないから甲羅の上で弓が使えそうだ。


「あそこにイノシシがいるよ!」

「追い越せないかな? 近づいたところで一矢浴びせるね」


 一段とGTOの速度が上がる。

 弓を引き絞り、GTOがイノシシと並走する僅かな時間に、矢を放った。


「次を射るよ!」

 

 大きく円を描いてGTOが方向を変える。

 またしても一矢を浴びせたところで、タマモちゃんがバットを取り出した。

 片手で大きく振りかぶって、すれ違いざまにイノシシに一撃を浴びせると、イノシシが転倒して動かなくなった。


「先ずは1頭だね。次も同じように狩ればいいよね」

「3頭も狩れば良いんじゃないかな? 銀貨を1枚渡したからまた5日は泊まれるからね。あまり狩ると、プレイヤーさん達の獲物が少なくなってしまうし」


 そんな狩りを昼近くまで行ったところで、焚き火を作りお茶を沸かす。

 昼食の準備をしてこなかったけど、今夜は久し振りの焼肉だ。お腹を空かせるのも美味しく食べる秘訣なんじゃないかな。


 さて、今度はゆっくりとトランバーに向かって進んでいこう。

 甲羅に私達を乗せて、GTOがサインカーブを描くように左右に方向を変えながら進み始めた。

 周囲を眺めるだけでなく、【探索】のスキルを使い周囲の状況を確認する。

 今のところは変化なしだ。

 何度か、小さなイノシシや野犬を狩るハンターに出会ったけど、PKを企むようなパーティはこの辺りにはいないのかな?


「もう直ぐ、トランバーだよ!」

「それじゃあ、GTOから下りなくちゃね。後は歩いて行こう!」


 PKパーティは見つからなかったな。

 西門を通り抜け、ハリセンボンに向かう前に警邏事務所に立ち寄る。

 扉の中は、ホールのような待機所と、カウンターに隔てられた事務室に分かれている。ハヤタさんを探したんだけど生憎と留守みたい。


「ハヤタさんの依頼で調査したんですけど、この辺りにはいないようです」


 待機所の大きなテーブルにトランバー周辺の地図が乗せられていたから、私達が調査した区域を教えた。


「協力ありがとう。お茶ぐらいしか出せないけど、明日も頼めるかな? 出来ればこの辺りだ」


 中年の男性が指さした区域はトランバーの北西区域だ。北のホルンの町までの中間辺りまでということだろう。


「良いですよ。できればこのまま北上して、ホルンの町まで行ってきます。町のギルドに出向けば【転移】で再び移動できるんですよね?」

「そりゃ出来るけど、そうなると3日は掛かるぞ?」

「だいじょうぶですよ。向こうで一泊して帰ってきます。帰りも同じルートを通ってきますね」


 私達がGTOを使えるのは、まだわからないみたいだ。

 だけど、この探索が終わるころにはバレちゃうんだろうな。

 

 警邏事務所を出ると、次は肉屋へと向かう。

 イノシシ2頭分の肉を売り払い、120デジット(D)を受けとり通りに出た時には、だいぶ日が傾いている。


 ハリセンボンに到着した時には、おばさん達が夕食の準備を始めようとしていた時だった。

 イノシシ1頭分の肉をカウンターに乗せた時には、皆が驚いていたけど直ぐに調理に取り掛かれるんだから、調理の腕は高いに違いない。


「たまには山の幸も良いもんだね。スープは2種類できそうだ。モモちゃん達は焼肉で良いんだろう?」

「「お願いします!」」


 かなりお腹が減ってるんだよね。今夜なら、最初に食べたパエリアだって1人で全部食べられそうだ。

 しばらくすると大きな肉のブロックをゆっくりと回しながら焼いている匂いでお腹が鳴ってくる。

 そんな私達の姿を見てかわいそうに思ってくれたのか、串に刺した焼き魚を1本ずつ渡してくれた。


「まだまだ時間が掛かりそうだね。それを食べながら港でも散歩してきな。日暮れには帰るんだよ。一番のところはモモちゃん達の分だからね」

「「行ってきます!」」


 何となく子供扱いされた気もするんだけど、港の岸壁にあるベンチに腰を下ろして、帰ってくる船を眺めながら焼き魚を頂く。

 30cmほどの魚だからこれだけでも食べ応えがあるんだけど、タマモちゃんは夕食をちゃんと食べられるのかな?

 ふと気になって隣を見ると、一心不乱に齧り付いているタマモちゃんがいた。

 これならだいじょうぶだろう。

 せっかく、腕を振るって調理してくれるんだからねぇ。残したりしたら申し訳ない。


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