第6話 魔女に捨てられた公爵
「ニーナ……なぜ来た」
公爵の執務室。
この時間は、公爵は執務室で昼食をとると聞いたので、侍女長に頼みこんで昼食を運ぶ係を交代させてもらったのだ。
昼食の乗ったカートを押して、部屋に入ってきた私を見た公爵は眉を顰めた。
私が気にせず、応接テーブルの上に二人分の昼食を並べる。
「公爵様、一緒に昼食を食べていただけますか?」
公爵は、何も言わずに立ち上がって、私が座るソファの向かいに腰掛けた。
私はすぐに本題を切り出した。
「単刀直入に聞きますが、あなたは、私のお父さんなのですか?」
しばらくの沈黙が流れる。
「分からないんだ。ヤナは私にも何も教えてくれなかったから」
そう言った公爵の顔には、深い悲しみが滲んでいる気がした。
「公爵様と母の関係を聞いても構いませんか?」
「ヤナとは同じ職場で働いていた。恋人になって……私は結婚まで考えていた」
驚いた。母は、そんな話、一切したことがなかった。
「だけどある日、ヤナが急にいなくなったんだ」
「いなくなった?」
「私の知らないうちに、上司に退職届を出していた。私は、ヤナに捨てられたんだよ」
公爵は、自嘲するように笑った。
「理由は?」
「……分かってたら、こんなに悩んでなかったかもな」
出会ってから、ずっと冷たい人だと思っていた。
だけど今、私の目の前にいる人は、傷ついて臆病になっている人に見えた。
「……もう一度、質問に答えよう」
公爵は恐る恐る顔を上げて、私を見た。
彼の瞳は、揺れていた。
「お前が私の子かは、分からない。だが、ヤナが大切に育てた君を私も大切にしたいとは思っている」
公爵の言葉は、予想外のものだった。
「仕事のことも考えてはいる。どこか申し分ない職がないか検討中だ」
あ、覚えててくれたんだ。
「他に欲しいものや、して欲しいことはあるか?」
私が今一番したいこと……
ふと浮かんだのは、母の笑顔だ。
私は、母の人生が本当に幸せなものだったのか、気になりはじめていた。
「母のことがもっと知りたい……」
それとあなたのことも。
「一緒に調べませんか? 母が本当は、何を考えていたのか」
公爵は、眉を上げてから、私の問いに頷いた。




