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宮廷監察局の魔女令嬢~宮廷に渦巻く嘘を、私が暴きます~  作者: ポムの狼
第一章「母が遺した謎」

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第4話 私がこの女中の嘘を証明いたします

 私とラリサは屋敷に向かって、来た道を戻っていた。


「ニーナ様……申し訳ございませんでした」


「謝らないでよ、ラリサ!」


 そもそもなんで公爵があんなに怒ったのか、謎だし。


「とにかく公爵様は、仕事を探してくれるって言ってたし、私としてはこれ以上ない成果だよ」


 公爵は、なんか不満そうだったけどね。

 でも私には関係ない。目の色が同じってだけの、ただの他人なんだから。


 その後数日、私はストヤノフ公爵家の居候を満喫した。


 公爵家には、大きな図書室があり、庭も広い。

 気になった本を片っ端から借りて、庭で読んだり、ベッドの上でごろごろしながら読んだりしているとあっという間に数日が過ぎていった。




* * *




「ラリサ。ニーナは、何をしている」


 公爵の執務室。

 ラリサの前で公爵のイヴァンは、腕を組んでラリサの報告を待っていた。


「最近は図書室の本もあらかた読み終わってしまったようで、少し暇そうにしていらっしゃいます」


「では、新しい本を仕入れてこよう。どんな話が好きなのかが分かれば、直接作家に依頼してもいい」


 ラリサはため息を吐きたいのを必死で我慢した。

 助け船を出したのは、侍女長のナタリアだ。

 イヴァンに紅茶を出しながら、自然にラリサの言いたいことを代弁した。


「お嬢様を閉じ込めておくのは、限界があるのではないですか? 公爵様の本当のお気持ちをお嬢様にお話してみてはいかがです?」


 その言葉をイヴァンは鼻で笑う。


「なんと伝えろと言うのだ。ヤナにはずっと手紙を送っても、無視され続けてきたんだぞ。父親かもしれないなんて話をしたところで、ニーナが困るだけだ」


 イヴァンの思いつめたような顔を見ると、ナタリアもそれ以上は何も言えなかった。




* * *




「……遅い」


 公爵邸に居候するようになって、一か月も経ってしまった。

 あらかた読みたい本も読んでしまったし、そろそろどこかで仕事をしたい気分だった。


 公爵は、仕事を探してくれると言っていたが難航しているのか?

 私がまだ十四歳だから?

 魔女だからってことはないよね……

 まさか、忘れてる……?


「はぁ……もう一回、図書室に行ってくるか」


 私は転がっていたベッドから起き上がって、部屋を出た。


 



 図書館には、思いがけず新しい本が何冊も入っていた。

 私は新しく借りた本を持って、図書室を出た。


「さすがわ公爵家。新しい本が入るのも早いんだね」


 上機嫌で公爵邸の廊下を一人で歩く。

 ラリサは大抵私と一緒にいてくれるのだけど、なぜだかこの朝の時間はいつもいない。でも、もう一か月もいるから公爵邸は迷わずに歩けるようにはなっていた。

 早く部屋に帰って、新しい本を読まないと。


「ねえ、あの客人、まだいるんでしょ?」


 ふと廊下で声がして、私は咄嗟に柱の陰に隠れた。


「そうみたいよ。ラリサが毎日つきっきりで相手をしてるんだって」


 ちらりと柱から覗くと、女中たちが雑巾で廊下を磨きながら世間話をしているようだ。なんだか、私の話をしている気がする。


「一か月も居座るだなんて、図々しいと思わない?」


 やっぱり私のことだ!

 そうだよね、人から見たらそういう風に見えるよね……


「ここだけの話だけど、あの子、公爵様の隠し子らしいわよ」


「え。そうなの?」


「侍女長があの子のこと、お嬢様って呼んでるのを聞いた女中がいるんだって」


 私は、その言葉に息を呑んだ。


「はぁ? そんなの困るんですけど!」


 派手な金髪の女中が急に立ち上がった。


「そんな子がいたら、私が公爵様と結婚して、玉の輿に乗るって計画が遠のくじゃない!」


「ちょっと、マリア。声、おっきいよ」


 一緒にいた他の女中たちがマリアと呼ばれた女中をいさめたが、それでも彼女の気持ちは収まらなかった。


「あんな地味な子、公爵様の子供のはずがないわ!」


 パタン


「あ……」


 手に汗をかきながら聞いていたので、手に持っていた本を床に落としてしまったのだ。

 女中たちの視線が一気に私に集まる。


 私は慌てて本を拾い上げて、女中たちの前を通り過ぎようとした。

 その時――


 マリアが自分の足元にあった桶の水を足で蹴ってひっくり返した。


 大理石の床が濡れて、私は足を滑らせて転んだ。


「あら、ごめんなさい。足が滑ってしまいましたわ」


 私は濡れてしまった本を取り、マリアの顔を見上げた。

 マリアの顔は、私のことを「魔女の子」として蔑んできた村人たちと同じ顔をしていた。


「何をしている!」


 廊下に怒声が響きわたる。

 振り返るとそこには、獣のような顔をした公爵が立っていた。

 女中たちはそれを見て縮み上がった。


「ニーナ様!」


 騒ぎを聞きつけたのか、公爵の後ろからラリサが走ってきて、すぐに私を立たせた。


 公爵もカツカツと靴を鳴らしながら、こちらへ近づいてくる。


「何があったか説明しろ」


 どうやら公爵は、私が転んだところは見ていないらしい。


「お客様が走って、勝手に桶を引っ掛けて転んだんです!」


 言い訳をしたのは、マリアだ。

 潤んだ瞳で公爵を見上げている。


「私、そんなこと——」


「お客様は、自分の失敗を私のせいにするのですか?……そんなのあんまりです」


 マリアはしくしくと涙を流し始めた。

 これでは、私が悪者みたいだ。


「そうなのか、ニーナ?」


 公爵は、冷たい目で私を見下ろす。


 この人は、端から私を信用していない。

 このままでは、私が公爵家の床を汚した犯人にされてしまう。

 そうなってしまえば、お仕事を紹介してもらう話が流れてしまうかもしれない。


「公爵様、私がこの女中の嘘を証明いたします」

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