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宮廷監察局の魔女令嬢~宮廷に渦巻く嘘を、私が暴きます~  作者: ポムの狼
第一章「母が遺した謎」

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第2話 同じ色の瞳の他人

「お前がニーナか」


 公爵家の中央階段の上に立つその男は、アメジストのような冷たい目で私を見下ろした。


 え……私と同じだ。


 私も男と同じアメジスト色の瞳だった。

 髪の色だけが銀色と黒髪で違う。

 小さな村で暮らしていたので、世間をあまり知らないが、同じ色の瞳の人間と出会ったのは、これが初めてのことだった。


「お父さん……?」


 確証があった訳じゃない。


 母に父のことを聞いたこともあるが、母は「お父さんは亡くなったのよ」と私に説明していた。


 あれが嘘だったとしたら?


 私の言葉に、その男は眉をひそめた。


「勘違いするな」


「え……?」


「お前はただの客人だ。私がお前と家族になることはない」


 男の言葉に、私はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


「……この屋敷に来たことは歓迎する。好きなだけいるといい」


 男はそう言い残すと、動かない私とすれ違って、執事と一緒に屋敷を出ていってしまった。


 どくんどくんと心臓の鼓動が早い。

 男がいなくなっても、私は動くことができなかった。


 なに……あれ……


 無愛想にも程がある。

 

 こっちは、お邪魔する身だから、文句は言えない。母が亡くなって、困っていたところを助けられたという恩もある。


 それにしてもだ。


 好きになれない——

 そう直感的に判断した。


「……ニーナ様」


 声をかけてきたのはラリサだった。

 振り返るとラリサとステファンが心配そうに私を見ていた。


「あぁ……ごめんなさい。行きましょうか。客室はどこ?」


「……ニーナ様のお部屋は、こちらでございます」




 ステファンは警備の仕事があると言って、そこで別れた。

 ラリサは、屋敷の中央階段を上って私を二階へと案内した。

 二階の長い廊下を進み、突き当たりの部屋でラリサの足が止まる。


 ここ?


 壁と同じく白く塗られ、金の装飾が施された両開きの扉だ。


 私の勝手なイメージかもしれないけど、客間ってもっと……

 一階にあって、外との出入りがしやすい場所のイメージがある。

 だけどここは、その反対だった。


 ラリサは金のドアノブに手をかけて、丁寧に扉を開けた。


 「こちらがニーナ様のお部屋でございます」


 私はその部屋を見て息を呑んだ。


 白い大理石の床に白いインテリア。

 大きく開け放たれたガラスの窓からは、さわやかな風が入り、レースのカーテンが揺れていた。


「すごい……こんなにいい部屋を使っていいの?」


「もちろんでございます。こちらは、公爵様がニーナ様のためにご準備されていた部屋でございますから」


 私は恐る恐る部屋へと足を踏み入れた。

 床を汚してしまうんじゃないかと不安になってしまう。


 貸していただいた広い部屋。

 村で住んでいた家のリビングより広い。


 私は、部屋のどこに自分の身を置けばいいのかが分からなくて、ただ立ち尽くしてしまった。


「ニーナ様、良ければお茶をお入れいたしますので、座ってお待ちください」


「あ……ありがとう」


 ラリサは私を部屋のソファへと案内してくれた。

 アイボリーの布地に金の糸で植物模様が織り込まてたソファだ。

 私は、その前の猫足のテーブルに母の手記と箱を置いて、浅くソファに腰掛けた。


 そわそわしながら待っていると、ラリサが部屋の外からティーセットとケーキが乗ったワゴンを押して戻ってきた。

 ラリサは、私の前にケーキを置き、手慣れた様子で紅茶も並べる。


「ねぇ、ラリサ」


「はい、なんでしょうか?」


「良かったら、一緒にお茶にしましょ。私一人だと落ち着かないもの」


 ワゴンには、予備の茶器やおかわり用のケーキも乗っている。

 二人で食べた方が絶対に美味しい。


 ラリサは、驚いたように眉を上げた。


「よろしいのですか?」


「よろしいも何も、私がお願いしてるの。一人だと……なんだか落ち着かない」


 ラリサは、私の反応にふっと笑ってから、紅茶をカップに注いだ。


「それでは、お言葉に甘えて、ご一緒させていただきます」




 ケーキと紅茶は驚くほど美味しかった。

 さすがは、公爵家……

 おやつのレベルだけでも、私が知っている物とは全然違っていた。


「なんだか申し訳ないな。ごめんね、ラリサ。すぐに帝都で仕事を見つけて、出て行くからね」


 公爵が仕事を紹介してくれるものだと思っていたが、さっきの様子だとそうも思えない。「住む場所は貸してやるから、さっさと仕事を探して出ていけ」って、言われてはいないけど、たぶんそう言うことだ。


 ラリサは紅茶のカップをソーサーに戻した。


「何を言っているんですか? ニーナ様。公爵様は『好きなだけいるといい』と、仰っていたではありませんか」


 それは建前ってやつでしょ?

 本気に客人に「いつまでもいていい」って言う人はいないよ。


「うん。でも申し訳ないしさ。仕事を探すには、どこに行けばいい? 私、魔女なんだ。魔女って、帝都だと引手あまただって聞いたんだけど」


 ラリサは、ぎょっと目を見開く。


「それは、ちょっと……お答えしかねます」


「なんで!?」


「確かに魔女は帝都では、仕事に困りませんが、公爵様からはニーナ様が不便をしないようにとしか、申し使っておりません。仕事を探したいなどと言ったら、公爵様がどう思われるか……」


 ラリサは、手を頬に当てて何かを思案している。


 全くラリサは、変なところが融通が利かない。

 公爵に命令されてないと全然動けないってこと?


「分かったよ。ラリサから公爵に許可は取りづらいってことね。今度自分で聞いてみるよ」


 ここは図々しく行こう。

 お仕事を紹介してください!って言えば、意外といけるかもしれない。


 ラリサは、「あんまりおすすめは出来ませんけどね」と小声でつぶやいた。



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