第11話 向けられる敵意
父の手を取り庭園に入る。
ちらりと振り返るとラリサとステファンは、頭を下げてから庭園の隅に行ってしまった。ここからは、二人に助けを求めることはできない。
私と父が並んで歩いているのを見た周りの出席者たちから、悲鳴にも似たざわめきが起こった。
「ストヤノフ公爵が園遊会に顔を出すなんていつぶり?」
「公爵が連れている令嬢は誰?」
「まさか恋人ということはないわよね」
心なしか噂の声は、女性が多い。
この時私は、首になった女中のマリアのことを思い出した。
マリアは父と結婚して玉の輿……とかなんとか言っていた気がする。
チラリと周りを見て、参加者の顔を見た。
顔が青ざめている女性に、私を睨みつける女性――なるほど、父は随分と女性にモテるらしい。
見上げて父の顔をしげしげと観察する。
まぁ、顔がいいのは否定できないね。
父と私は、他の貴族が並んでいる列に並ぶ。
イルディコ先生の授業で聞いた話では、先に皇族の方々に挨拶に行くのがマナーだと言っていた。たぶんこの列は、それだ。
芝生の庭園の奥。
白い柱に大きな屋根の東屋が見える。
東屋には、白の花弁に中央が紫のクレマチスが見事に咲き誇っていて、その中には美しいドレスの女性たちや軍礼服の男たち。あの方たちが教科書で読んだ皇族の方々に違いない。
あまりじろじろ見ないでおこう。田舎者丸出しになってしまうし、触らぬ神に祟りなしだ。
極力誰とも目を合わせないように、前に並んでいたご婦人の髪飾りの宝石を数えていると前のご婦人がいなくなってしまった。
「次の方――イヴァン・ストヤノフ公爵様とそのご息女のニーナ・ストヤノフ様です」
東屋の前のメガネにちょび髭の男が招待客のリストから父と私の名前を読み上げる。
また会場でざわめきが起こった。
東屋の中央。一番大きな金の玉座に腰掛ける恰幅のいい男性が肩手を上げると、すぐに会場は静かになった。
父が頭を下げたのに合わせて、私もカーテシーをする。
「ストヤノフ公爵、そなたが園遊会に顔を出すのは随分久しぶりだな。来てくれて嬉しいよ。そのご令嬢が話に聞いていた貴殿の娘か」
「さようでございます。皇帝陛下」
話に聞いていた……ということは、もしかして父は皇帝陛下に私のことを前もって話していたということか?
「ニーナ嬢、良ければ顔を見せてはくれないか」
「はい」
カーテシーの姿勢からゆっくりと顔を上げる。
イルディコ先生との練習の成果! もうぷるぷるしない。
私はここで初めて皇帝陛下の顔を見た。
金の髪に立派な顎鬚。軍礼服の上に深紅のマントを肩にかけた姿は、教科書の挿絵で見た皇帝陛下そのままの姿だった。
「こんなに美しい令嬢だとは聞いていなかったぞ」
皇帝陛下は、からかうように父に言う。
父はその言葉にあからさまに嫌そうな顔をした。
どうやら父と皇帝陛下は気の置けない間柄らしい。
「二人を歓迎しよう。今日はゆっくりと楽しんでいってくれ」
皇帝陛下の言葉に父と私はもう一度頭を下げた。
まずは、第一関門クリアといった感じかな。
ほっと息を吐いたが、皇帝陛下の後方――視線を感じてそちら見る。ばっちり目が合ってしまった。
燃えるような赤毛に金赤のドレス。
扇で口元は隠していたが、獣のような金の瞳の女性が東屋から私をはっきりと睨みつけていた。




