元婚約者と対峙する日
それから数か月過ぎた。
どうやら、正規の手段で手続きをしてきたのでそれだけ時間が過ぎたのだろう。元婚約者が王城に来たそうだ。
「非正規の手段で来るかと思ったけど、そんな国の恥を公言するような用件だから」
ニイナ筆頭聖女がアーリンソン殿下の報告を聞いて笑う。
「それをさせないでしょうが、我が国の聖女たちの結界が」
アーリンソン殿下の言葉にくすくすとますます楽しそうに笑うニイナ筆頭聖女。
この国では、聖女が張ってある結界があって、国に危害を与えようとする輩が入れないようにしてあるのだ。例外は正式な手続きをして許可を得る場合。
聖女を連れ去ろうとするのは十分危害を加えるに値するとか。
「では、正規の手段で見えたのなら私たちも正規の格好をしないとね」
ニイナ筆頭聖女が用意してくれたのは聖女の正装。普段は汚れるから着ないが……聖女とか神官の主な仕事は二柱の相手だから汚れてもいい服で十分なのだが、こういう場所ではきちんと身だしなみを整える。
普段はエプロン姿の聖女オリーブも聖女であり、王太子の婚約者だからかしっかり正装を身にまとっているし、ニイナ筆頭聖女はまさしく筆頭聖女という貫禄が現れている。
他にもこの件に関しては、全ての聖女、神官にも集合を掛けて転移魔法で集っているが、一握りと言えどもかなりの人数で、一握りのはずではと首を傾げる。
「国とか神の感覚では一握りなのよ」
「………なるほど」
中には10歳に満たない者も居て、彼女は家族と共に居たいからと神殿で暮らしていないとか、妙齢の女性はもともと別の仕事をしていて聖女になった経緯があるから元の仕事をこなしているなど多種多様だ。
神官に至っては傭兵を兼ねているとか商人も行っている者も居たり、まあ、聖女と違って本職が神官の方が圧倒的だが。
そんな面々と王城に向かうとそこにはなんで自分たちが待たされているのかと不満顔の母国の面々。特に今にも怒鳴りそうな顔をしているのは元婚約者だ。
「――お呼びと聞きましたのではせ参じました」
挨拶をするのは神官長と筆頭聖女。後は後ろで控えている。
「わざわざお呼び立てて申し訳ありません」
神殿と王族ではどちらが上というものはないが、国同士のことで呼び立てたから陛下が謝罪するという形式をとっている。
聖女に関係する話題だけど、国を通してきたのだからそれはそういう形になるそうだ。
そこからはもうすでに知っている内容だが、かの国の王太子らの来た用件を説明して……の流れ。
「チェザー。お前の罪は仕方ないから許してやる。さっさと戻ってくるがいい」
そう言われて、了承するものがどこにいるのだろうか。以前のわたくしならそれで頷いていたかもしれないが、人を馬鹿にするのもいい加減しろ。
「――お断りします」
怒りを抑えて、淡々と吐き捨てる。
「はあぁぁ!! お前に拒否権はないんだぞ」
「国外追放されて、この国で聖女になりました。聖女の意思は尊重されるそうですよ。この国では」
神官も聖女も国の要だ。本人の意思が左右される代物なので、誰かに命じられる物ではない。
「そもそも罪を犯した存在が聖女になれるなどと不思議なものですね。――しかも、御神託でわたくしを妻にしないと玉座につけないとか」
「なっ、なんでそれをっ!!」
隠そうとしていたのがばれて動揺しているのか認める発言を漏らす元婚約者。はったりだと判断したのかすぐに口を閉じたが、はったりでもないし、今更口を閉じてももう遅い。
「わたくしはこの国の聖女です。それ以上でもそれ以下でもありません」
お引き取りをと頭を下げるが、聖女として神殿に勤めるものがする最低限の礼節程度。
「ふざけるなっ!! お前は俺の言うとおりにすればいいんだっ!!」
『したいことを探している最中なんですね。見つかるといいですね』
こちらを優しく労わるように告げてくれた言葉。
あの言葉が脳裏に浮かぶ。
「――わたくしは」
その言葉が胸の中でまるで宝石のように輝いている。
「わたくしは。今、自分のしたいことを探しております。そして、それは。貴方の子守りではありません!!」
強くはっきりと断言する。
「お、お前……」
わなわなと震えているのは怒りか驚きか。どうでもいい。こんな相手に自分の人生を振り回されるなどと二度とごめんだ。怒りで手を出してくるのなら都合がいいし、驚きで動揺しているのならもう何も言えないだろう。
「――勿体ないな。このような質のいい女を自分の物に出来たのに他の女に唆されて手放すとはな。男なら両方娶るのが一番だろう」
女性を馬鹿にした物言いが聞こえたと思ったら。王太子の持っていた装飾品が光輝き、短い深緑色の髪黒い瞳が傲慢さを滲ませている。ズボンはしっかり履いているが透けて見える服を上半身に纏っている一人の男性が姿を現す。
いや、装飾品から現れたという時点で人ではないのは察しているが。
「主神さま!! いきなり何故っ!!」
王太子が叫んでいるということはどうやら母国の主神のようだ。
わたくしが知らないだけで、あちらの主神も人の姿を持っていたのだろうか。
「……そうではないわね。だったら最初から加わっていたでしょうし、そもそもあちらの主神は我が国ほど強くない。強かったら聖女も神官もいるはずでしょうし」
聖女オリーブがそっと教えてくれる。
「貴女がほしいと言い出す理由の一つは聖女という力持つ女性がほしいのもあるでしょうね」
「……………」
でしょうね。
「そこのお前の価値に気付かなかったボンクラは断られても仕方ない」
「主、主神さま……」
「黙れボンクラが。――だが、俺様の誘いを断るつもりはないだろうな。女」
ずかずかと近付いて顎を掴もうとするのが心底嫌で、
(来ないで)
心から思ったとたん。わたくしの身体を包むような力が現れて、その傲慢な神を弾く。
「――この俺様を拒むか」
「――誰だって拒みたいだろう。嫌がる女性を手籠めにして、自分に心を許したらポイ捨てするグランノクスという性質の悪い男は」
声が降ってくるような感覚。
窓から光が差し込んだかと思ったら光が人の形をとっていく。
「特に今回は、ボクらの力の欠片がほしいから神託までしてそこの王族を動かしたんだろうし」
長い艶やかな金髪をまっすぐに伸ばして、腰の辺りで一つに束ねている。穏和さや聡明さを宿している金目。質のいい衣をいくつも重ねて羽織っているがそれが重厚に見えずに羽根のように軽そうに見える。
成長期の途中のような少年と青年の狭間の姿を取っているのは我らの主神。
「お前よりもホーリーライトに会いたかったぞ。アレルヤアロー」
「ボクからすれば、お前がここにいること自体不快なんだけど」
と捨てた母国の主神と拾って大事にしてくれているこの国の主神が顔を見合わせたのだった。
グランノクスはツイステのカリム(外見だけ)とフェイトの英雄王のイメージ。
アレルヤアローさま高校生ほどのサイズではワタルの翔龍子。ショタだと虎王のイメージで。




