神殿が慌ただしくなる日
朝の散歩は空気が澄んでいるような感じで心を穏やかにしてくれる。
(これで、あの嫌な気分が消えれば………)
などと考えてしまったらせっかくいい気分だったのが消えてしまった。
思い出さない方がいいのだが、思い出したくないと思えば思うほど袋小路に追いやられる。
「せっかくの気分転換に出たのに……」
溜息を吐いて、ベンチに腰を下ろす。
「会いたい……」
ふと脳裏に浮かぶのは……。
「聖女チェザー? 朝早く散歩ですか?」
声が聞こえて驚いた。まさか今まさに会いたいと思い浮かべていたゴルドー神官の姿だった。
「おはようございます。珍しいですね。こんな早く」
「ゴ、ゴルドー神官も早いですね。あっ、おはようございます」
挨拶されて慌てて挨拶を返す。
「秘密基地の確認です。アレルヤアローさまが寝室におられなかったので、秘密基地で一晩明かしているかもしれないと探しに行く途中で……」
「…………アレルヤアローさまとホーリーライトさまなら先ほどわたくしの部屋にみえていました」
「はっ? マジかっ?」
ゴルドー神官の口調が乱れた。
「あいつら。朝から元気過ぎるだろう」
呆れたような口調にこれがゴルドー神官の地かと思うとドキドキした。
恐怖とかではなく、なんというか、
(格好いい……)
いつもの丁寧な口調もいいが新しい魅力を見せてもらったというか……。
「失礼」
だけど、ゴルドー神官は恥ずかしかったのか顔を赤らめて咳をして誤魔化すように謝罪する。
「――そうでしたか。なら、もう帰っているでしょうね。この時間なら厨房で、筆頭聖女が料理を作っているからつまみ食いを狙って厨房に行っているはずですね」
安堵したように呟くと、
「でも、なんで二柱が聖女チェザーの元に?」
尋ねられて、先程の用件を思い出して、話をする。
相談に乗ってもらいたかったのもあるし、不安な気持ちを誰かに吐き出したかったのもあった。
「はぁ~。なんだそりゃ!?」
呆れたような怒っているような口調。
「自分が浮気して、都合が悪くなったからそんな冤罪で追い出したんだろうっ⁉ で神託が下ったから迎えに来るかもしれないとか。人を何だと思っているんだっ⁉ ってか、神も神だ。まずそんなやらかした元凶に神罰でも下せよ」
うちの二柱ならとっくの昔に下しているぞ。
怒ってくれるその様子が嬉しかった。
わたくしはもしかしたら。
「ずっと怒りたかったかもしれませんね」
胸の中でもやもやとしていたもの。それの正体がやっとわかった気がする。
たぶん昔はそうでなかった。王子妃になることに使命感とか貴族としてすべきことだと受け入れて来たけど、そんな気持ちがどんどん摩耗していて、感情も欠落してきた。
だから、あの断罪の時も反論する気力がなかったのだろう。
そして、今は、
「………周りを巻き込みたくないから。さっさと自分が帰れば解決するとか思っていたら間違いだぞ」
「えっ…………」
確かに、一瞬考えたが、
「周りがそれをされたら心が傷付くからな。絶対するなよ」
「………………………分かってます」
「なら、よし」
安心したように笑って、すぐに、
「失礼しました……」
こほんっ
顔を赤らめて、敬語に戻す。
「自分のしたいことを探すんでしょう。中途半端は駄目ですよ」
気遣うような言葉に、
「ええ。そうですね。――心が折れそうになりましたけど、初志貫徹します」
宣言するように告げると、
「それがいい。それでいいんです」
その言葉に背中を押される。
「ゴルドー神官」
「何ですか?」
「いつも助けてくれますね。貴方は」
わたくしが真に困っている時にこそ貴方の手が差し伸ばされる。
だからこそ。
「負けません」
決意するように言葉を吐き出した。




