略奪を狙う神に狙われる日
「チェザー。たいへん!! たいへんなことがおきたよっ!!」
アレルヤアローさまが朝早くからわたくしの部屋に出現して大きな声で起こしに来た。
「アレルヤアロー!! しゅくじょのへやにかってにはいらないのっ!! おこしてごめんなさいチェザー」
寝巻のまま困惑しているわたくしを見つめて、
「あっ、いえ……えっと。おはようございます……?」
「緊急だから。とりあえずきがえて。きがえがおわるまでそとでまっているわ」
アレルヤアローさまを連れて、ホーリーライトさまが廊下に出る。
二柱さまをお待たせするのが申し訳ないと慌ててすぐに着替えなどの身だしなみを済ませる。まさか、王子妃教育の時の朝の準備の簡略化がここで役に立つとは思わなかった。
着替えを終えて、二柱を部屋にお招きすると、二柱は用意した椅子に腰かけて、
「あのストーカー神が、チェザーが聖女になったのにきづいて、神託をくだしたの」
「チェザーをめとったものをおうにする。あのよこれんぼかみ。ボクとホーリーライトのせいじょがほしいからチェザーがじぶんのくにのしゅっしんだからととんでもないことをいいだしたんだ」
「えっと、それは……」
ホーリーライトさまがずっと母国の神に狙われているとは聞いていたけど、まさかそれでわたくしに関係した神託が下されるなんて予想していなかった。
「わたくし。国外追放されたんですよ……」
「いまごろおおあわてだろうね。えんざいでついほうしたチェザーがせいじょになったって」
「元婚約者があわててむかえにくるわね。――聖女になったチェザーをほっして」
「迷惑ですっ!!」
だって、わたくしは………。
脳裏に浮かぶのはゴルドー神官の姿。
貴族令嬢ではなく一人の女性として接してくれて、一緒にいるだけで心が躍る存在。
「帰りたくない……」
漏れる本音。王太子妃になるための勉強の日々。当たり前だと言われて王太子の仕事も頼まれて、彼の補佐をするのが務めと言われていたが、その結果が王太子の浮気と婚約破棄。しかも冤罪で。
そんなのも耐えて、心を押し殺して務めるのが役割だと言われてもあんな日々に耐えられない。
『好きなことをすればいいんですよ』
ゴルドー神官に告げられて呼吸が楽になった感覚があるのだ。
「――うん。ボクもかえさない」
「テリアーズやアーリンソンにたのんでチェザーをまもるようにしたから」
二柱の力強いお言葉。でも、アーリンソン? さま?
「王太子殿下ですよね……アーリンソンさまって……」
「オリーブと婚約するきっかけをつくったのはあたしなのよ」
偉いでしょうと胸を張って告げてきたのはホーリーライトさま。
「そうなんですね……」
「そうよ。――チェザーもゴルドーとむすばれたいのならおうえんするからね」
「えっ⁉ あ、あのっ、そのっ⁉」
「だいじょうぶ!! あたしたちがなんとかするわね」
こちらの言い訳などを聞かずに用件だけ告げて去っていってしまった。
それが子供の姿をしている弊害なのか。いや、大人の姿だったらそもそも早朝にいきなり入ってこないはずだろう。
「帰りたくないけど、わたくしのことで迷惑を掛けるなんて……」
本当にいいのだろうか。そんな不安に襲われる。
だけど。
「大丈夫よ。大丈夫……」
必死に自分に言い聞かせる。
婚約破棄された時間。
すべての自分の努力が無駄だと扱われたあの時。
こちらの言い分に一切聞き耳を持たずに国外に追放されて、馬車から放り投げられるように捨てられたあの瞬間の恐怖。
アレルヤアローさまとゴルドー神官に助けられたあの時。
「もう、都合の良い冤罪を掛けられた公爵令嬢は消えたのよ……」
自分に言い聞かせるようにそっと胸を押さえながら何度も何度も呟く。
「外を散策しましょう」
ゴルド-神官の作ったあの秘密基地を見れば心が休まるかもしれない。
そんなどこから湧いてきたか分からない根拠のない気持ちに促されるままそっと外に出たのだった。
二柱にいいところを取られるぞヒーロー




