聖女になった日
夫婦神のセリフが漢字混じりそうになる……。
「ダメでしょう。あたしたちはしかくのあるきにいったにんげんを神官や聖女にしているの。あいつにたいしてのいやがらせで聖女にしてはかのじょがたいへんでしょう!!」
どこかで子供の声がする。
「ごめん。ホーリーライト。でも、このこのたましいきれいだし、おそかれはやかれせいじょにしたよ」
「そうかもしれないけど、りょうしょうをとって聖女にしなさい!!」
ゆっくり目を開くと、こちらを心配そうに見つめている筆頭聖女……と見慣れない男性。
「体調はどうでしょうか?」
「申し訳ありません。止めれなくて……」
男性が尋ねると同時に頭を下げて謝罪する筆頭聖女。
「えっと………」
体調。身体に何か大きなものが流れているような感覚で、最初は気持ち悪かったけど慣れてくると温かい物がすっと身体に溶けてくるような感覚で……。どう説明すればいいのだろうか。
「多分。説明しても困惑するでしょうが……チェザー嬢。貴方さまは、我が国の主神アレルヤアローさまに気に入られて聖女になりました」
「…………………はい?」
「だって、こんなきれいなたましいのかちにきづかなかったのならボクがせいじょにしてそばにおきたいし」
「だからどういもなく聖女にしちゃだめなのよ。あたしのおっとがかんがえなしでごめんなさい」
などと謝罪してくる幼女。
「あ、あの……主神様って……」
「夫婦神。アレルヤアローさまとホーリーライトさま。この二柱です」
「…………………………………………………本当ですか。…………ですよね」
まさか、子供の姿で、実体を持っているなんて思わなかったが、納得してしまった。
そこで嘘と疑わなかったのは、告げたのは神官の格好をしている青年と筆頭聖女であったし、身体の中でぐるぐる回っている巨大な力はその言葉を肯定させるほどの存在感があったからだ。
「で、聖女」
「はい」
「わたくしは異国民で崇めているわけではないのですが……」
「この国にいる時点と主神様に気に入られた時点で資格はあります」
「………………………」
追放された時点で国には帰れないが、まさかこんな展開があるとは思っていなかった。
困惑しているのに気づいたのか、今はそっとしてくれるつもりなのか筆頭聖女たちは部屋を出ていく。
「わたくしが、聖女……婚約破棄されたと思ったら次は聖女……」
急展開過ぎて頭が付いていかない。
「気晴らしに外でも出てきましょう……」
行動は制限されていないようであるし、ぼんやりと気分転換の散歩は、その国の特徴なのか見慣れない植物があって面白かった。
「んっ?」
奥にどんどん進んでいくと巨大な木の上に可愛らしい建物があるのが見える。確か、こういうのはツリーハウスというものだったが、なんでここに……。
その近くでは建物を確認するように見ているゴルドーの姿も。
「ゴルドー……神官」
どう呼べばいいのか迷って呼び掛ける。
「これは、チェザー嬢」
こちらに気付くとすぐに頭を下げてくる。
「何をしているのですか。それにこれは?」
「あっ。ああ。――これは、アレルヤアローさまに頼まれていた【秘密基地】の一号です。補強をしないといけないかと確認していて」
「秘密基地?」
「そっ。神官になる前は大工だったので、こういうのが作れると言ったらアレルヤアローさまが、『ホーリーライトとふたはしらでゆっくりできるべっそうをつくって』と言われましてね。それの試作品だったんです」
「別荘……」
「チェザー嬢を見付けたのはアレルヤアローさまの別荘の候補地を調べている最中だったのですが、今回の件で、『あいつのくにのちかくにホーリーライトをちかづけたくない』とあそこでの建設予定は無くなったので、運が良かったですね」
「確かに、あの時助けられたのは偶然でも凄かったんですね」
というか。実際に神がいるとは思わなかった。
「本当は神官長しか使えない転移の術も使えるようになっていましたし。……神官の本来の特殊魔法は他者の能力向上なんですけどね……」
遠い目をして告げられるが、それに関しては。
「……………神が実体を持っていることも神から力を貰えることも我が国にはありませんけど」
この国ではそれが出来るのが不思議だ。
「おおよその予想ですが……」
ゴルドー神官が近くにあった木の椅子を持ってきて座るように勧めてくれる。丁寧に一度拭いてくれて。
それに腰を下ろすと座り心地が良く、使う人のことを考えてあるのだと伝わってくる。
「そちらの国は様々な国を併呑して大きくなってきたし、あそこの神はいろんな国の女神を口説いて、自分の者にしたという逸話ばかりありますからね……。元の国の住民からしたら許せないことばかりでしょう。それで信仰心が弱いのだと」
「女神は取り込んで、他の男神は倒される……ですからね」
辺境と王都では考えが様々だし、併呑したが、対応は酷い地域もあったりする。地域格差が目立つのだ。
「チェザー嬢の故郷を悪く言うのもなんですが……」
「いえ……それに対して何らかの対策をした方がいいと殿下に何度も伝えましたが、それが気に入らなかったのもあったんでしょうね。婚約破棄は」
国外追放。
その裏には我が家を陥れたい者たちがいるだろう。だとしたら国に簡単に帰れると思わない方がいい。
父もわたくしを助けたくても身動きが取れない事態だろうと想像できる。
それに……。
「戻りたいと思えませんから」
王太子妃になるための諸々を思い出す。自分の時間を削り、勉強の日々。王太子のフォローをしてきた結果が王太子が自分の時間が出来て浮気の何故かこちら有責での婚約破棄。
そのような国に暮らしたいと思えない。
「大変だったんですね。――だけど、それでも心を歪まなかったチェザー嬢はすごいです」
歪んでもおかしくない状況だったのに、それでも聖女になれるほどの綺麗な心を持っていたのだから。
まさかの声掛けに涙が零れる。
誰も認めてくれなかった。努力が当たり前で失敗は責められる。
「チェ、チェザー嬢っ⁉」
慌てている様に申し訳ないと思ったが、喜びの涙は流させてほしい。ゴルドー神官は最初慌てていたが、やがて、落ち着いたのかそっと背中をさすって、
「好きなだけ泣いていてください。内緒にしますから」
と告げてくれたのだった。




