婚約破棄された日
(なんで……)
国境を越えたらすぐに乗せられた馬車から振り落とされた。国から一刻も早く出したかったからの馬車であって、国を出たらもう用件は済んだとばかりの扱い。
「どうして……」
意味が分からない。いや、分かってはいても思考が追い付かない。
ドレスのおかげで投げ飛ばされたが、運よく軽傷で済んだが、死んでいてもおかしくない状態だ。
打ち付けられて痛みで動けなくなった状態でふとどうしてこうなったのかと走馬灯のように思い出した。
「チェザー。お前との婚約を破棄する!!」
王太子にいきなり言われたと思ったら、王太子の側には煌びやかなドレスに身を包んだ男爵令嬢。彼女を冷遇したとか取り巻きを使って怪我をさせたと言われたが、そんなことをしていない。
婚約者のいる男性をむやみやたらと触れてはいけないと注意はした。ましてや男性数人と個室に鍵を掛けているのはどうなのかと窘めた程度だ。
だが、視界の端でにやにやと嘲笑している政敵やら男爵令嬢自身を見て、嵌められたのだと悟った。
自分の対応が間違っていたから起きたのだと。
だけど、この扱いは………。
「野垂れ死ねと言っているようなものね……」
卒業式典のドレスのまま追い出したのは野党に襲われやすくするためだろう。いや、貧しい者ならば魔が差してもおかしくないと思われるほどの格好だ。
下手をしたら怪我をしている貴族など格好の鬱憤を晴らす存在だ。貴族に不満があるのなら。
「何をやっていたのかしら………」
王太子妃として、未来の王妃としてすべきことをしてきた。間違えが許されない薄氷の上で過ごしていた。
間違えたら取り返しのつかない事態になるから……。
「わたくしは、間違えたのね……あれだけ慎重にしていたつもりだったのに……」
漏れる弱音。いっそ早く終わらせてもらえないかと思っていたら。
「ゴルドー。おんなのこがいるよ。たすけてあげて」
「アレルヤアローさま。好奇心はよろしいですが、先に俺に見に行くように命じてください」
何処からか近付く気配と共に一人の男の子と男性が現れる。
「ゴルドー!!」
「分かってます」
叱るように告げる子供に了承したと思ったら彼は近くの木に近付き、
「ぎりぎりの幅か」
と触れたと同時に、どこかの建物の中に繋がったのが見える。
(空間魔法……これは確か、ユーゼリア王国の神官のみ使える秘術!!)
驚いているのも束の間。ゴルドーと呼ばれていた男性がわたくしを優しく横抱きして、運んでくれる。
そんなの婚約者だった王太子にもされたことなかったので不謹慎にも胸が大きく高鳴った。
あちらこちらにあった怪我は連れていかれた神殿で治癒魔法を掛けられて治療されていった。
「もう大丈夫よ」
微笑んで告げてくる聖女に、
「あ、あり……」
「ありがとうございます。ニイナ筆頭聖女」
お礼を告げる前にゴルドーに言われてしまった。
「神のしもべなら当然です。神官ゴルドー」
ゴルドーに告げると。
「なので、お礼は不要ですよ。――チェザー・マンチスカン・コデリー公爵令嬢」
「なっ、何でわたくしの名前をっ⁉」
「あっ、申し訳ありません。――聖女は治癒をする際にその傷を負った原因を過去見するのです。より安全に治癒するために。治癒だけしても守れない事態があったら大変なので。分かり易く言うと、旦那の暴力で負った怪我の場合は即刻保護することもあるので」
「なるほど……」
家庭内暴力とか犯罪に対しての対策なのか。
「すごいですね……我が国の神殿でそのような秘術はありませんから」
「あいつきら~い。だって、ボクのホーリーライトをなんどもねらってくるから」
治療室の端の方でずっと座って様子を見ていたアレルヤアローと呼ばれていた子供が口を開く。
アレルヤアローって、この国の主神の名前だが、この国では幼名に神の御名を付ける習慣でもあるのだろうか。
「バジリスク公国は、男神が主神でしたね」
ゴルドーが思い出したように口を開く。
「そっ。れんあいしじょうしゅぎのかみで、いろんなくにのめがみをりゃくだつしていくやつ。でも、ほんめいはホーリーライトといってつきまとってきたことがあった。あそこのくにのおうぞくもれんあいしじょうしゅぎで、なにかあるとこんやくしゃをないがしろにする」
「…………………………わたくしが捨てられたのはもしかして」
「んっ。たぶん。それ。ここきんねんは、はつこいのじょせいをおうめいとかきょうはくしてこんやくしゃにしていたからそんなじたいおきなかったけど、ひさびさにしたね」
「………………………」
とんでもないことを聞かされた。
「あの、話が分からないのですが、ニイナ筆頭聖女。アレルヤアローさま」
「ゴルドー神官。この方は、王太子の婚約者でしたが、冤罪で婚約破棄されて国外に追放されました」
「はっ⁉ はあぁぁぁぁぁ!? 王太子の婚約者ですよね。なんで、冤罪でっ、しかも国外追放!! おかしいですよっ!!」
「あのくにはよくやるよ。ボクきら~い」
舌を出して、そんなことを告げるアレルヤアローは、ふとこちらを見て、
「あっ、そっか。――あいつにせいだいないやがらせをおもいついた」
「アレルヤアローさまっ!!」
アレルヤアローを慌てて止めようとする筆頭聖女。
だが、彼女が止めるのも間に合わず、巨大な力が身体にいきなり流れ込んできて、その強すぎる力が体内で大暴れするような頭痛と吐き気。耳鳴り。幻聴。幻覚などというありとあらゆる異常を起こし……。
ぷつん
意識を失ったのだった。
まだ、アレルヤアローさまを神だと知らない




