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第27話「《星環計》は、ただの遺品じゃなかった」

 小屋に戻ったとき、空はもう暗かった。


 石壁の隙間から冷えた風が吹き込んでくる。南向きの窓は板で塞いであるが、板と壁のあいだに指一本分の隙間がある。そこから差し込む光は月明かりだけだ。


 リネットは入るなり、コートも脱がずに石の台へ端末を置いた。画面の青白い光が、地下室のような室内をぼんやりと照らす。


「始める」


 それだけ言って、彼女は作業に入った。


 端末の上を指が滑る。禁書庫から持ち出したデータ、過去の勇者たちの記録、恩師のメモの撮影データ——それらが次々と画面上に展開され、因果波形の観測ログと並べられていく。


 ツカサは口を挟まなかった。


 水袋から残りの水を飲み、干し果物を袋から二粒取り出した。一粒を自分の口に放り込み、もう一粒をリネットの手が届く位置——石の台の端に置いた。彼女は気づいていないか、気づいていても手を伸ばさない。


 やることがない、というのは正確ではない。明日の調達ルートを考えなければならないし、聖堂の巡回パターンも推測しておきたい。だが鉛筆の芯がない。頭の中で組み立てるしかなかった。


 右足の踵が、じくじくと痛む。今日は走りすぎた。村までの往復と、聖堂騎士からの撤退。角質化した豆が靴の中で圧迫されて、鈍い熱を持っている。


 ローファーを脱いで、壁に背をもたれた。


 石の冷たさが、汗で湿った制服のシャツ越しに背中へ染みる。


 端末の光だけが動いている。


 リネットの指が止まらない。画面を切り替え、数値を照合し、恩師のメモと自分の観測データを重ね合わせる。ときどき唇が動くが、声にはならない。数式か、あるいは独り言か。


 ツカサは目を閉じた。


 眠るつもりはなかった。だが身体が限界を主張している。行軍の蓄積疲労は、もう何日も前から慢性になっていた。右肩の打撲は触れなければ忘れられる程度に回復していたが、拳の関節はまだ赤い。皮が剥けた箇所が、乾燥した空気に引きつる。


 意識が沈みかけたとき。


「——ツカサ」


 リネットの声に、異質な緊張が混じっていた。


 目を開ける。


 端末の光とは別の光が、部屋の中にあった。


 石の台の上。リネットの端末の隣に置かれていた布包み——《星環計》の欠片を包んだ灰色の布が、内側から光っている。


 淡い、白に近い青。


 脈打つように、明滅している。


「触ってないのに」


 リネットが言った。椅子代わりの石から腰を浮かせて、包みを見下ろしている。眼鏡のレンズに青白い光が映り込んで、翡翠の瞳の色が変わって見えた。


「データを照合してたら、急に——」


 布包みが、かすかに振動した。石の台の表面を、小さな音を立てて滑る。


 ツカサは立ち上がった。踵に体重をかけないよう、つま先から踏む。


 近づいて、見た。


 布の隙間から漏れる光。その光の表面に、ツカサの目には——何かが見える。


 因果ラベル。


 だが、これまで見てきたどのラベルとも違う。浮遊する文字列ではなく、幾何学的な紋様だった。円と線が交差し、分岐し、再び合流する。回路図のような、あるいは楽譜のような。


「リネット。これ——欠片の表面に、何か浮いてる」


「何が見える?」


「文字じゃない。紋様だ。円と線が——回路みたいな」


 リネットの息が止まった。


 一拍。


 それから彼女は、端末を掴んで画面を切り替えた。因果波形の観測モードに。


「……波形が出てる」


 声が低い。


「欠片から。微弱だけど、因果波形が放射されてる。そして——」


 リネットの指が画面上の波形グラフを拡大した。


「これ、王都方面から届いてる残留波形と、周波数が合ってる。共振してるのよ」


 ツカサはリネットの横に並んで、端末の画面を見た。二つの波形がグラフ上で重なっている。片方は微弱で不安定、もう片方は遠くて減衰しているが、山と谷のタイミングがほぼ一致していた。


「王都の——炉の波形か」


「英雄叙事炉の残留波形。出力が上がってるせいで、ここまで届いてる。それに《星環計》の欠片が反応した」


 リネットは布包みに手を伸ばし、欠片を一つ取り出した。


 光が強くなった。


 彼女の掌の中で、かつて七層の輪の一部だった金属片が、内側から燃えるように明滅している。表面の紋様——ツカサにだけ見えるそれが、さらに鮮明になった。


 円の中心から放射状に伸びる線。線が分岐する点に、小さな記号が浮かぶ。


「紋様が変わった。今——線の分岐点に、記号みたいなのが出てきてる」


「記号?」


「俺に見えてる因果ラベルと同じ系統の——でも、もっと複雑だ。構造的というか、設計図みたいな」


 リネットの目が変わった。


 ツカサはそれを知っている。彼女が"答え"に近づいたときの目だ。学者の目。狩人の目。逃がさない、という目。


「書き写す。あなた、見えてるものを全部口にして」


 リネットは端末を録音モードに切り替え、同時に空いた左手でコートの内ポケットから紙を引き出した。告発用の反証資料の裏面だ。鉛筆がない。彼女は端末のスタイラスを抜いて、紙の表面に押し当てた。インクは出ないが、圧痕で文字が残る。


「中心の円から、線が六本。いや、七本——」


 ツカサは見えるままを語った。


 分岐点の記号。線の太さの変化。ある線は途中で途切れ、別の線と合流する。紋様の一部が脈動し、別の一部は静止している。


「七本目の線だけ太い。他の六本と合流してから、一本の太い線になって——上に伸びてる。伸びた先に、でかい記号がある。他の記号とは形が違う。錨みたいな——」


「錨」


 リネットが呟いた。


「主軸アンカー」


 欠片の光が、一段強くなった。リネットの掌が青白く照らされ、彼女の指の骨の影が浮く。


「六本の入力線と、一本の出力集約線。集約された出力が主軸——つまりレオの補正核——へ接続されている。これは」


 リネットの声が震えた。怒りでも悲しみでもなく、理解の震えだった。


「炉の制御式の、一部よ」


 ツカサは口を閉じて、リネットの手元を見た。


 彼女はスタイラスを走らせながら、同時に端末の録音を確認し、ツカサの口述と自分の解析を統合している。六本の入力線は炉が世界の因果から吸い上げる経路。それが一本に束ねられて主軸アンカーへ注ぎ込まれる。主軸アンカーは、受け皿であると同時に制御基準点でもある。


「……ここ。この分岐。主軸アンカーとの接続が切れた場合の、条件分岐が見える?」


「見える。太い線が途切れた先に、二つの経路がある。片方は——なんだこれ、渦を巻いてる。もう片方は、全部の線が一斉に消える」


「渦が暴走。一斉消失が緊急停止。つまり——」


 リネットの指が止まった。


「主軸アンカーを失うと、炉は制御を失って暴走する。暴走の先に、安全機構が起動して停止する」


 言葉が、石の壁に反響した。


 欠片の光が、ちらついた。


 明滅の間隔が短くなっている。脈動が速い。


「リネット」


「分かってる。負荷がかかってる」


 彼女の声は冷静だった。だが、手の速度は上がっている。


「あと少し——出力の分配比率と、安全機構の起動条件——」


 欠片にひびが入った。


 音はなかった。ただ、光の筋が一本、金属片の表面を走った。


「——リネット」


「もう少し——」


「ひび入ってる」


 リネットの手が一瞬だけ止まった。


 それからまた動いた。前より速く。


 ひびが広がっていく。金属片の表面を、蜘蛛の巣のように細い亀裂が走る。光がひびの隙間から噴き出し、リネットの掌を、顔を、白く染めた。


 ツカサの目には、紋様が解けていくのが見えた。回路図が端から崩れ、記号が滲み、線が途切れる。情報が消えていく。


「——書き終えた」


 リネットがスタイラスを置いた瞬間、欠片が砕けた。


 砕けた、というより、崩れた。


 彼女の掌の中で、金属片が灰色の粉になった。光が消え、粉が指の隙間からこぼれ落ちて、石の台の上に小さな山を作った。


 灰だった。


 七層の輪の一部だったものが、ただの灰になった。


 部屋が暗くなった。端末の青白い光だけが残る。


 リネットは、掌に残った灰を見ていた。


 動かない。


 ツカサも動かなかった。


 五秒。十秒。


 リネットの指が、灰の上でかすかに動いた。何かを掬うように。だが掬えるものはもうない。


「……五つのうち、一つ」


 声は平坦だった。


「残り、四つ」


 彼女は灰を見つめたまま、左手でコートの内側の布包みを確認した。四つの欠片が、まだそこにある。


「泣かないよ」


 ツカサは何も言っていなかった。


 リネットは自分に言ったのだ。


「泣いてる場合じゃないから。——それに、今のでようやく分かった」


 彼女は灰から目を上げた。翡翠の瞳が、端末の光を反射して冷たく光っている。


「先生は、このために《星環計》を作ったのよ」


「——何?」


「"世界の歪みを解き明かせ"。先生の遺言。私はずっと、比喩だと思ってた。研究者としての心構え、遺志を継げっていう意味だと」


 リネットは灰を掌から払い、端末に向き直った。録音を再生する。ツカサの口述が、小さな音量で流れた。


「違った。文字通りだった」


 リネットの指が、端末の画面上で制御式の断片を再構成していく。スタイラスで紙に刻んだ圧痕の記録と、ツカサの口述と、因果波形の共振データ。三つを重ね合わせて、一枚の不完全な設計図が浮かび上がる。


「《星環計》は、ただの魔導演算器じゃなかった。英雄叙事炉の因果波形を受信して、解析するために設計された——対炉観測装置よ」


 ツカサの中で、何かが繋がった。


 大型任務の前夜。レオが《星環計》を勝手に使い、過負荷で焼き切った夜。リネットが蒼白になったあの顔。七つに割れた輪。レオが笑って言った「俺の勝利演出の一部になれたなら名誉じゃん」。


「……あいつが壊したのは」


「ええ」


 リネットの声に、感情が混じった。今度こそ、はっきりと。


「ただの道具じゃない。先生が生涯をかけて作った、この世界の真実に辿り着くための鍵。英雄叙事炉の秘密を暴くための、唯一の観測装置」


 拳を握りしめている。


 白い。指の関節が浮くほど、強く。


「あの男は、知らなかったとしても——世界の真実への扉を、笑いながら潰したのよ」


 沈黙。


 ツカサは何かを言おうとして、やめた。慰めの言葉ではない。怒りの共有でもない。今、リネットの中で起きていることは、もっと深い場所の話だった。


 恩師が何を見て、何を作り、何を遺そうとしたのか。それがようやく分かった。分かったのと同時に、その遺産がまた一つ灰になった。


 理解と喪失が、同じ瞬間に来る。


 それは慰められる類の痛みじゃない。


「——先生は、辿り着いてたんだな」


 ツカサが言った。


「炉のことに。だから"発生源がある"って書き残した。比喩じゃなく、物理的に、本当に」


「そう」


 リネットは端末を操作する手を止めずに答えた。


「禁書庫に残っていた先生の書き込み。"勇者は完結させられた可能性あり。炉は主軸を失うと停止し、新たな主軸を求める"——あれは仮説じゃなかった。先生は《星環計》で炉の因果波形を実際に観測して、制御構造の一端を掴んでいた」


「それで——」


 ツカサは言いかけて、止まった。


 恩師は、炉の真相に迫っていた。その直後に亡くなっている。


 その意味を、今ここで口にすべきかどうか。


 リネットの横顔を見た。端末の光に照らされた銀灰色の髪。低い位置でまとめた一束が、肩にかかっている。


「先生がどうして亡くなったのか、私はまだ知らない」


 リネットが先に言った。視線は端末に向けたまま。


「病死。公式記録はそう。でも——今の発見で、疑問はさらに深くなった。ただ」


 一拍。


「今はそれを追う余裕がない。先に炉を止める」


 切り替えが、速い。


 ツカサは頷いた。


「それでいい。——で、さっきの制御式。何が分かった?」


「整理する」


 リネットは端末を回転させて、ツカサにも画面が見える角度にした。再構成された制御式の断片が、不完全な図として表示されている。


「まず、入力構造。英雄叙事炉は世界中の因果から六系統の入力を吸い上げている。吸い上げた因果エネルギーを一本に束ねて、主軸アンカーへ注ぐ。主軸アンカーは現在レオの主人公補正核」


「六系統って何だ」


「断片からは特定できない。ただ、六本の入力線それぞれに異なる周波数特性がある。おそらく——戦闘、恋愛、運命、名声、対立、結末。物語を構成する因果のカテゴリーごとに、別系統で吸い上げてる」


「……気持ち悪いな。世界を物語の材料として分類してるのか」


「そう。そしてここが重要」


 リネットの指が、図の上部——太い線が途切れた先の分岐点を指した。


「あなたが見た条件分岐。主軸アンカーが失われた場合。渦=暴走、消失=緊急停止。二つの経路がある」


「暴走してから停止する、って読み方じゃないのか」


「正解。順序がある。まず暴走に入る。主軸を失った炉は、出力の行き先がなくなって制御不能になる。その暴走が一定の閾値を超えると、安全機構が起動して強制停止する」


「じゃあ——」


「炉を直接壊す必要はない」


 リネットが、ツカサの目を見た。


「レオの主人公補正核を砕けば、炉は主軸を失って暴走し、安全機構で止まる」


 石の壁に囲まれた暗い部屋の中で、その言葉だけが鮮明だった。


 狙いが定まった。


 ツカサは腰のハリセンに手を伸ばした。結び目を解かず、ただ触れた。張りぼての感触が、掌に返ってくる。


「あいつの胸にあるやつを、砕く」


「そう」


「——だけど」


 リネットが以前警告していたことが頭を過ぎる。深層補正を雑に剥がすと、宿主の人格まで損なう危険がある、と。浅い補正を叩くのと、深い場所に根を張った補正を叩くのは、まるで別の話だ。


「主人公補正核は——あいつの一番深い場所に刺さってる。召喚されてからずっと、あいつの全部を回してきた核だ。あれを雑に叩いたら」


「人格ごと壊れる可能性がある」


 リネットが先を続けた。


「分かってる。今のハリセンでは、深い補正と人格の境界を区別できない。王都外縁で——」


 リネットは一瞬だけ目を閉じた。


「あの聖堂騎士の補正。あれが人格の深くまで根を張っていたでしょう。主人公補正核はあれの比じゃない。根が深い。太い。あれを丸ごと叩いたら——レオという人間そのものが崩壊する」


「それは駄目だ」


 ツカサは即答した。


「あいつをぶっ壊したいわけじゃない。あいつにくっついてる嘘を剥がしたいんだ。本人は生きたまま、特別扱いだけ全部失って、自分が何をしてきたか直視させる。それが——」


「それがあなたの"ざまぁ"でしょう」


 リネットが、かすかに口角を上げた。


「知ってる」


 ツカサは鼻を鳴らした。


「分かってるなら話が早い。精度が要る。あいつの補正核だけを、人を傷つけずに砕く精度が」


 沈黙が落ちた。


 リネットは端末から目を離し、コートの内ポケットに手を入れた。


 布包みを取り出す。


 灰色の布を開く。四つの欠片が、端末の光を受けて鈍く光っていた。さっきのような自発的な発光ではない。ただの反射。


「方法は、ある」


 リネットが言った。


「ハリセンの出力を、補正の因果波形に同調させる。共振で、補正の構造だけを切り離す。そのための補助演算枠を——《星環計》の欠片で組む」


 ツカサはリネットの手元を見た。四つの欠片。


「欠片を使うのか」


「使う。回路素材として分解する。つまり——」


「灰になるのか?」


「ええ」


 リネットの声は平坦だった。さっき、一つが灰になったときと同じ声。


 だが、指先がかすかに震えている。


「何個要る」


「まだ正確には計算できていない。でも——一つでは足りない。複数」


 四つのうち、複数。


 恩師が遺した七つの欠片は、もう三つが灰になった。ここからさらに減る。


「リネット」


「分かってる」


「いや。分かってるかどうかじゃなくて」


 ツカサは言葉を選んだ。


「お前の先生が遺したものだ。それを潰すかどうかは、お前が決めることだ。俺が"やれ"とは言わない」


 リネットの手が止まった。


 四つの欠片を見下ろしている。


 長い沈黙。


 端末の画面が、省電力モードに移行しかけて暗くなった。リネットが無意識に指で触れて、明るさが戻る。


「先生は」


 小さな声だった。


「この世界の歪みを暴くために《星環計》を作った。観測して、記録して、真実に辿り着くために。——今夜、その目的が果たされた。断片だけど、炉の制御構造が分かった。止め方が見えた」


 リネットは欠片を一つ摘み上げた。端末の光を透かすように。


「先生が遺したものを、先生の目的のために使う。それは——」


 声が途切れた。


 一拍。


「——破壊じゃない。完遂よ」


 ツカサは黙って聞いていた。


 リネットは欠片を布に戻し、丁寧に包み直した。


「今夜は計算を進める。補助演算枠の設計と、必要な欠片の数の特定。明日あなたが調達に出てる間に、理論を固める」


「……分かった」


「それと」


 リネットは端末を操作し、今夜の共振で得られた全データを二重バックアップした。端末本体と、紙の圧痕記録。


「一つ、確認しておきたいことがある」


「何だ」


「制御式の断片に、安全機構の起動条件が含まれていた。暴走が閾値を超えると停止する。——だけど、"停止"であって"破壊"じゃない」


「……炉は壊れないのか」


「止まるだけ。再起動の可能性は残る」


 ツカサは壁に背を預けたまま、天井を見上げた。石の天井。罅が一本、端から端まで走っている。


「それでも」


「ええ。それでも、今は止めることが先。再起動させないための手は、後から打つ」


 リネットの声に、迷いはなかった。


 ツカサは視線を天井から戻した。


「狙いは決まった。方法も見えてきた。あとは——」


「精度。それだけ」


 リネットが端末をコートの内ポケットに戻し、欠片の布包みもしまった。四つ。先生の遺したものの残り。


「代償は大きい。でも、道具を惜しんで誰かが踏み台にされるのを見てるくらいなら——先生は迷わない」


「お前は?」


「私も迷わない」


 短い沈黙。


「——嘘ついた。少しだけ迷ってる」


 リネットは眼鏡を外して、レンズを袖で拭いた。


「でも、迷いながらやる」


 ツカサは笑った。声は出さなかったが、口元が動いた。


「それでいい」


 夜が深くなっていく。


 ツカサはローファーを履き直し、小屋の戸口から外へ出た。冷えた夜風が、籠もった空気ごと肌を叩く。


 丘の上から空を見渡した。頭上は星が出ている。だが北東——王都がある方角の空だけが、不自然に白い。この丘は王都の南西にある。あの光は、炉の出力が上がっている証拠だ。夜になっても消えない。じわじわと、明るさを増している。


 あの光の下に、レオがいる。胸に巨大な補正核を脈動させて、自分を中心にした最後の英雄譚を準備している。


 あの光の下に、踏み台にされる人がいる。避難経路を絞られ、被害を前提にされ、それでも「勇者が救ってくれる」と信じ込まされている人たちが。


 あの光を、止める。


 ツカサは右手を握った。拳の皮が引きつって、痛んだ。


 まだ殴れる。


 今度は——精密に。

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