第8話 自宅ダブルデート
フリースローの後はボーリングをして、ダーツをして、メダルゲームで枚数を競った。
どれもチーム戦にして、俺と愛遊のチームは、なるべく須賀たちに勝利を譲るようにした。
終わってみれば、俺たちはメダルゲームでの一勝のみ。運が絡むことだし、全敗というのもさすがになんなので、まぁちょうどいい勝ち方だろう。
たっぷりと遊んで少し疲れたところで、館内のフードコートに行った。
四人分の席を先に確保したので、次は場所取り班と食べ物調達の班に分かれて行動。
フリースローでのジュースのおごりの約束もあるし、トータルでも負けたので、フライドポテトなんかを追加で奢ってやるかな……と思いつつ、愛遊を連れて買いに行こうとした。
「オレが一緒に行くよ」
しかし、須賀が立候補してしまった。
ダメとも言えず、野郎二人でファストフードの列に並ぶことに。
「桜井さんと一緒に待っててよかったんだぞ。っていうか、二人で話す時間をやろうと思ったのに」
長い列に並びながら、須賀にそう言った。
「いや、二人きりだとまだ緊張するっていうか……」
とんだチキンだ。緊張するからって逃げてしまったら、せっかくのチャンスを逃がしてしまうだろう。
「悪いな~、お前らがいろいろ気を遣ってくれてるのに」
「なんのことだ?」
「とぼけるなよ。わざと負けてくれてただろ?」
「……バレてたか」
「そりゃな。フリースローだと最後に得点を倍にするし、ボーリングじゃお前も皆川さんも最後の一投はガーダー、ダーツも後半は全然真ん中に行かなくなってた。調整してたのは見え見えだよ」
うまくコントロールできたと思ったんだが、見破られて、さらに見逃してもらえていただけだったか。
「余計なことして怒ってるか?」
「そんなことはない。盛り上げるためにいろいろ気を遣わせて悪かったな、とは思うけど。でも、そんなこと考えないで、お前らもちゃんと楽しんでくれていいんだぞ」
「俺たちも楽しんでるよ。どっちもこういう場所に友達と来るのは初めてだからな」
「そうなのか? 東京には遊ぶ場所はたくさんあるって聞いてるけど」
「あるにはあるんだがな……」
遊ぶ場所があるからと言って、遊ぶ時間や仲間がいるとは限らない。
「お前ら、いかにもモテそうな顔してるくせに、意外とさみしい中学時代を送って来たのか?」
「まぁ俺はそうだったな。愛遊の方も、中学の頃の話はあんまりしてないけど……たぶんそうっぽいな」
「その容姿でそんなことあるのかねぇ……なんで東京を離れてこっちに来たのかもよくわからないし、謎が多いな、お前ら二人とも。まぁ言いたくないような話なら訊かないが」
「そうしてくれると助かる。いや、俺たちのことはいいんだ。今日はお前らのことだ。せっかくお膳立てしてやったんだから、もうちょっとがんばってくれ。四人で遊んで楽しかったね――なんて展開じゃ俺たちもガッカリだぞ」
「わかってる。わかってるが……」
須賀は腕を組んで渋い顔をした。
いいやつなのだが、どうもあと一歩が弱い男だ。
なら、こちらでムリヤリ後押ししてやるか。
「須賀にミッション与えよう。今日中に次の約束を取り付けろ。その時は俺と愛遊はなしで」
「いやいやいや! いきなりそれはハードル高いって。また四人で遊ぶ約束にしようぜ」
「それでもいいんだが、あんまり四人で行動してると、二人になるハードルが上がるぞ。いつも四人なのになんで二人なの? って思われたら終わりだぞ」
「それは……キツイな。キツすぎる。でも、ダブルデートでさえやっと初なのに、次で二人はムリだって」
「焦れったいやつだなぁ。もっと覚悟決めろ」
「出会ってすぐに付き合い始めたお前から見れば、そりゃそう見えるかもしれないが……普通に考えろ。まだ高校生活始まって一ヶ月も経ってないんだぞ」
俺たちは出会ったばかりではなく、八年間の深い付き合いがすでにあり、そもそも偽装カップルなのだが……。
「じゃあもう一回だけダブルデートしてやろう。でも、三回目はないぞ」
「ありがとう、恩に着るよ。本当に悪いなぁ、せっかくのゴールデンウィークで、皆川さんと二人で出かけたいはずなのに邪魔して」
「そこは気にしなくていい」
本当に付き合ってるわけではないので、ちょっと買い物に一緒に行くことくらいはあっても、デートらしいデートなんてしないし。
「こんな頼っておいてなんだけど、なんでここまでしてくれるんだ?」
「なんでって……なんでだろうな?」
……いや、ちゃんとわかっている。
恥ずかしいから口には出せないが、俺にとって須賀は、初めてできた友達なのだ。
俺が夏海流々であることを知らずに付き合ってくれる初めての友達……素の俺と仲良くしてくれる初めての人。
夏海流々と春海楽々はセットだったから、それは愛遊でさえ当てはまらない。
だから、須賀にはできることはしてやりたくなるのだ。
「まぁ楽しいからかな。他人の恋路を見るのは」
「なんだよそれ。まぁそれで楽しんでくれてるなら、また頼らせてもらうぜ」
「ああ、なんでも頼ってくれ」
食べ物と飲み物を買って席に戻る。
女子二人を残していたので、しつこいナンパ男に絡まれていて……というのはよくある展開だが、そんなことは特になかった。
しかし、愛遊が桜井さんにしつこく絡まれていて困っている最中だった。
「ねぇ、だから遊びに行っていいでしょ? 同い年で一人暮らししてる子の家に興味あるのよ」
「いや、でも……」
「おねがいおねがいおねがい!」
そう言って、桜井さんが拝み倒しているところだった。
なんとなく状況を察したので、愛遊がうまいこと断ってくれるのを信じて、なるべく触れないようにしよう。
「なんの話してたんだ?」
しかし、須賀が話を聞いてしまう。
「愛遊ちゃんって一人暮らししてるんだって。高校一年生で親元を離れて一人暮らし。寮とかでもなく、マンションだって。そんなの興味沸くじゃん? だから遊びに行ってもいいかなって」
「ああ、なるほど。たしかにそれは興味あるな。でも、本人がイヤがってるみたいだけど」
「なんか事情があるんだって」
「そっか……そういえば、梨野はどんな家に住んでるんだ?」
うっ、ついにこの話題が来たか……。
一人暮らししてるなんてバレたらたまり場にされかねないので、これまではなるべく避けてきた。
なにも言わなければ、一人暮らししてるなんて思われることはなく、自然に両親も一緒だと思ってもらえるはずだ。
だからこれまではなんとかなってきたのだが……訊かれると話は別だ。
ウソでこの場をごまかすことはできる。
しかし、いつかはバレるだろう。親がこの県内に住んでいないのだから、いつまでもごまかし続けることはできないはずだ。
小さなウソがバレたら、芋づる式に大きな秘密がバレる可能性は高まる。
大きな秘密を守るためには、小さなウソは極力避けるべきだ。
「学校から少し行ったところのマンションで一人暮らししてる……」
「ほう」
「へぇ」
須賀と桜井さんの目がギラッと光る。
「聞きましたか、桜井さん」
「ええ、聞きましたよ、須賀くん。付き合い始めたばかりの男女が、共に親元を離れて一人暮らし。これは……耽美な香りがしますなぁ」
「現場で何が行われているか、なにがなんでも現地調査する必要がある。ということで、今度一緒にお邪魔していいかな? 女子の部屋に行くのはさすがにどうかと思うから、ここは梨野の家に突撃ってことで」
二人でガンガン話をまとめて行く。
ああ、やっぱりこうなったか……。
次のダブルデートに協力すると言った手前、来るなとも言えない。
まぁ愛遊が日常的に出入りしてるとはいえ、ただの偽装カップルだから、見られて困る物などないから別にいいのだが……。




