第7話 フリースロー対決
ダブルデート当日。
俺たちはまず学校に近い駅で集まった。
俺たちが到着した時、須賀はすでに来ていた。
ダブルとはいえ意中の相手の初デート、なかなか気合いが入った格好だ。
少し遅れて桜井さんがやってきた。
「みんな~、誘ってくれてありがとう」
と笑顔を振りまいて現れる。
桜井さんはやや背が高く、ギャルっぽい感じの人。いつもはおろしている茶髪を、今日はツインテールにしている。
容姿はなかなか整っており、愛遊がいなければ、クラスで一番かわいいと言われていたかもしれない。
「あ、いや、予定が空いててよかった。忙しいかな、とも、思ってたから。ムリ言って空けてもらったみたいで悪いな、とか思ってたりもしたんだけど……」
須賀がしどろもどろになりながらそう言う。
挙動不審というか、桜井さんのことを意識しているのが丸わかりだ。
へぇ、恋する男はこうなるのか……使える場面があったら使えるように覚えておこうっと。
「いやぁ、予定はそんなないよ。大きなのは中学の同窓会があるくらいで、だから誘ってくれてうれしいよ。ありがとう」
桜井さんが爽やかに笑顔でお礼を言うと、須賀はデレデレと鼻の下を伸ばした。
誘ったのは愛遊だったはずだが……まぁいいか。
っていうか、同窓会をすでにやるのが驚きなんだが。
「梨野くんも、愛遊ちゃんも今日はよろしくね」
「うん、よろしく。それじゃ行こうか」
今日の目的地であるアミューズメント施設までは、ちょっと遠い。電車で三駅。そこからバスに乗り換え、片道約一時間。
自家用車があればもっと簡単らしいが、高校生にそんな選択肢があるはずなく……市内でこれほどの移動時間を要求されるとは、なかなかに不便だ。
しかし、道中も楽しくないわけではない。
こちとら友達と一緒にお出かけなど初めての身分なのだ。
小学校の頃はもちろん時間がなかったし、中学校の頃は周りから浮いていて誘ってもらえず……引退し、過去を隠している今だからこそできる初めての体験。
なんやかんや、今日を一番楽しみにしていたのは俺だって自信がある。
「ねぇねぇ圭介くん、窓からの景色が面白いよ。右側はちゃんと街なのに左側は全部田んぼ! へへっ、極端だぁ」
愛遊もテンションが高い。
さてはこいつもかなり楽しみにしてたな?
まぁ経歴が俺とそっくりだからな。愛遊も中学校で浮いてて、この手のイベントは初めてだったりするのかもしれない。
「おい、梨野」
須賀が俺の後ろに回り込み、小さな声で話しかけてきた。
電車のガタンゴトンという音に混ざり、女子二人には聞こえていないだろう。
「あまりお前らだけで盛り上がらないでくれ。そっち二人で盛り上がってると、相対的にオレと桜井さんが盛り上がってないみたいになって印象が悪くなるだろ?」
「それは気にしすぎじゃないか?」
「こっちは勝負の日だと思ってんだ。すでに付き合ってるお前らはサポートに回ってくれないか?」
「ああ、わかった」
と快諾する。
というか、言われなくてもそのつもりだった。
まぁ任せてもらおうじゃないか。
恋愛経験はないが、いろんな仕事をこなしてきたから人生経験は結構豊富だ。
たぶんそれらが生きる……はず。
★★★
アミューズメント施設についた。
料金を払って中に入る。ゲーセンやカラオケなどもあるが、一番の売りは運動系らしい。
そのため動きやすい靴に履き替える。俺が持って来たのは学校の体育で使う運動靴。
見れば、他のメンバーも全員そうだった。
「どこから攻める? 幹事の梨野くん、おススメは?」
桜井さんが俺に訊いてくる。俺が幹事なの?
「そうだなぁ。いきなり飛ばすと後半バテそうだから、最初は軽くいこう。フリースローとかどう?」
「いいんじゃないかな」
「オレも賛成」
愛遊と須賀が賛同してくれる。
「よし、じゃあ決まりだな」
桜井さんも賛成。すんなりと決まって、すぐにフリースローエリアに移動した。
フリースローのエリアは人気らしく、思ったより人がいた。
しかし、運良く一レーンだけ空いていて、待ち時間なしで遊ぶことができた。
俺たちのすぐ後ろから来た人が順番待ちの手続きをしていたから、タッチの差だった。
「普通にやるだけだと面白くないから、対決方式にしようぜ。俺と愛遊のチームVS須賀と桜井さんのチーム。負けた方は勝った方にジュースおごりで」
と予定通りに切り出す。
特に反対されることもなく、それで決まった。
「各自十本ずつシュートして、より多く入れた側の勝利。一気に十本やると他が退屈だから、二本シュートしたら次に交代。どうかな?」
「オッケー」
それから順番を決め、俺、桜井さん、愛遊、須賀という流れになった。
さて、開幕一発目。
負ける予定ではあるが、ワンサイドゲームで勝っても須賀たちは盛り上がらないだろう。
結局、一番盛り上がるのは逆転だ。次にギリギリの逃げ込み。
ってことで、まずは俺たちが先行し、途中で須賀たちに逆転させ、追いつけそうで追いつけない……そんな展開が理想的。
最初に二本の内、少なくとも一本は決めたいところ……。
俺の第一投は、綺麗な放物線を描いてゴールに吸い込まれた。リングを揺らす音さえせず、ネットとボールが擦れる音だけ……気持ちいい。
予想外にうまくいった第一投に気をよくし、そのまま二投目。これも入った。
かなりの快感だが、ちょっとうまく行き過ぎたかもしれない。
エンタメとしては、大差が一番まずい。勝つにせよ負けるにせよ僅差がいい。自重しないと。
「梨野くんやるぅ! 次はあたしの番か。でも入るかなぁ、ちょっとゴールが遠い気がする」
ボールを受け取った桜井さんが、ドリブルしながら不安そうに言う。
ドリブルする姿はそれなりに様になっているので、経験者でないにしても運動能力自体はそこそこ高そうだ。
「女子は一メートル近づいたところから、ってことでどうかな?」
「ああ、いいんじゃないか」
俺の提案に須賀も同意してくれて、桜井さんは前に出た。
そこからのシュート。本当にギリギリの飛距離で、一メートル前に出なかったら届かなかっただろう。
一投目は外れたが、二投目は成功。
続いて愛遊。こちらも一投成功させた。
これで3対1で一巡目のラスト、須賀の番になった。
「がんばって、須賀くん!」
「任せてくれ、実は小学校の頃にバスケやってたんだ」
「ほんと⁉ じゃあやっちゃえ!」
桜井さんの声援に、須賀は笑顔で答える。
なかなかいい感じじゃないか。同じチームということで、自然に打ち解けている。
二人の様子を、俺と愛遊は一歩離れたところから微笑ましく見守った。
ここで須賀が経験者の実力を活かし、二本決めれば接戦になって盛り上がる。
ぜひとも決めてほしいところ……だったのだが。
「ああ……」
須賀の力の抜けた声が響く。
二連続失敗。
ちょっと力み過ぎかな……。
「ドンマイ!」
「あ、うん、ありがとう」
桜井さんの慰めに須賀は笑みを作るが、引きつっている。
……大丈夫だろうか?
これは少し手を抜いた方がいいかもしれないな。
二巡目、俺はわざと失敗し、点数を伸ばさなかった。愛遊も同様。
ちなみに桜井さんも連続で失敗。
ここで須賀が連続成功させたらいいのだが……一本だけに留まった。
本番に弱い男だ。
そこからの展開は、惜しいような惜しくないような……俺たちが常に一本リードする展開。
須賀が連続成功させれば追いついてくれるのだが、なぜかそうはならない。
そのまま最終五巡目になった。
まずは俺が一本成功させ、次に桜井さんが一本成功させた。
これで一本差。
愛遊が連続失敗してくれたら、須賀に大逆転のチャンスが渡る。
ラストで決めてくれたらカッコイイだが、はたしてそんな持ってる展開は訪れるか……。
そんなことを考えていると、
「あっ」
愛遊の声が聞こえて来た。
あっ、とも言いたくなる。
決めてしまったのだ。絶対に外さなければいけない場面で。
これで二点差。須賀がどうやっても同点止まり……なにやってくれてんだ、こいつ。
愛遊は申し訳なさそうな顔をして、二投目。
ボールはリングの上をくるくる回って、最終的に内側に落ちた。
どうするんだよ、これ。
三点差じゃどうやっても須賀たちの勝利にならないぞ。
「ありゃ~、これ勝負決まっちゃったか」
桜井さんが残念そうに言う。
最後を待たずしての決着は、いろんな意味で最悪だ。
空気読め、と現場なら言われる。
……いや、まだだ!
こういう時の救済措置が業界にはある。
「最後の須賀だけ、点数を倍にしようぜ」
「梨野、お前……クイズ番組じゃねぇんだぞ」
「まぁまぁ。だってこれで決着じゃ面白くないじゃん。お前だって、桜井さんにカッコイイところ見せたいだろ?」
最後の部分だけ小声で耳打ちする。
「まぁ……そうだな。でも、タダで倍にしてもらうのはな。一メートル後ろに下がるってことでどうだ」
「スリーポイントシュートってことか。それでいこう」
本当は近づいてほしい気分だったが、それじゃ逆転しても須賀の面子が立たない。
ハイリスク・ハイリターンにしてやるのがいいだろう。
「須賀くんがんばれー!」
桜井さんの声援に、須賀は静かに頷く。
今までで一番集中できてそうだ。
「しゃぁっ!」
一投目が入ると、須賀は手応えを感じたのか拳を握って吠えた。
その勢いのまま二投目も決めて、大逆転で勝負をひっくり返した。
「やったね、あたしたちの勝ち!」
桜井さんが手を差し出す。
須賀はそれをパンッ! と勢いよく叩いてハイタッチした。
★★★
「やれやれ、一時はどうなるかと思ったけど、うまくいってよかったわ」
愛遊がなぜか勝ち誇った顔をしていた。
「少し反省してくれ。あのタイミングでの連続成功だけはダメだろ」
「いやぁ、狙ってもいないのにゴールの方がボールを迎えてくれちゃってさ。やっぱ持ってるね、私は」
「いらん場面で運を発揮するのは持ってないやつの特徴なんだよなぁ」
そんな話をしながら、須賀たちが笑顔で話しているのを見守った。
まぁ須賀の緊張もほぐれたみたいだし、なんだかんだ大逆転の筋書き通りだし、結果オーライか。




