第6話 ダブルデート
高校に入学して数週間が経過した。
ここまではうまくやれている自信がある。
愛遊と付き合っているという設定を突如追加することになり、図らずも学校一の美男美女同士のカップルとなってしまい、目立たないモブになりきるという予定の変更を余儀なくされてしまった。
しかし、過去を隠し、一般人として生きるという本来の計画は、ここまで完璧に遂行できている。
一応は順風満帆と言っていいだろう。
そして、ここまで擬態に成功してきた俺たちを祝福するように、明日からゴールデンウィークが始まる。
「ゴールデンウィーク……今年はいい響きに聞こえる。そう思わないか、愛遊」
「ん……」
愛遊はペディキュアを塗っている最中で、テーブルに足を乗せて集中して作業をしているところだった。
なので俺の言葉に、聞こえているのか聞こえていないのかあいまいな返事をする。
それは別にいいんだが……ここは俺の家だぞ。
そういう作業は自分の家でしてくれないかな?
「よし、塗り終わった。で、なんか言ってた気がするけど、なに?」
ペディキュアを乾かすため、愛遊はテーブルに両足を乗っけたまま俺に顔を向ける。
「ゴールデンウィークが楽しみだなって。こんなに心躍る連休は初めてかもしれない」
「わかる。私もなんか今年はテンション高い。だからいつもより明るい色に塗ってみたの」
と、鮮やかなピンクの爪を見せびらかしてくる。
たしか校則ではネイル禁止だったような気がするが……まぁ足はバレないか。
「小学生の頃は、学校が休みの日って朝から晩まで仕事入れられてたもんなぁ」
「休みって概念なかったよね。学校も仕事もない日って、熱を出した時くらいで……」
「一回だけかかったインフルエンザが、小学生時代の最初で最後の連休だったなぁ」
それ以外は、本当に仕事漬けだった。
夏休み等の長期休暇は、ここぞとばかりに仕事を入れられた。
芸能人でも比較的休みが取りやすい年末年始も、俺たちの場合はあちこちの生放送に引っ張りだこ。
まぁ昭和の子役タレントは学校に行かせてもらえず仕事をして、世間に飽きられたらぽいっ。
まともに漢字も読めない学力で一般人になり、稼いだギャラは親に使いこまれていて貯金ゼロ。場合によっては借金まみれ――なんてケースも珍しくなかったらしい。
子どもらしい思い出の一つもない俺たちだが、ちゃんと学校に行かせてもらえて、そこらの大人より貯金を持ってるのだから、休みがなかったくらいで文句を言ってはいけないだろう。
「中学生の頃は休みが増えたけどさぁ、逆に仕事がなくって。すると休みが全然楽しくないんだな」
「同じく……だから、完全に引退して、なにも気にせず休める今年は、ある意味で人生初のゴールデンウィーク! 楽しまなくちゃ」
「だな。なにする? クラスのやつから、単発のバイトをやらないかって誘いもあるんだが。バイトって普通の高校生っぽくないか?」
「っぽいね。どんなバイト?」
「イベントスタッフだって。駅前でやる祭りのステージの設置と撤去、ゴミ回収とかその辺だって」
「スタッフさんかぁ。演者としてステージに立ってきたけど、そっちの視線は知らないから面白そうといえば面白そう。でも、パス。お金には困ってないから」
「そうだな」
小学生当時の俺たちは、間違いなく日本で一番稼いでいた小学生だったはずだ。
稼ぎの一部を家に入れたりはしていたが、子どもゆえに基本的には使い道はなく、貯まる一方だった。
そのおかげで、今は家賃も生活費も一切親に頼らず、自力で生活できている。
高校生らしくバイトをしてみたいという気持ちもなくはないが、切羽詰まった財務状況でもないので、労働意欲は高くない。
「とはいえ、なにもしないと休みはあっという間に終わるぞ。家の中にいたら一瞬だ」
「たしかに……どこかに出かけたいけど、この辺ってどこに行けばいいんだろうね」
「それがわからない」
引っ越してきてようやく一ヶ月が経過したばかり。
お互いに、この辺の地理にはまだ詳しくない。
「地元の詳しい人から案内してもらえたらいいんだけど。圭介くんは、休みの日に遊んでくれそうな友達はできた?」
「須賀がよく絡んできてくれるな」
「須賀くんか……じゃあ須賀くんを誘ってどこかに遊びに行くのはどうかな」
「訊いてみるか……」
スマホで須賀にメッセージを送る。
数分して既読がつき、さらに数分して返事がきた。
「愛遊も来るのか、って訊かれた」
「行くつもりだけど?」
「来るつもりなら、愛遊から桜井さんを誘ってくれないか、って言われたんだが」
「桜井さんって、実里ちゃん?」
俺たちと同じクラスの桜井実里さん。
愛遊とはそれなりに仲が良いらしく、話している姿を結構見かける。
「なんで私に頼むの?」
「自分で誘う勇気が持てないから。らしい」
「えっと………………ああ、そうか、わかった! 須賀くんは実里ちゃんが気になってるのね。だから、私に誘って連れて来てほしい、と。私たちを利用してダブルデートしようってことか」
「そういうことだろうな。これは……面白そうだ!」
「ええ、面白そう! 任せて、絶対に実里ちゃんを連れて行くから」
愛遊はさっそく実里さんにメッセージを送る。
数回のやり取りを経て、十分後には笑顔で親指を立ててきた。
ここから百八十度向きが変わって、指が下を向く可能性もちらっと考えたが、そんなことはなかった。
ということで、人生初のゴールデンウィークに、ダブルデートという予定が加わった。
「さて、圭介くん。ただダブルデートするだけじゃつまらないわよね? ここは須賀くんと実里ちゃんをくっ付けてあげたいところ。そうしないと撮れ高がないから」
「なんの撮れ高だよ……ってツッコミはしないけどさ。セッティングをしてやったんだから、もうちょっと世話焼いてやりたいよな」
「あの二人の今の仲ってどんな感じ?」
「そんなに親しいようには見えないような……俺は須賀が桜井さんを狙ってることは知らなかったぞ」
「じゃあ仲良くなるところからね。どうしたらいいのかしら?」
「う~ん……過去の経験からすると、初共演する人でも、対決企画をすると仲良くなりやすかった気がする」
「それだ! 共通の目的を持って、気持ちを一つにして戦う。勝ったらなおのこと距離が縮まるはず」
「じゃあ俺たちは、うまいことトス役を務めるってことだな。それで、どこでなんの対決をするんだ?」
「そうね……」
遊びらしい遊びをして来なかった俺たちでは、いくら考えてもアイディアは出て来なかった。
気持ちを切り替えてテレビをつけてみた。
すると、市内にある大型アミューズメント施設のCMをやっていた。
ボーリング、カラオケ、ゲームセンター、フットサルコート、バッティングセンター、バスケのフリースロー、などなど。
様々な遊びができるらしい。
「ここだな」
「ここね」
ということになった。




