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元・天才子役は一般人になりたい  作者: 宵月しらせ


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第5話 偽装カップル

「で、実際のところどうなんだ? 本当に皆川さんと付き合い始めたのか?」


 須賀が俺の隣に座り、噂を深掘りしてくる。

 周りは他の男子に囲まれ、逃げ場がない。


「どうって言われてもなぁ」


 答えに(きゅう)し、返事を保留しながら愛遊(あゆ)に視線を向ける。

 愛遊も同じように女子に囲まれ質問攻めにあっているようだ。

 こういうことになると知っていたら、事前に打ち合わせをしていたのに。


「状況証拠は揃ってるんだ。後は自供だけ。素直に吐いて楽になっちまったらどうだ?」

「……刑事さん、カツ丼でも出ねぇんですかい?」

「弁当に冷凍のエビカツが入ってるからそれを一個やるよ」


 適当にボケたのに絶妙にニアミスしてくるんじゃないよ。

 言ってしまった手前、話を回避しにくいじゃないか。


「別に悪いって言ってんじゃない。むしろ歓迎してる。梨野は顔がいいから、女子から人気が出そうだ。さっさと相手を決めて、しかもオレたちには手が届かない高嶺の花になりそうな皆川さんが相手っていうなら、他の女子がフリーになる分むしろありがたいまである」

「計算高いなぁ」

「で、結局のところどうなんだ?」


 さて、どう答えたものか?

 イエスと答えれば、セットで見られることが多くなるだろう。

 ノーと言えば、じゃあどうして弁当が同じなのか、一緒に買い物していたのかを深掘りされるだろう。


 付き合ってもいないのに、どうすればそんな状況になるのか……うまい言い訳が思いつかない。

 おかしな理由をつけて完全否定しようとすれば、余計に怪しまれることになる。

 

 今重要なのは、俺たちが夏海流々(なつみるる)春海楽々(はるみらら)だという過去を隠すこと。

 それが達成できるなら、多少のことは受け入れるべきではないだろうか。

 つまり、愛遊と付き合ってるということにするのも、やむを得ない。


 問題は愛遊がどう答えるかだ。

 俺と違う答えをされたら、ちょっと厄介なことになる。


 もう一度愛遊に視線を送る。

 ちょうど目が合って、覚悟を決めたような顔になっていた。

 ……どうやら意見は一致したようだ。


「カラオケの後に二人で話す機会があってな。気が合うみたいだから、付き合うことにしたんだ」

「……マジかよ。会った当日に? 東京から来たやつらは手が早いな」


 それは語弊があると思うが……というか、都会よりも田舎の方が結婚早いイメージあるぞ。


「いきなり付き合うのはまだしも、すぐに弁当作ってもらったりとか一体どうやってるんだ? その魔術レベルの落としテクを伝授してくれ」

「魔術って……」


 まぁ本当にそんなやつがいたら魔術レベルだよな。

 魔術っていうよりも催眠って言う方が合ってるかもしれないけど。


「まぁその辺は企業秘密だな。軽く言うと……誠心誠意だな。ちょっとごめん」


 ある程度話をしたからか、囲まれていても案外すんなり通らせてもらえた。

 愛遊に近づいて、外を指差す。


「呼ばれたからちょっと行ってくるね」


 そう言って愛遊も囲んでいる女子たちの輪から抜けて、二人で教室を出た。

 休み時間に連れだって外に出たことで、クラスメイトたちから囃し立てられる。

 ちょっと恥ずかしいが、緊急事態だ。

 人気の少ないところに移動して、打ち合わせをする。


「まさかこんなに早くバレるとは思わなかったよ」

「ああ……ほぼ最短で見つかったな。というか、俺たちがあまりにうかつすぎた」

「どうやって切り抜けたらいいかわからないから、付き合ってるって説明しちゃったんだけど、大丈夫だった?」

「俺も同じことを言って切り抜けた」

「いいお友達です――って言う手も考えたんだけど、いかにもな切り返しだからやめておいたよ」

「それは最悪だから思い止まってくれて助かった」


 たぶん熱愛発覚した芸能人しか使わない言い回しだ。

 元芸能人を隠したい俺たちが、絶対に使っちゃいけないフレーズのはずだ。

 

「じゃあこれからは恋人のふりをするってことで」

「ああ……ウソがウソを呼ぶな」

「ドツボにハマってるねぇ。まぁ恋愛を隠すんじゃなくて、偽装カップルっていうのは、()()()ないからいいんじゃない?」

「ある意味そうだな」


 芸能人なら、恋人の存在を隠すのが一般的だ。

 偽装カップルという存在は、芸能人から最も遠い行動かもしれない。

 なら、正体を隠すための方針としては理に適っているか……。

 

 少し不安はあるが、俺たちは様々なドラマや映画に出演してきたプロだ。

 素人のクラスメイトを騙すくらいの演技はわけない。


★★★


 その日の放課後、一緒に帰路に着く俺と愛遊は、どちらからともかく手を繋いだ。

 アピールするかのように、教室を出た直後から。

 

 これはかなり恋人っぽいはずだ。

 ちなみに、打ち合わせもしていなければ、照れもない。

 このぐらいのことは数えきれないくらい繰り返してきた。


 ……いや、思ったより気になるな。

 昔とは愛遊の手の感触が全然違う。こんなに細かったっけ?


「圭介くんの手、ずいぶん大きくなったね」


 ああ、そういうことか。

 当たり前にしていたことでも、時間が経てば変化も起きるか。

 とはいえ、手を離すことはできない。

 そんなことしたら、まるで意識してるみたいで恥ずかしい。


 だから逆のことをしてやる。

 いっそ恋人繋ぎだ。


「うわっ、なにいきなり」


 指を絡めて深く握ると、愛遊が変な声を出した。

 とはいえ、イヤがっている感じではない。純粋に驚いてるだけっぽい。


「結構視線集めてるから、強調しといた方がいいと思って」

「別に怪しまれてないからそんなことしなくていいと思うけど」

「いいんだよ、これくらいで」


 今さら愛遊の手を握ったってくらいで、ちょっとドキドキしたなんて認めたくない。

 こんなのたいしたことない、って自分に言い聞かせるためのものだから、少しやりすぎなくらいでちょうどいいのだ。

 

 で、恋人繋ぎまでしてみた感想だが……まぁこんなもんだな。

 最初は少し緊張したけど、もう慣れた。愛遊が相手じゃドキドキは長続きしない。

 ヘタすると家族より一緒に時間を過ごしてたやつだもんな。


「そんなに強調したいなら、こうしてみる?」


 油断した瞬間、愛遊が俺の腕に抱き着いてきた。

 いや、さすがにそれはやりすぎ……。


「あれ、なんか顔が赤くなってるし、心臓の音が聞こえてるけど? ドキドキしてるの? かわいいところあるじゃん」

「…………いや、おっぱい押し付けられてるから」


 そう、自分でもうるさいくらい心臓の音が大きくなっているけど、断じてときめいたわけではない。

 ただの性欲だ。


「グラドルと仕事することがたまにあっただろ? 憧れのお姉さんみたいな感じで、それですっかり巨乳フェチになったんだ。愛遊もそれなりのサイズになってるから、その頃を思い出してつい思い出し興奮を……」


 俺は何を言っているんだ?

 まぁグラドルのお姉さんのおかげで、巨乳好きになったのは事実だが……なんの弁明だ? 弁明になっているのか?


「まぁつまり、愛遊にドキドキしてるわけじゃない。愛遊のおっぱいにドキドキしてるだけで――」

「なんかそういうこと言われると恥ずかしくなってきたな」


 そう言って、愛遊が俺の腕から離れる。

 ああっ、もったいないことをした。

 余計なことは言わず、もっとおっぱいを堪能していればよかった。


「圭介くん、そういう目で一切見るなとは言わないけど、少し自重して。わかった?」

「……はい」


 愛遊に冷たい目で見られ、ちょっと居心地悪い帰り道になってしまった。

 だが、手を繋いだり、腕に抱き着いたりの一連の動きは周囲にインパクトを与えたらしく、俺たちが付き合っているというのはゆるぎない事実として認識されるようになっていった。

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