第3話 比翼の鳥
そして三年以上ぶりに二人で歌って踊ってみたが……。
いやぁ……ヘタ!
思っていたより息が合わない。
双子以上にそっくりで、完璧にシンクロしてると言われた俺たちなのに、ブランクがあるとこんなもんか。
まぁ当時とはなにもかも変わったからな。
あいまいミラーリングを最初に歌った時は、身長がミリ単位で同じだった。けど、今は二十センチくらい違う。
合わなくて当然か。
長年の相棒とシンクロできなくなっていたのはショックだが……これなら正体がバレることはないから、まぁいいか。
「え、なに二人ともめちゃくちゃ歌うまくない?」
「振付も後ろのMVと一致していたし……っていうか、二人とも歌詞もMVも見ないで完璧にやってなかった?」
あ、しまった。自分のパフォーマンスに夢中で、その辺を気にするの忘れてた。
っていうか、MV流れてたのかよ。
この曲の頃って楽々に合わせて衣装作ってたから、女装してるんだよな、俺。
どっちがどっちか区別がつかないくらいの美少女っぷりとは言われていたが、今思うと死ぬほど恥ずかしいぞ。
「歌とか習ってたの?」
「うん。いろいろ習い事してたから、その中にボイスレッスンもあったよ。それで歌には少し自信はあるんだ」
楽々がギリギリ危ないところを通りながら、核心部分にだけは触れないように返す。
言い淀むこともなく、ごく自然な振る舞い。知らなければ、まさか自分の歌を歌った直後だとは、誰も思わないだろう。
さて、頃合いかな。
楽々を部屋の外に連れ出すか。
俺は自分のグラスに残っていた炭酸水を一気に飲み干した。
「ドリンクバー行くけど、なんかほしい人いる?」
俺がそう言うと、数人からリクエストがあった。
俺も含めて六人分。
よし、おあつらえ向きにちょっと多いぞ。
「一人だと大変だから、皆川さんも来てくれる?」
「あっ、うん。いいよ」
こうして二人で部屋から脱出し、二人きりになることができた。
部屋を出てドリンクバーに向かう途中、楽々から話を切り出してきた。
「久しぶり。最近なにしてた?」
「三年ぶりだって言うのに、その三週間ぶりくらいの軽いテンションはなんだよ」
そういう俺だって、三年ぶりとは思えないほど砕けた態度を取ることができた。
久しぶりだから少し緊張するかもと思っていたのだが……俺たちの間にそんなものはありえないか。
「三年かぁ……それまで毎日みたいに会ってたせいか、たった三年って感じじゃないね。もっとずっと長いこと会ってなかった気がする」
「じゃあ余計に軽すぎるだろ」
「へへっ、かもね」
ずいぶんと雰囲気が変わって、別人みたいに大人っぽくなっていたから、最初は楽々だとわからなかった。
でも、ちょっと変な笑い方は以前と変わっていない。
今さらだけど、なんか安心した。
「で、なにしてた?」
「そうだなぁ……あがいてた」
「奇遇だね。私も。で、いろいろあきらめた」
「奇遇だな。俺もあきらめたところだ」
「離れ離れになっても、実は似たような道を歩んでいたとは。つくづく縁があるね」
「そうだな」
具体的な話はなにもしないが、短い言葉の端々から、それでも伝わってくるものがある。
一緒にデビューしたのは、四才の時。でも、その頃のことは全然覚えていない。
俺の一番古い記憶は、五才の時のもの。それは家族とではなく、楽々と一緒にいる時のものだ。
だから、俺からしたら、楽々は生まれた時から一緒にいるような感じだ。
あの頃の俺たちは切っても切り離せない関係で……でも、いつまでも一緒には歩いていられなかった。
双子以上にそっくりな双子ではない男女――そんな存在は、成長と共に成立できなくなっていく。
別々の人生を歩くしか選択肢はなくなり、それからはもがき苦しんだ。
そして俺は理解した。
楽々もきっと理解したのだろう。
俺たちは比翼の鳥だったのだ。
二人だから飛べた。
一人では地べたを這うことしかできない。
「もうわかってると思うけど、俺は昔のことは知られたくない」
「うん。私もそう。新しく人生をやり直したい」
「じゃあ、秘密を守るために共同戦線を張るってことでいいか?」
「むしろ私からそれをおねがいしようと思ってた」
「秘密を守るためには、なるべく関わらない方がいいと思う。二人でいたら、いつどんな形でバレるかわからないからな」
「それはさみしい。せっかく流々くんにまた会えたのに。これからはビジネスパートナーじゃなくて、友達として付き合おうよ。ダメ?」
と、上目遣いで首を傾げてくる。
耐性がない男なら、一発で落ちてしまうところだろう。
でも、俺には効かない。どれだけ見た目が変わっていても、楽々は楽々だ。
こいつにときめくことなどありえない。
とはいえ、友達としてやり直すには賛成だ。
バレないためには関わらない方がいいのは、あくまでも理屈の話。
過去を隠すのは重要だが、高校生活で一番大切なことではない。
「これからまたよろしくな、楽々ちゃん」
「うん……っていうか、楽々ちゃんやめろ」
「そっちも流々くんやめろ。本名で呼べ」
「本名……梨野圭介くん。うわ、誰のことか一瞬わからなくてキモイ」
「キモイって言うな。俺も皆川愛遊って聞くたびにキモく思ってるのを黙ってるんだから」
「ちょっ、ひどいひどい! そういうこと言ってると、いつどこで間違えて流々くんって呼ぶかわからないぞ」
「そういう脅しはマジで怖いんで勘弁してください」
「へへっ、じゃあ許してあげる」
こうやって話していると、二人で同じ楽屋を使っていた頃に戻ったみたいだ。
いろいろ変わったけど、結局俺たちはなにも変わってないのかもしれない。
成長してないみたいで少し複雑だけど、あの頃のように楽々と話せるなら、きっと悪いことじゃない。
★★★
カラオケが終わって、それぞれ帰路につく。
「ら……皆川さんは家はどっちの方向?」
他の人の姿が見えなくなったので、つい気が緩んで馴染んだ名前を言おうとしてしまった。
危ない危ない。
「なんか名字で呼ばれるの他人行儀でイヤだな。私と君の仲だし、呼び捨てでいいよ。圭介くん」
「わかった、じゃあ愛遊で。それで、家はどっちの方? 家族でこっちに来たのか?」
「ううん、私一人だよ。家族は東京で仕事してる」
「あー、うちと同じか。知り合いがいない遠くに行きたいって言ったら、『自分の金で暮らすなら勝手にしていい』って言われた」
「うちもうちも。どこまでも奇遇だね」
奇遇っていうか、そもそも家庭環境が似てるんだよなぁ。
「ってことは、愛遊も一人暮らしか」
「も、ってことは圭介くんもだね? なんだ、圭介くんもこっちで一人暮らしするって知ってたら、一緒に住もうって声かけてたのに。その方が安上がりだしさ」
「俺たちは一応年頃の男女で、元芸能人だ。一緒に住むのはまずいだろ」
「まぁそうだねぇ。私としては、圭介くんとなら全然気にしないけど」
艶っぽい意味で言っているのではないだろう。
俺と愛遊の関係からすると、一緒に暮らしても同棲にはならない。
兄妹で同じ家に住むのに近い。
つまり同居感覚なのだろう。
「で、家はどこだ? ここまで同じ方向ってことは、もしかして結構近所か?」
「かもね。たまにお互いの家に遊びに行っちゃう? 食事を共同で用意するとコスパ良くなるよ」
「金に困ってるの?」
「困ってはいないけど、貯めまくった昔の貯金とか、その時に買っておいた株の配当金とかで高校三年間を暮らすつもりだから、贅沢できるほどじゃないって感じ」
「生活費の出どころまで俺と同じかよ……投資先まで同じじゃないだろうな?」
そうして歩いていると、大きなマンションが見えてきた。
タワマンというほど大きくはないが、この辺では一番立派なマンションだ。
「このマンションの四階が私の家」
「……………………へぇ」
「まぁちょっと家賃が高いんだけど、やっぱ元とはいえ芸能人だったので、セキュリティには妥協できないな、と思って。さらに単身者用の部屋があるマンションとなると、ここくらいしか選択肢がなかったんだよね」
「……本当に気が合うな」
「うん?」
「俺もまったく同じ理由でこのマンションを選んだんだ」
まさかここまで一致してるとはな。
「…………何階?」
「四階。409号室」
「私は410号室」
「隣じゃねぇか!」
どこまでだ⁉
どこまで一致が続くんだ⁉
「圭介くん、まさか私のストーカーじゃないよね⁉」
「それは俺のセリフだ! いつ入居決めたんだ?」
「えっと……先月の二十六日」
「俺は二十五日に決めた! よし、俺が先! ストーカーはそっち~」
そう言って、愛遊の顔を指差す。
「違うもん! 私ストーカーじゃないもん!」
「悪いやつはみんなそう言うんだよ!」
「違うもん!」
まるで小学生のケンカのように騒ぐ俺たち。
もう高校生なんだから、ちょっとは大人びたふるまいをした方がいいのはわかってる。
でも、こうやって愛遊とじゃれ合うのは、昔に戻ったみたいで楽しい。
そうだ。昔もこうやって二人で遊んでいた。
仕事に行けば、周りは大人ばかり。
学校では、当たり前だがかなり浮いていた。
素の自分として付き合えるのは、愛遊しかいなかったのだ。
「あははははっ!」
「へへっ、へへへへへっ!」
ケンカが一段落した後、二人で笑った。
教室で愛遊を見つけた時はどうなるかと思ったけど、今は再会できてよかったと心から思う。
愛遊と一緒なら、高校生活は間違いなく楽しいものになるだろう。
「じゃあ、今日はどっちの家で遊ぶ?」




